#12 邂逅
「あ、私のことご存じでしたか。えへへ。正解です。ええと、あなたは……待ってくださいね……うーんと、メイさん。メイ・トルティーヤさんですね」
「は、はい! そうです! な、なぜそれを……」
リカの左目が青く光り、メイは棒のように身体を真っすぐにした。
「だって、今年度の新人職員さんですよね? 同じ王国に勤める身、知ってて当然です」
リカが首をかしげて頬をゆるめる。髪の毛がふわりとなびき、良い匂いが弾け飛ぶ。
「……そ、そんな。王国役人の数……少なくとも数万人は……」
メイが珍しく言葉に詰まっている。自分はまだ状況が理解できていない。突然、リカが笑い始めた。
「えへへ。冗談ですよ。そんなに覚えれません。メガシークしただけです。ごめんなさい。からかっちゃったっ……それに……ちょっと気がかりなイメージも見ちゃいました」
はっとしたようにメイの眉根が寄せられた。
「あの!」
二人がユイを見た。
「説明……してほしいです! だって私だけ取り残されてるから! ええと……一つ一つ順番にいきましょう! まず、リカさんに! すんごいバカな質問かもしれないんですけど、魔法府副長官……ていうことは……つまり……うん。どういうことですか?」
手を挙げると、慌ててメイが制してきた。
「だああ! すんごいバカだよ! ほんと何言ってんのよユイ! 魔法府って言えば、私のいる総務省を含む王国八府省の一番上に立つ最高行政機関でしょ! 勘弁してよ……これは高等じゃないよ! 魔法学校の『公民』で習ったことでしょ! その副長官ってことはナンバーツーってこと! いい? 論理的に考えて! このお方、リカ・トワさまは! この国の行政組織のナンバーツーなの!」
「ええ! そうなの?! あんまりほら、普段の生活で『ぎょうせい』なんて意識しないからさ……なはは……とにかくリカさんすごっ! ってことはわかった!」
親指を立てて返答すると、メイが自分の顔を両手で覆ってうなだれた。
「ありゃメイが……まあいいや! じゃあ次の質問です! メガシークってなんですか? シークのすごいやつ? 多分、これは……うん。習ったことない! 聞き覚えがないもん! こないだもね。グラビティカのこと聞かれたときに、そう、これは聞き覚えがあったんです! 私もまるっと忘れてるわけじゃなくって、ぼんやりなってるだけだから、さすがに勉強してたら、ん? なんだか聞いたことあるぞ? ってなるはず……多分!」
「ピンポンですっ! メガシークは通常学校では習うことのない専門性の高い魔法ですから! 水系の最上級と言ってもいいかもしれません。今、使えるのは私だけかも。効果は単純明快。その人のほぼ全てがわかります。シークでわかるその人の強さはもちろん、名前、身長体重、生年月日、得意なこと、苦手なこと、推し芸人、嫌いな上司……まあ、ざっくり言えば個人情報ですね。プラスアルファ、そのときに感じていること……気にかかってること、深層心理なんかもぼんやり伝わってきます」
リカが意味ありげにメイを見ている。メイは軽く唇を噛んでいる。
「そうなんだ! リカさんやっぱりすごっ! なんでもわかるんだ! あ! じゃあ、じゃあじゃあ! どうしても聞きたいことがあります!」
「えへへ……当てましょうか?」
「え! 突然のクイズ形式! 面白い! ぜひぜひ当ててください! でも多分わからないと思いますよ! あ、待って! 私にメガシーク使うのはナシです! それはずるい! 反則!」
両手で大きくバツを作った。リカは顎に手を添え、「うーん……」と一つうなった。
「……あなたは人を探しています。そのために王都にやってきました」
「えっ! 合ってる合ってる! すごい! そうそう! 聞きたいことってそれなんですよ!」
ユイはリカの腕を撫でた。
「それは……そう……火の大魔法使いロードコードに関係している……」
「わー! ちょ、ちょっと! それはダメです! しー! しー! なやつ!」
リカに顔を寄せ、唇の前に人差し指を立てた。周りには人があまりいない。よかった。
「あなたの捜しているのは……そう、『ロ』の字の人の腹心である、『リカ』という人物」
リカがいたずらっぽく言う。
「うわ……すごっ! リカさんすごい! ここまでわかるってことは……き、期待していいですか? その人の居場所がわかんなくて困ってたんです! ロードコードの家はこちらでござい! みたいな案内があると思ってたのにないし、途方に暮れてるとこでスリにあっちゃうし……もう散々……。でもやっぱり、人生って悪いことばっかりじゃないんだって! アンラッキーの後には必ずラッキーがある! 私はそう信じてて! 運が向いてきた! こないだも十ロンド落としてがっかりしてた後で、百ロンド拾って! 九十ロンドの得だ! ってなったんですけど、警察に届けた後で、あれ? やっぱり十ロンドの損だってなって! ん? えーと違う違う……あ! で、その……リカって人がどこにいるかなんてこともわかっちゃいます?」
「わかりますよ! えへへ……。案外……近くにいそうですねぇ……まあ、ざっと百メールの範囲内にはいるんじゃないでしょうか!」
「ほ、ほんとですか?! や、やったー! もう、リカさん、副長官なんて辞めて占い師やったほうがいいんじゃないですか?! すっごい人気出ると思います! 私には行政の仕事がどんなものかよくわかんないけど、そっちのほうがみんなを幸せにできそうだ! ねえ! メイ!」
メイは目を合わさず、ゆっくりと首を左右に振る。「気付けよ……逆に見直すわ……。ユイ、あんたやっぱりすごいよ……人物が大きいというかなんというか……バカというか……」
「なにが? ……ん? でも確かに今なんか少しひっかかったんだよね……こないだカズキさんのこと気付けなかったときと同じような……まてよ」
リカを見た。にこにことして、何かを待っているようなたたずまいだ。
「ん? あれ? ここにいるのはリカさん……私が捜してるのも……リカさん……」
腹の奥がじんと熱くなった。熱が身体を駆け上がり、顔を赤らめさせている。
「え? もしかして……カズキさんの言ってたリカさんって……」
「そうです。もしかすると私のことかもしれませんね。私と師匠の師弟関係って世間的にまあまあ知られていると思ってたんですけど、そうでもなかったみたいですね」
クスリと笑ってリカは続ける。
「はじめましてユイさん。ロードコードさまの一番弟子……ってことになってるリカ・トワと申します。あなたのお話はロードコードさまから存分に伺ってます」
スカートの裾を持ち上げ、リカがぺこりと礼をした。
「え……ええ! えええええ!」
空を通り抜けるほどの大音響が王都ドネザルを通り抜けていった。
用語解説
【地名等】
ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。
シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。
パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。
バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。
レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。
ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。
ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。
アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。
【人物】
ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。
メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。
ケイト・ファン ユイの勤める魔具開発会社の上司。
カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。
ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。
ジロー 警察官。
リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。
黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。
【魔法】
ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。
ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。
ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。
シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。
エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。
グラビティカ 重力を操る大地系魔法。
【物等】
高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。
魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。
消魔香 魔力を封じる香木。
五元素 地火水風空
クラス S―A―B―C とある。クラスごとの人数比は三百倍程度。例、Cクラス三百人に対し、Bクラスが一人輩出される。
スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。
ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。




