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#22 ユイの使命

「ロードコードさまが封印地に着いたとき、現場でも異変に気付いていました。そっちからも私に伝書鳩が来てましたから。黒龍にかけられたシールは三重。一番内側の封印がやぶれていました。ロードコードさまはすぐにシールのかけ直しを行いました。ただ、どうあっても歳です。当時ほど魔力が満ちていないため、一度かけても、黒龍から浸み出る魔力で数時間で剥がれる、この繰り返しになりました。つまり、放っておけば……」

「そのうち全部破られちゃう!」

 ユイが大股を開いて、リカに指を突きつけている。リカはにこりと返す。

「何度か試したあとなんでしょう、最初の伝書鳩を受け取ってから二日後、ロードコードさまから再び伝書鳩がありました。シナリオを実行しても対処できない場合、予定通り一か月後にリスクを使ってシールすると。なんとかなりそうであればそれまでに連絡をと。魔通信を使ってユイさんに連絡したのはそのあとです」

「リスク……」

 ユイの顔から色が消えた。さすがにこれは覚えているようだ。自分の鼓動も早くなっているのがわかる。リスクは自分の命と引き換えに魔力を何倍にも高める魔法だ。今のロードコードのシールでは止められなくとも、リスクシールにすればどうにかなるだろう。メイの頭の中では、今から自分たちを待ち受ける運命がパズルのように組み合わされ、形をとりはじめている。

「どうにかして……その事態を避けたいと考えています」

「あたりまえです! 避けなくちゃ! カズキさんを助けなくちゃ!」

 ユイが泣きそうな顔をしてリカの手をとった。震えるユイの手をリカが優しく包む。

「……どういうシナリオが用意されていたのか……それを今から説明します」リカはユイの手をメイに預けた。ユイがぎゅっと掴んでくる。

「話は単純明快。黒龍にかけたシールが破れた場合、誰かがかけなおさなくてはいけない。ロードコードさまはご自身の魔力の衰えをわかっていましたので、自分では役者不足だということを認識していました。シナリオの最終手段は、先ほど申し上げたとおり……ロードコードさまによるリスクシールです。その手前の段階にあるのが……」

「ロードコードさまを超える魔力の持ち主によるシールを検討すること……ですか?」

 自分の声がやたらとからからと聞こえた。リカが頷く。

「メイさんにとっては……いえ、誰でもかな? すぐに考え付く簡単な解決方法です。しかし、これがめちゃくちゃ……めーちゃくちゃ難しいということもすぐにわかりますよね。メイさんユイさん。先ほど、黒龍の封印は三重にかかっていると言いましたよね。さあて、あなたたちが習った勇者キヨの黒龍退治のクライマックスはどんなお話でしたか?」

「えーとえーと……勇者キヨには仲間が三人いたんですけど、そのうち二人が黒龍の動きを命を張って止めて……カズキさんがメガファイアでひるませて……その間にキヨが聖剣を黒龍の……何ていうんだっけ……えーと、ほら、ここここ」

 ユイが眉の間を指で指す。

「眉間」

「そうそう! 眉間! 眉間に突き立ててやっつけた! うーんかっこいい!」

「いやいや! それがフィクションだったって言ってるでしょーが!」

「そう……それはフィクション。ただし、事実にかなり近いフィクションです。事実はどうかと言いますと……まあロードコードさま曰くなんですけど、とても勝てないと判断したキヨのパーティは、ある決断をしました。動きを止めたことになっている二人がリスクシールをかけたんです。なので、ぼんやりとは合ってる」

「そ、そうなの?!」

 ユイが驚く。メイは、三重にかけられたシールと聞いたときから、その可能性が高いと思っていた。当時のパーティは、キヨとロードコードが若手の、いわゆるホープで、後の二人は当時の大魔法使いだった。未来をつなぐため、老兵は礎となった。そういうことだろう。そして時を経た今また、同じことをロードコードがしようとしている。

「その二重のリスクシールの上から、ロードコードさまとキヨが二人でシールをかけた。それが三重のシールです。破られたのがどれなのか、私にはわかりませんが、どれもそう強度は変わらないと聞いています」

「ふ、二人でシールなんてかけれるんですか?! 初めて……聞きました」

「私も……。まあいつものことだけど。なはは」

 リカが難しい顔になる。

「可能は可能です……。ただし、かなり特殊な条件じゃないとできません。お互いの魔力の特性と量をぴたりと合わせる必要があります。シールなので、全ての場所が同じプロパティじゃないと意味がない……弱いところがあると、アリの一穴というやつで、一気に崩壊しますから」

「それは……論理的に……事実上不可能なのでは……」

 思わず口に手をあてがってしまう。嫌な癖。わかっていても治せない。

「私もそう思うんですが……なんせ生き証人がそういうから……そうなんでしょう。あんまり聞いても教えてくれなかったんですよね、ここは。えへへ」頭をかくリカを見て、「ん? どういうこと?」とユイが同じようなポーズをとった。

