#11 魔法府副長官リカ・トワ
「あんたが窃盗の被害者?」
「は、はい! ゆ、ユイ! ユイ・アムルと言います! ザッシュから来ました!」
思わず立ち上がった。
「さっき、犯人のほうから事情を聞いてたんだけど……あんたに殺されかかったって。街の人からもね。色々目撃情報集めてるんだけど……どうもみんなそういう見立てなんだ。あんたが燃えてたとかそういう証言もたくさんある。まあ、これは集団ヒスでも起こしたんじゃねえのかなって思ってるけどね。ちょっと信じられない。でも、あそこにあいてる穴、あれは目撃証言によるとあんたが魔法でやったんだよね? これは動かぬ証拠だから、まあ、正直どうやったのかわかんないぐらいの規模だけど……どうにかしてやったんだ。なんせ実際あいてんだから」警察は豪快に笑った。
「あ、あの! わ、私……何にも覚えてなくて……穴も多分、そう、多分……あ、いや! メイが言うから間違いなく! 私が開けたんだとは思うんですけど……なんせ……覚えてないんです……どうしたらいいですか? どうなるんですか? 私」
「ははは! 覚えてない……か。そんな言い分は偉い人じゃないと通用しないよお嬢ちゃん。さっきのことだろ? 覚えてないなんておかしいじゃないか。お嬢ちゃんがどうなるか教えてやるよ。窃盗の件に関しては被害者だ。しかし、どうも状況を鑑みるかぎり、過剰防衛があったように推察されるわけ。そうなると加害者ってことにもなりかねない。そこはどう判断されるか難しいところだ。正当防衛の範囲かもしれない。その判断は俺たちの仕事じゃない。俺たちは証拠を揃えて検察に送るだけよ。でもな。あんたは道路、公共財を破壊してる。これは間違いない。しかるべき罪になる」
警察は耳をほじりながらユイに顔を寄せてきた。
「じゃ、じゃあ……私は……」
「しばらく署のほうで留置させてもらうことになるな」
「そ、そんなぁ! わ、私行かなきゃならないところがあるんです! み、みんなにも心配かけちゃうし……」
涙が溢れてきた。
「どうにか……ならないんですか? 悪いのは全て窃盗犯だと思いますが。彼がユイを怒らせて……こんな事態になったんですよ?」
メイが鋭い目つきで警察を睨んだ。
「あんたね。俺を人情から外れた悪徳警官みたいに言うね。どこがだよ。ちゃんと説明してるだろうが。窃盗に関しては過剰、正当どっちになるかわからん。しかし、公共財破損に関しては間違いなく罪になる。あんたも役人なんだからわかってんだろ? この子の知り合いなのか? 知り合いだったら甘くしていいってもんじゃないぜ! 法律ってのはよ!」
「あなたのおっしゃっていることが正しいのはわかっています……」
メイは大きく一つ深呼吸をして下を向いた。。
「しかし、そういう小さな問題ではありません。ユイが私の知り合いだとかそういうことじゃない。ちょっと正確に説明はできませんが……この子は特別なんです。そしてなにより……」
メイの目が再び警察をとらえた。
「知り合いなんてくだらないもんじゃない。親友です」
ユイは思わずメイの手を握った。違う涙がこぼれる。
「けっ!」
警察が唾を吐く。
「いいか? 現場の俺たちには法律を曲解する権限なんてねえんだよ! この法律に抵触する! 捕まえる! あの規則に違反する! 捕まえる! この繰り返しだ! 俺らが従うのはお前の意見じゃねえ! 法律だ!」
「じゃあ! あなたの上司を呼んでください! 曲解できる現場じゃない人をね!」
「こ、こいつ!」
メイがヒートアップしている。頭が良いだけに言い方に角が立つことをユイは知っていた。慌てて止める。
「すとっぷ! すとーっぷ! 喧嘩しないで! はい! 私が行きます! 拘置所でも刑務所でも! いいんです! いつかはどうにかなる! よく考えたらそんなすぐに行かなきゃいけないって用事でもありません! 多分。早ければ早いほどいいんだとは思うけど。なんならあの穴は私が埋めます! ええ! 責任もって! 砂遊びは得意なほうでしたから! 誰よりも長いトンネル作れたんですよ? というわけでスコップと猫車を貸してください! 今からでも始めます! あ、待って。トンネルは掘るほうだけど、これは埋めるほうか……ちょっと。うん、ちょっと得意ではないかもしれませんが……一生懸命やります!」
メイと警察を見た。両方ともぽかんとした顔をしている。
「え……ええと。そうなの……よく考えたらあんまり埋めるって作業はしたことないなって……でもほんと、一生懸命するから!」
とうとうメイが笑い出した。つられるように警察も豪傑笑いを響かせる。
「あんた自分の状況わかってんの? よくそんなのんきに構えてられるわほんと」
「こんなこと立場的に言っちゃいけねえんだけどさ……お前が『何にも覚えてない』って言ってんの……信じれそうだ俺」
メイが警察に向き直る。
「無礼なことを申しまして、大変申し訳ございませんでした。私も一現場の役人として、日々様々な矛盾を抱えています。あなたのお気持ちはわかっているつもりです。わかっているからこそ、どうにかできないものかと、現状を打破できない自分の不甲斐なさと重ねてしまいました。あなたが最初から公正なコメントをしてくださっていることは……本当にわかっています」
深く腰を折るメイを見て、警察が答えた。
