表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

#16 現王と次期王


「……本当に大丈夫ですか?」

 リカが心配そうに耳打ちしてくる。

「ユイはこんな感じで独り言をぶつぶつつぶやいて……言葉を組み立てながら、自分の考えをまとめようとするんです。まとまらないから最後パンクするんですけど」

 ユイが今抱える矛盾は痛いほどわかる。私達は特別。人間社会のルールはそれが大前提。書かなくても、言わなくてもわかるから誰も気にしない。

 社会を維持するためには――人間が生きていくためには、その根源的な問いかけに答えるわけにはいかない。動物やモンスタ、他民族、他種族と同等の立場という考え方は危険思想でしかない。平等というのは、『人間社会における人間間の』平等という意味だ。

 ユイはつぶやき続けている。

「カズキさんは……消魔香を使ってモンスタを生け捕るって言ってた……それは……モンスタに配慮してるってことだよね……だったらやっぱり……黒龍だってモンスタの一人なんだから……彼の思いをくんであげなきゃだよね……黒龍は……何を考えていたのかなぁ?」

 ユイの真っすぐな考え方は、王国にとっては危険なものになる可能性がある。リカは鋭い。おそらくユイが諸刃の剣であることはわかっている。一体どういう考えで手に入れようとしているのか? ロードコードの手紙には何が書いてあったのか? 現時点ではわからないことが多すぎる。リカは……そう、真の意味でのユイの味方なのか?

「ふう」

 神にも意図が読めぬよう、静かに息を吐いた。

 魔法府に二人で異動できるのは好都合だ。近くでユイをみていられる。私の命はユイが拾ってくれたもの。私もユイを守る。いつでもユイの味方になる。何があっても。たとえ国を敵に回すことになったとしても。



「では、ここでお二人とはしばらくお別れです。ユイさんはこのままザッシュに一度お戻りください。心配していらっしゃる方々もおられるでしょうし……」

 リカがユイにぐっと近づき、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁いた。

「ロードコードさまの安否については魔通信で……ザッシュの行政官経由でお知らせいたします。以後、彼の名前は王宮で出さないで……」

 するりと離れて続けた。

「メイさんは明日一番にここに来てください。辞令を出し、今後のことを色々と説明します」

 荒野から再びテレポで戻ってきたのは王宮の中、魔法府副長官の執政室だった。あまり間を置かずしての高等魔法。さすがに疲れるのだろう。リカは肩で息をしている。

 五メートル四方程度の大きさ。南面がガラス窓になっており、採光は十分。装飾品のように豪奢な書架が東面に並んでいる。窓の前にはマホガニでできた大きな机があった。その横に、小さくピンク色の可愛いデスクが置かれてある。メイはなんだろうとそれを眺めていた。

「あ。これが私の机です。可愛いでしょ? こんな大きな机要らないんですよね。なんなら部屋ももっと小さい方がいいんですけど、秘密の話をすることもあるから、これぐらい大きくなくてはいけません。とか言われちゃいまして。自分の机を入れてもらうこととバータでそこは目をつむりました。えへへ」

「可愛い可愛い! 絶対こっちのほうがいいです! リカさんに似合ってる! そっちのおっきいのはなんていうか……うーん。ザ・おじさんって感じ! ウチの近所にね。貿易でやったらめったらもうけたエチゴっておじさんがいるんですけど、そんなの使ってる!」

 ユイが大声をあげて笑った。



 王宮を出て、二人で駅まで歩く。

「あーなるほど! あのこんもりした山に見えたのはお城の庭だったのか」

 後ろを振り向いてユイが指を指す。

「なにそれ? どういう意味?」

「最初にこの街に着いて見た景色。ドネザル南駅の東口からばあっと周りを見渡したんだけど、人人人、街街街で、うわーってなったんだ。でも、遠くのほうにちょっとした森が一つだけあるなって思ってたの。それが実はここだったんだって発見! 頭の地図がちょっと繋がった! なんだかここでも暮らしていけそうな気がしてきた!」