「魔力には色があるでしょ? ユイは火、私は水みたいに。でもそれは何かに振り切ってるわけじゃなくて、水80%火5%土8%……みたいなミックスになってるわけよ。その割合を一致させて、しかも魔力量も合わせたシールをすれば……複数人でかけれる……らしいよ……いや、そんなこと……量はまだしも、特性を合わせることなんてできる気がしない……」

「そうなの?!」ユイが目を見張る。おそらく、そんなこと考えたこともないのだろう。

「そうだよ! じゃあ今から水一〇〇%の魔力でウォータウォールしろって言われても……私はできない……絶対他のエレメントが少しは混じる……これは持って生まれた特性みたいなもんだから」

「難しいんだなぁ……でもさ、そんなのどうやってわかるの? あ、でもあれだ。確かにほら、あのとき。夏! 夏だよ! 高等で放課後にみんなで水遊びしたじゃん! だから夏だ! 間違いない! そんとき思ったんだ! 味が違うって! その方法だね!」

「もうちょっと……話を飛ばさずにしゃべってくんない?」

 いつものことではあるが、飛躍しすぎるユイの話に理解が追い付かない。

「ええとねええとね。あのときは水系の魔法使いがみんなで水を出してくれて遊んだよね! でね。例えばね。メイが出した水と、イチコが出した水は味が違うなって思った! メイのはちょっと辛い。なはは。割合ってそういうことだね多分!」

「え? そ、そうなの?! そ、そんなことあ、ある……あ、あるのか? あ、でも確かにありそうな気もする……え? ほんと?」

 不意をつかれて頭が混乱した。出した水の味なんて考えたこともなかった。

 リカの笑い声で我に返った。

「おもしろいですね! そうか、メイさんのは辛いんだ……てことはちょっと火が強いのかも? ユイさんよく観察してます! 確かにそれはあります。でも一般的な鑑別方法ではありませんね。だってそれじゃあ水はわかるけど、火は無理でしょう? 食べられます?」

「あ! そっかー! うーん……」ユイが腕を組み、目をぎゅっとつむっている。

「通常は鑑別機を使います。各魔石が入っていて、増幅した上で割合を計算します。確かスコープスでも作ってますよ? 先月もお菓子持って売り込みに来てましたから。あれ美味しかったなぁ。えへへ」

「私まだ着火盤しか作らせてもらえてないんです……えー……それよりいいなぁお菓子……もしかして、私もリカさんの丁稚になったから、そういう接待してくれるのかな? 親方がきたらどうしよう! うげえ! てめえユイ! お前に頭をさげることになるとはぁ! とか言うのかな? なはは。ところでどんなお菓子だったんですか? 私、果物がのってるやつがいいなぁ!」

 この二人に任せておくと、どうも寄り道ばかりでなかなか話が進まない。肌寒さが少し増してきたので、メイは「えへん」と咳ばらいをした。リカが「おっと」と口をすぼめた。


「鑑別機は執務室に一つ持っているので、せっかくだから後でやってみましょう! 今は黒龍のシールの話ですね。まあ、そんな感じで当代の大魔法使いが命をかけて張ったシールなんです。それをリスクを使わずに凌駕する魔法使いがいるのかよって話! ……少なくともここ八十年は現れなかったわけです」

 リカがちらりとユイを見て、真面目な顔になる。

「ユイさん……ロードコードさまの命を救えるのは……あなたしかいない。あなたのとんでもない魔力じゃないと……黒龍は抑えられない」

 とうとう口に出されてしまったユイの使命を噛みしめるように、メイは目をつむった。体温が少し下がってきた。



続く

用語解説

【地名等】

 ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。

 シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。

 パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。

 バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。

 レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。

 ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。

 ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。

 アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。

 パークライナ ロンドリームの町。西州の端にある。高等魔法学校がある。

【人物】

 ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。

 メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。

 ケイト・ファン ユイの勤める魔具開発会社の上司。

 カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。

 ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。

 ジロー 警察官。

 リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。

 黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。

 マキオ 黒龍退治の際のキヨのパーティメンバ

 ユキト・カトー 魔法府長官。白髭の紳士然としたスタイル。

 シゲル・オースミ 魔法府参事官。小太り。

 ナギ 魔法府省庁調整課

 

【魔法】

 ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。

 ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。

 ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。

 シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。

 エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。

 グラビティカ 重力を操る大地系魔法。

 テレポ 空間移動を行う時空魔法

 シール 封印魔法

 ウォータウォール 水の滝を作り出し、主に防御に使用する水系魔法

 リスク 自らの命と引き換えに魔力を増大させる


【物等】

 高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。

 魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。

 消魔香 魔力を封じる香木。

 五元素 地火水風空

 クラス S―A―B―C とある。クラスごとの人数比は三百倍程度。例、Cクラス三百人に対し、Bクラスが一人輩出される。

 スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。

 ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。

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