「いや……いい。俺もカッカなっちまうたちだからよ……。俺もわかってんだよ。もともと悪いのはあの赤シャツだ。あいつが何もしなけりゃこんなことは起こらなかったんだからさ。お嬢ちゃんは不幸な事件に巻き込まれたんだ。でもよ……俺の立場的にはどうしようもねえんだ。実際、道路は壊れちまったんだから。そのイライラを嬢ちゃんにぶつけちまってた。わりぃ」
メイと警察、二人ががこちらを向いた。
「ユイ……これはもう仕方ないや……。奇跡が起きない限り……どう……どうしようもない……ご、ごめんね……」
メイの目が赤く染まっていく。
「……安心しな。悪いようにはしねえよ。きっちりはするけどな」
警察が肩をすくめた。
「これも……経験かな! メイほんとありがと! 巻物は戻ってきたんだし、めでたしめでたしだよ!」
メイの手をとり、ぎゅっと握りしめた。
「あのー……こちらが窃盗の被害者さんですか?」
警察の後ろに、いつの間にか人がいた。長い髪のキレイな女の人だった。メイと同じ役人の制服を着ている。瞳の色が左右で違い、どこか神秘的だ。
「そうだけど……」
警察は振り向いたとたんに動きを止め、驚いたように鼻孔を開いた。
「あ、あんたは……」
「大変申し訳ないのですが、この件……この女性に関しては魔法府預かりにしますので……警察の方は手を引いていただけると助かります……ごめんなさいっ!」
女性がぺこりと頭を下げた。髪が後ろから前にふわりと舞う。
「緊急のこと故、まだ、総務省の大臣と警察庁長官には話を通していないんですが……事後報告でこらえてもらうつもりです。上司に何か言われたら、魔法府からの要請とおっしゃっていただければ。私がどうにかします。また、道に関しては魔法府が修繕します。コソ泥の赤シャツくんは……普通にそちらで粛々とビシバシとやりこめてください」
頭を上げ、舌を出してにこりとする女性に、警察はとまどいながらも答えた。
「……そうか。わかったよ。あんたがそういうなら……」
こちらに向き直る。
「これは……奇跡かもな」
警察は下手なウインクをして立ち去った。
「ま、待ってください! 名前! お巡りさん! 名前教えて!」
ユイは背中に声をかけた。
「そんなん聞いてどうするんだっての! ジローだよ! すぐ忘れていいぞ!」
「ありがとおー! ジローさん!」
ジローは向き直ることなく手を振った。周りの警官に何かを告げ、全員がユイから離れていく。
「さよーならぁー! ほんとにありがとう! ……で」
ユイは女性と正対する。
「ど、どなたでしょうか? そして……どういうこと? 展開が……ころころ変わって全然わかんなくて……私の頭では……なはは……ついていけてなくて……」頭をかいた。「ねえ、メイ……」メイを見ると、先ほどのジローのように驚愕の表情を浮かべている。
「魔法府……副長官……リカ・トワさま……ですよね?」
続く。
用語解説
【地名等】
ロンドリーム 魔法民族の王国。現存国の中で最も歴史が古い。東州、中央州、西州、島嶼州の四州にわかれる。
シェルドン 科学民族の民主国家。比較的新しい国。技術革命により大国になった。
パランダル 新興国家。民族の別なく受け入れると表明。
バスク 自然民族。どこにも属していない。ロンドリームにもシェルドンにも居住。
レベンナ ロンドリームの町。中央州の中心都市。
ザッシュ ロンドリームの町。海岸沿いにあり、貿易が盛ん。中央州。
ドネザル ロンドリームの王都。東州の中心都市。
アルジャント ロンドリームの町。中央州にある。山間の田舎町。
【人物】
ユイ・アムル 15歳の新米魔法使い。ザッシュで魔具開発会社に勤める。この物語の主人公。
メイ・トルティーヤ ユイの幼馴染。高等魔法学校首席。レベンナで官僚見習いを始める。
ケイト ユイの勤める魔具開発会社の上司。
カズキ・ロードコード モンスターハンタであり、世界的モンスター研究者。若く見えるが百歳代。五大魔法使いの一人。火の大魔法使い。勇者キヨのかつての仲間。
ジン ドネザルにおけるメイのメンタ。
ジロー 警察官。
リカ・トワ 魔法府副長官。行政に残したカズキの腹心。
黒龍 伝説のモンスタ。八十年前、勇者キヨによって封印される。
【魔法】
ファイアプレイス 静置状態の火を起こす火炎系魔法。
ファイアボール 火の玉を飛ばす火炎系魔法。
ファイアモール 高熱の火で穴を掘る火炎系魔法。
シーク 相手のレベルや状態を調べる水系魔法。
エリアシーク 周りの状態を調べる水系魔法。
グラビティカ 重力を操る大地系魔法。
【物等】
高等魔法学校 ロンドリームの子どもは、義務教育である六年間の『魔法学校』の後、希望者のみが全寮制の『高等魔法学校』に三年通う。
魔列車 魔力で動く列車。ロンドリームの主要交通機関。
消魔香 魔力を封じる香木。
五元素 地火水風空
ランク S―A―B―C とある。ランクごとの人数比は三百倍程度。例、Cランク三百人に対し、Bランクが一人輩出される。
スコープス 魔具開発会社。本社は王都にある。
ロンドリームの行政構造 王の下に、行政系の省庁と魔法府がある。魔法府が最上位。その他、横並びに総務省(警察庁含む)、法務省、外務省、財務省、文部省、厚生省、建設省がある。




