#13 信用
「と言ったものの……実はまだ確信しているわけではありません」
リカがウインクしながら指を立てる。
「ど、どういうことですか? かくしん?」
「あなたがロードコードさまの言ってるユイさんなのかどうかってことです。いや、九十九%そうだと思っているんですよ? 今、メガシークで確認もしましたから。ユイ・アムルさん。十五歳。火の魔法使いCクラス。身長百五十三cm。体重……」
「あー! 言わないで! ダメ! 最近ホント太ったから!」
リカの口を押えにいこうとすると、首の後ろを引っ張られた。
「バカ! 何やってんの! もう! 私、今ほんとへとへとなんだから、無駄な体力使わせないで」
「あ、ご、ごめんなさい! リカさんはナンバーツーナンバーツー!」
「何よそれ……」メイがしかめっ面になった。
「自分を戒める呪文! 今のところあんまり効果はないけど」
リカがくすりと笑った。
「ロードコードさまがあなたを気に入った理由がなんとなくわかりました。ただ、まだ信用するわけにはいきません。ロードコードさまから何か……聞いてませんか? そーだなぁ……私に会ったらあーしろこーしろ、といったようなことを。私ね。もともとあんまり人に頼りたくないって性格もあるんですけど、立場的なこともあって、結構用心深いんですよ。王宮ってそーとーめんどくさい場所なので。ゴシップでよく書かれちゃうからご存じかと思いますが、現王派だったり、次期王派だったりってね。たちが悪いことに、噂の真相もあながち遠からずですから。私を騙してうまいこと利益を得てやろうという人間……大勢みてきたので。ほとんどの場合、メガシークでウソかどうかはすぐにわかっちゃうんですけどね」
「それは……悲しいですね」
リカの手をとった。笑顔の中に失望、諦観、寂寥、そういった感情が見えた気がした。自分だったらどうだろう? 簡単に騙されて裏切られたことに後で気づいて……耐えられない気がした。
「なんでユイさんが泣くの?!」
リカが意外そうに笑う。
「わ、わかんないです! 今日は色々ありすぎて、いっぱい泣いて……涙腺が疲れちゃってるんです! きっと!」
本当に色々あった。帰ってこないカズキから始まったこの旅。一応のゴールに今たどり着いている。心の中に過去が飛来しては挨拶して消えていく。
この巻物を持ってリカに会いに行ってほしい。
会いに来ました。ちゃんと……じゃないけど巻物もなんとか持ってます。
「あ、そうか。これか」
リカの目を見て、ぽんと両手を打った。
「これ?」
「あの……カズキさんから巻物を預かってるんです。これを持ってリカさんに会いに行ってってことで。で、これを盗まれちゃって大騒動になっちゃったってわけで。なはは」
ポケットから巻物を取り出し、リカに渡した。
「そーそー! こういうやつですよ。自分の口では何とでもウソが言えますから。多分これはロードコードさまが書かれたた紹介状ですね。魔力の残滓でわかります。確かにロードコードさまのものです。これを見れば……」
リカが巻物を開いたところで固まった。
「……どうし……ました? な、何が書かれてあるんですか? も、もしかして私の悪いところとか……あ! た、体重とか?!」
「いえ……まあ、うーん……見てみます?」
開かれた巻物の表面がこちらに向けられた。
「え?」
隣に覗き込んできたメイも同じように声を上げた。
そこには何も書かれていなかった。白紙の巻物。
「……うーん。どういうことでしょう……?」
リカが眉根をつまんで考え込む。
「あ、あの……リカさんもわからないんですか……?」
おずおずと聞いてみる。巻物さえ渡せば、そこから先はどうにかなるものだと思っていた。
「……えへへ。わっかんないですねー……これは」
リカが頭をかいた。
「でも、こーなっちゃうと別の可能性が出てきてしまうわけです。例えば、ロードコードさまが落とした未記入の巻物をあなたが拾った、とか」
「そ、そんなぁ! 私そんなことしません! 拾ったら百ロンドどころか十ロンドでも交番に届けてます!」
口を尖らせた。
「可能性の話です。そもそもロードコードさまがそんな間抜けなことするとは思えない……だからこれは……彼の……いたずらなんじゃないかと思うんです。それも……意味のあるいたずら。あんまり無駄なことはしない人なので……何か聞いてませんか?」
「何か……」
再び過去が飛び交う。
巻物を持って会いに行ってほしい。
会いました! でも中身まっさらじゃないですか! でも……カズキさんなんか言ってましたね。他にも……。
その際は……リカにも見せてあげてくださいね。ユイさんのホントの力。
ホントの力……見せる……?
