第34話 救いの手
高校1年生、16歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますがが読んでいただけると嬉しいです!
「え……?!」
襖の先は、
「な、…」
半倒壊して黒靄で城全体が夜のようになっていた。
二階も一階もあったものではない。
全てぐちゃぐちゃになっている。
崩れかけたそれらはどれも空中で制止していて、かろうじて城全体の倒壊を防いでいるといった具合だ。
その破片が床に落ちれば間違いなく城は全倒壊するだろう。
天井も抜けていて、薄暗い空が激戦を見下ろしていた。
その今にも全てが、崩れ落ちてしまいそうな城の大広間、大きな空間があるところでひときわい“力”を感じる。
そこには1人の女が悠然と立っている。
崩れゆく瓦礫も気に留めず、ただただ涼し気な顔で、立って、いる。
全倒壊寸前で靄を制御した、そんなところか。
自己犠牲をいとわない相討ちの悪手に葵は思わず唇を噛んだ。
あの女だけならいい。
しかしこの城にはまだ、雅が、残っている。
雅が傷つこうと傷つかまいと、あの女にはどうでもいいのだ。
その事実に葵は酷く怒りを覚えた。
背中に隠した日本刀の柄をきつく握りしめる。先程までいた部屋から拝借してきたものだ。
葵は権能では恐らく乙葉には勝てない。
まだまだ未熟だ。
それでいて相手は手練れ&闇売処の女店主。勝ち目など見えなかった。
ならば残るは肉弾戦。
剣道部を少しやっていてとか嘘かホントか分からないことを言っていた父から教わって少しだけ齧った剣術をまさか使う日が来るとは。
息を殺して桜と葵は乙葉を後ろから見つめていたが、その殺気がバレたのだろうか。
「……まだ生きていたのですわね。しぶといこと」
振り返らず、しかし冷たい、心臓を凍らせるような声音が2人を突き刺す。
「あまり妾の手を煩わせないでほしいのだけれど
……まぁ、貴方達を炙り出すためにここまでやったわけではない、といえば嘘になりますけど」
つまり、先ほどの振動と音すらも乙葉の作戦。
小動物を安全な巣から引き剥がす猛獣のごとく、乙葉は葵達を安全地帯から引き剥がした。
そして、今度こそ、確実に、
ーーーー仕留める気だ。
「雅、さんはどこですか…」
その後ろ姿をキッと睨みつける。
負けたくない。葵の覚悟がそこにあった。
「あら?あそこにいるのが見えませんの?」
直後、振り返った乙葉の方が何倍も鋭い眼光で葵達を睨みつけた。
乙葉指差す方向を弾かれたように振り返れば、
「ーーーーっ!!」
雅が、いた。
黒靄に、呑み込まれている、雅が。
黒靄が木の枝のように、毒ヘビのように、ゆっくりと雅の体に纏わりつき、その体をどんどん黒靄の中へと取り込んだゆく。
雅本人はここからでも分かるほど裂傷、出血、打撲。意識は無いようだ。
このままでは、葵達がここに来た意味ごと、意義ごと、消されてしまう。
そう直感、葵は桜に叫んだ。
「桜!雅さんを助けて!
私はこの女を!」
「任せてー!」
頼もしい返事と共に桜は雅の方へとかけていく。
美しく、雪解けの春の日のごとく、桜吹雪を舞い散らせながら。
一方の葵は、
「邪魔させません!!」
雅のーーーー否、桜の方に伸びた黒靄を風で薙ぎ払う。
その風に自らも乗り、乙葉の後ろに一瞬で回り込む。
「覚悟ーーーーっ!」
背中に隠していた日本刀を取り出しガラ空きになった乙葉の背後から心臓に向かって一突きーーーーとは、いかせてくれないのが、人生だ。
「……不意打ちを狙うのなら、声は上げないほうがよろしくてよ?」
正論をかまされ葵の不意打ちは失敗する。
しかしそんなことでは葵はめげない。
応酬に飛んできた黒靄を剣で受け流し、距離を取られた乙葉に向かって疾走、柄で乙葉の腹部を狙う。
はずが、
「きゃぁっ!?」
突如として乙葉が消える。
勢いよく余った葵は止まれずに瓦礫の山に衝突。
「ったぁ……っうぁぁ!!」
休む間もなくすかさず黒靄。
今度は黒靄の風だ。
その風の中には倒壊した城の破片が交じっていて、少しかすっただけでも何箇所にも傷を作ることになるであろう、天然の暴力だ。
剣を杖代わりに素早く立ち上がり、風の権能を交えつつ高く跳躍。
乙葉からかなり離れた場所に着陸。
しかし相手の権能が遠距離も近距離もいけるのに対し、日本刀は近距離専門だ。
このままでは葵に不利である。ーーーーと、乙葉は思っているはずだ。
黒靄の風と鞭が両方ないまぜになって葵の息の根を今度こそ止めようと襲いかかる。
葵は防衛に徹する。
周りに竜巻のような風の渦ののバリケード築き上げ、攻撃を全て跳ね返す。
跳ね返された攻撃は城のあちこちに当たり今度は瓦礫がつぶてのように降ってくる。
まさに二次災害。
突き破れない風のバリケードにも限界はある。
鈍い音を立てて葵の周りからバリケードが消え、一瞬の間無風になる。
その隙をつく。
「やぁぁぁぁっ!!」
日本刀を、乙葉に向かって槍のように投擲。
もちろんそれだけでは距離も方向もスピード性も心もとないため、風の権能でそれを補助する。
風に乗せスピードを増した日本刀は狙いを違えることなく、今度こそ乙葉の心臓を真っ直ぐ貫く。
「よっしゃぁっ!!」
思わずガッツポーズをした葵、しかし、
「……こんな事ごときで妾が死ぬとお思いで?」
「ぇ」
倒れることもなく、涼しい顔でその場に直立している。
出血はない。
ただ日本刀が刺さったところから黒靄が少しずつ流れ出ている。
生ぬるい視線でこちらを睨めつける乙葉、
その言葉が意味するところは。
「まさか、渚冬さん達みたいに神代的な物があって死ななーーーー」
葵の考察は途中で途切れた。
お返しとばかりに一瞬の間に黒靄が葵の全身を縛り上げる。身動きが取れなくなった一瞬、一気に間合いを詰められる。
気づけば目の前には乙葉がいる。
こちらを蔑んだ目で、軽蔑するように見下ろしている。
その体には今も日本刀が突き刺さったままだ。
人間であれば致命傷となる場所に突き刺さっているはずなのに、乙葉には1ミリの効き目もない。
風を繰り出そうともがく葵に、その口元が歪んだ笑みを作る。
「いい加減に死んで頂戴」
乙葉の細くて白い手が葵の首元に回る。
息の根を止める気だ。
今度こそ、本気で、葵の命を取る気だ。
「あ゙が……っ」
どんどん肺に酸素が足りなくなる。
視界が霞む。力が入らない。
「葵オネーさんっ!!」
異変に気づいた桜の絶叫が随分と遠くに聞こえるのは気のせいだろうか。
自分の心臓の音しか聞こえない。
何もおもいだせない。
私は、私は、私は、わたしはわたしはわたしはわたしはわたしは、
ーーーーちゃん!!!
遠くから響いた声。
それは葵の耳には完璧には届かない。
片鱗としか届かない。
だから、わからなかった。
しかし、五感はまだ生きている。
だから、感じた。
強い、熱を感じた。
熱い熱い熱い熱い熱い熱いーーーー
ギャァァァァァ!!
絶叫が放たれ、葵の喉元にかかっていた手の力が緩む。
黒靄も散り散りになって消える。
「ガハッ、づっ……ゔっ…あ゙、づ……」
酸欠であえぐ葵の眼前、
「ーーーーーーーーぇ」
乙葉が紅蓮の炎に包まれ苦鳴の声をあげている。
乙葉と黒靄が連動しているのか、散り散りとなった黒靄も瞬きの間に炎と化し城全体に炎が燃え広がる。
城はたちまち火災現場へと様変わりする。
こんな風に炎を使う者は葵の知る限り唯一人。
「瑠依オネーさん!」
先に衝撃から回復した桜は頭上を見上げ叫ぶ。
そこには宙に浮かび、長い黒髪をなびかせる、
「あおちゃん、桜ちゃん!
遅く、なっ、て、ほ、本当に、本当にごめんなさい!私が馬鹿でごめんなさいっ…!
助けにっ……、助けにきたわっ……!」
姉の姿が、あった。