「のんきだねぇ……」

 はしゃぐユイを見ていると、全てがどうでもよく感じられる。黒龍やら新興国やら、そんなことに気をとられても、仕方がないんじゃないか? こんな風に、今、自分の生きている場所を、立っている場所を確かめることのほうがよっぽど重要かもしれない。そう、思えた。

「メイはこれからどうするの?」

 並んで歩いていたはずなのに、いつの間にか目の前にユイが回ってきていた。

「私? 私は……今から宿舎に帰って一回寝るかな。そんで、夜もう一回寝る。ほんとーに疲れた」エリアシークぐらいで疲れてたらまだまだダメだな。リカを見てそう思ったが、今は身体が言うことをきかない。

「ふーん……じゃあさ! 観光したい! どっか美味しいもの食べれるところに連れてってよ!」

「はぁ?! 今の私の話、聞いてた?」

 胸が弾み、言葉の最後が笑い声と混ざった。

「聞いてたよ。何にも予定がないってことでしょ?」

 ユイは組み合わせた手を頬の横にそえた。お願いのポーズだ。

「やれやれ……まあ、ユイだもんな……あえてこう言おう……」

 人差し指をユイに突きつけ、今出せる力の限りの明るい声を響かせた。

「そーこなくっちゃ!」

「わーい! メイ大好き!」

 胸に飛び込んできたユイの勢いは強く、弱った身体では受け止めきれなかった。二人は一つになって歩道横のサツキの灌木に突っ込んだ。

「ば、バカ! 恥ずかしいじゃない! はやくどいて!」

「なはは……ごめんごめん。あ……メイ、パンツ丸見え! は、はやく直して!」

 スカートの裾を引っ張り、慌てて立ち上がった。

「もー! あんたのせいでしょ! バカ!」

 これがSクラス。現実は都市伝説よりひどい。


 二人で遅めのランチをした。『一応本部が見たい』というので、ユイの会社スコープス本社を外から眺めた。夕方、この魔列車を逃すとアルジャントまで行けないというぎりぎりのダイヤまで二人で喋った。昔話。高等魔法学校の友達の噂話。リカの話。

「リカさんってあんなにすごいのになんで五大魔法使いじゃないの? 私の知ってるのは……えーと……大地のメイリン……火のロードコード……水の……水のカリンだもん」

 ユイが一つずつ指を折る。

「あんたその並びで言わなきゃ思い出せないの? リカさまが水系最強クラスであることは間違いない。メガシークなんて、それこそ使い手いないと思ってた。カリンさまよりも強い魔力を持ってるって噂。でも、就任を断ってるらしい。あくまでこれも噂だけどね。ロードコードさまの意向があるともないとも言われてる」

「……どういうこと? ちょっとわかんないそれ」

「大魔法使いって忙しいんだよ。まあ、いわばスターだから。色々やらなきゃいけないこと多いしさ。そうなるとリカさまは役所を辞めざるを得ないかもしれないでしょ? 二足のわらじはキツイぜー? しかも、魔法府副長官と大魔法使いなんてさ。ロードコードさまが教授職でモンスターハンタやってるのもそういうこと。五大魔法使いとしての公務が忙しいから、趣味的な活動をメインにしてるんだよ。リカさまの地位だからこそ得られる情報ってかなりあるからね。なんせナンバーツーだから」

「え? じゃあ、カズキさんが国の運営に深く関わっておくために、人質のようにリカさんを国の役人としておいてるってこと?! それはひどいよ! リカさんが可哀相! ええー! そんな人だと思ってなかったのに……」

 ユイの頬があからさまに膨れた。

「噂だよ。う・わ・さ! ムキになるなって! 面白いのは、まったく反対の別の噂もあるってとこかな……」

 わざと言葉尻を濁した。ユイが食いつくのを待つ。

「え! ど、どういうこと? 反対? 何が?」

「ロードコードさまを国政に関わらせるために、リカさまがわざと役人で残ってるって噂。この場合、首謀者はリカさまだ。国を回していく上で、尊敬する師匠の力を借りておきたいってところかな?」

「あー……もうやめよう! この話! わっかんない!」

「わっかんないだろーね。でもさ、こんなのまだ序の口だよ。王宮のパワーバランスとか人間関係ってのはほんとすごいから。リカさまは常に噂の中心。さっき、自分でもちょっと言ってたけど、現王派と次期王派の争いの真ん中にいるからね」

「げんおうはとじきおうは……げんおうはとじき……」

「えーと……今の王様と次の王様ってこと」

「うーん……? なんか問題あるの? 今の王様が辞めたら、王子様が次の王様になるんじゃないの? なんで喧嘩する必要があるの?」

「まあ、単純にいっちゃえばそうなんだけど……次期王最有力候補の第一王子の素行が悪いって評判知らない? 色々変な噂もあるんだよ。シェルドンと秘密裏に取引してるとかなんとか。ついでにリカさまは現王と仲が良くって、現王自体も第二王子に継がしたいって思ってるって言われてる。ところが、魔法府長官は次期王派で、現王にはさっさと退位してもらいたいって思ってる……って話。まあ、全部噂なんだけど」

「一言で言っちゃう! 全然知らない! なはは」

「ま、そうだろね。たださ、魔法府に入るんなら、ここはほんっとーに……注意しておいたほうがいいよ。人間関係の根幹みたいなとこになってるから。ただまあ……魔力だけの勝負ならリカさまの圧勝らしいから、次期王派が変なことはしてこないと思うけど……たぶん大丈夫」

「よくわからんけど、まーメイが大丈夫ってなら大丈夫なんでしょ?」

「たぶんだよ。たぶん! 物事に絶対なんてない。論理的に考えて」

 レールが軋む音が遠くに聞こえた。

「時間か……」

 魔列車がプラットフォームに滑り込んでくる。指定位置でぴたりと止まる。

「上手だね。今日の運転手さん」ユイが興奮気味に言う。

「そういや昔、ユイって魔列車の運転手になりたいって言ってたなー」

「高等の先生にも勧められた。あんたはとにかく魔力が強いからいい運転手になれるって。でもこれぐらいぴしってしてなきゃダメだと思うんだ。私、スピードも航続時間も自信あるけど、こんなにキレイに操作できない」

「そうかな? とにもかくにも魔力だと思うけどね」

 魔列車は『動力の魔石』に魔力を与えることで動いている。これだけ大きなものを長く動かすには相当の魔力が必要であるため、魔列車の運転手はエリートの証として、子供にも人気がある。クラスCではなりたくてもなれない。

「うんん。やっぱり、おもてなしってぴしってしてなきゃダメだと思う! 見てて気持ちいいもん!」

 ユイは笑って乗り込んだ。


 ユイを見送る。ちょっとしたらもしかしたら、二人で一緒に仕事ができるかもしれない! 夢みたい! ユイは列車の扉を閉めるときまでずっと笑顔だった。

 重い体で宿舎に着いた。

 明日からの自分、魔法府のメイはどんな自分なのだろう? ずいぶんな変化。王宮の真ん中。権謀術数渦巻く世界。メイは大きな不安と少しの期待を胸に、深い眠りに落ちた。疲れていた。

用語解説

【地名等】

 ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。

 シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。

 パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。

 バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。

 レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。

 ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。

 ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。

 アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。

 

【人物】

 ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。

 メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。

 ケイト・ファン ユイの勤める魔具開発会社の上司。

 カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。

 ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。

 ジロー 警察官。

 リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。

 黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。

 マキオ 黒龍退治の際のキヨのパーティメンバ


【魔法】

 ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。

 ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。

 ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。

 シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。

 エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。

 グラビティカ 重力を操る大地系魔法。

 テレポ 空間移動を行う時空魔法

 シール 封印魔法


【物等】

 高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。

 魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。

 消魔香 魔力を封じる香木。

 五元素 地火水風空

 クラス S―A―B―C とある。クラスごとの人数比は三百倍程度。例、Cクラス三百人に対し、Bクラスが一人輩出される。

 スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。

 ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