「あ」
再び両手を打った。
「なにか……わかりましたか?」
「そういうことか! あー……でもここじゃちょっと……ええと、人気のない場所に行きたいです!」
少しの間難しい顔をした後、リカは口元を緩めた。
「……いいでしょう。付き合います。特別ですよ? まだ百パーセント信じてない状態で、こんな便宜を図ることは滅多にありません」
リカはくるりと身体をひねり、メイを見た。
「メイさん。あなたも来てください。もしかしたら、先ほど私があなたの心に見たイメージにまつわることかもしれません」
メイは目を見開き、かすれた声で「は、はい」と言った。
「このあたりでどこか良いところありますかね? うわー……どこも人でいっぱいだなぁ……都会ってこういうところが不便ですねぇ……」
リカは「ちょっとこちらに」と通りの陰になるところに二人を移動させた。
「今なら大丈夫ですかね……よぉし……おっけい! お二人とも、手を!」
リカがユイとメイに両手を伸ばした。メイがおずおずとリカの手をとる。ユイは何のことかわからなかったけど、ぎゅっと握った。
「初体験だと思いますので、先に申し上げておきます。今からテレポします。ちょっとびっくりするかも」
「て、テレポ?! う、失われた時空系魔法の……あのテレポ?! ……八十年前の黒龍退治に従事していたマキオが最後の使い手で……彼があの戦いで亡くなってからは……後継者がいない……じゃないんですか?」メイが難しそうなことを興奮してしゃべっている。黒龍退治。四人のエース級魔法使いが参戦し、二人は死んだ。生き残ったのはキヨとカズキさん。キヨはあの戦いの後、旅に出て行方不明。カズキさんは今……また黒龍と戦っている。
「えへへ。王国的にはそういうことにしてるだけですよ。レベル一の秘密事項。公然の秘密に近いぐらいの、さほど重要ではない秘密ですけどね。メイさんは役人だし、ずいぶん見込みがありそうだから、いずれもっと様々な秘密を知ることになるでしょうから、見せてもいいと私が判断しました。ユイさんは……さっき言いましたけど、99%信じてるからホント特別にね! ではいきます! テレポ!」
空間がよじれた。色が消え去り、モノクロの世界になる。暗転し、手でつながっているリカとメイの姿しか見えなくなる。声を出そうとしたが、何も聞こえない。腕を動かそうとしたが、脚が動いた。まばたきをしようと思うと、左手の小指が曲がる。何もかもがどこにつながっているのかわからない。遠くにビー玉のように小さな光が見えた。一瞬で大きくなり、目をつむった。
「到着です」
リカの声で、目を開いた。
「……こ、ここどこ?」
まったく見覚えがない景色。ところどころに低い木があり、子供の大きさぐらいの白い石がぽつぽつころがっているぐらいで、あとは何もない。ぐるりに地平線が見える不思議な場所だ。
「ドネザルの北西二十キロ付近にある、誰もいないなーんもない平原です。結構珍しい地形で、半径十キロ程の平地が続いています。私達は、今、そこのまん真ん中に立ってます。たまーにモンスタがうろつくぐらいで人気のなさは格別です」
ピースサインを作るリカの陰で、
「こ、これがテレポ……」
とメイはしゃがみこんだ。
少しだけ周りを歩いてみた。景色が驚くほど変わらない。もともとあまりない方向感覚がてきめんに狂ってくる感覚があった。二人のもとに走って戻る。
「おっけー! これなら大丈夫です! では……やります! うーんと多分、あれかな? そのリカさんに渡した巻物も持ってた方がいいのかな? これに関する話だもんね。ちょっと借りてていいですか?」
「どうぞ」リカから巻物を受け取る。
「ちょ、ちょっと待ってユイ! あんた何をするつもりなの?」
「髪留め外すの。思い出したんだ。カズキさんが、言った言葉。私のホントの力をリカさんに見せてあげてって言ってたの! だからいいでしょ?」
「はぁ?! そ、それはちょっと……や、やめたほうが……」
リカの顔を伺うようにメイが言う。
「構いません。ロードコードさまがおっしゃったのでしょう? なら、大丈夫です。変なことは起こらない……と、思います。多分……おそらく……あ、でもロードコードさまたまに……変なことするからなぁ……えへへ。……ほんとに大丈夫なんでしょうかね?」リカが少し不安そうにメイの方を向いた。
ちなみに。リカは左手を胸の前に出して続ける。
「その髪留めを外すとどうなるんですか? お姫様みたいにオシャレになっちゃうとか?」
リカが笑った。カズキに外すなと言われてから、きつく結んでしまったため、上手く髪留めがとれない。
「オシャレにはなりませんけど……うう……外れない……あ、あの! ちょっと離れててもらえませんか? また変なことしちゃうといけないから!」
両手を押し出し、ジェスチャすると、リカとメイは十メートルほど距離をとった。
もし、なんかの弾みで魔法使っちゃったらまずいもんな。
続く。
用語解説
【地名等】
ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。
シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。
パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。
バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。
レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。
ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。
ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。
アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。
【人物】
ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。
メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。
ケイト・ファン ユイの勤める魔具開発会社の上司。
カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。
ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。
ジロー 警察官。
リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。
黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。
マキオ 黒龍退治の際のキヨのパーティメンバ
【魔法】
ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。
ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。
ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。
シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。
エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。
グラビティカ 重力を操る大地系魔法。
【物等】
高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。
魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。
消魔香 魔力を封じる香木。
五元素 地火水風空
クラス S―A―B―C とある。クラスごとの人数比は三百倍程度。例、Cクラス三百人に対し、Bクラスが一人輩出される。
スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。
ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。




