第33話 忘れられた歯ブラシ達
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「おかえりー、パパ」
仕事終わり。
一ノ瀬家の玄関の扉をいつものように開ければ、キッチンから香ばしい香りとともに、愛妻の、沙奈の声が響いてきた。
「ただいま、沙奈。
今日は無事に過ごせたかい?」
「えぇ、私は大丈夫なんだけど……」
靴を脱ぎ恒例の問いかけをする。
しかしその返答が曖昧にぼやけていたことで危機感を覚えた。
「な、何かあったーーーいっで!!」
慌てて靴を脱ぎキッチンへと向かおうとした弾みに靴箱の角に、右足の親指を思い切りぶつける。
案外こういう怪我が一番痛かったりする。
「い……ってぇ……」
「パパ?大丈夫?
凄い音がしたような気がするんだけど……」
「あ、あぁ、大丈夫、だよ、沙奈……うゔぁ。
や、やっぱ大丈夫じゃないかもな、これ…」
思わずその場で蹲って悶絶する。
しかし沙奈の煮えきらない返事のほうが負傷した親指よりも大切だ。
右足を少し引きずりつつキッチンへと向かえば、
「あれ、葵と瑠依は……」
いつもなら2人で仲良くテーブルに並んで自分のことを待っていてくれるはずの愛しい娘たちがいなかった。
「あの子達、友達の家に遊びに行くっていって、まだ帰ってこないのよ。
パパの方に、何か連絡は来てない?」
ご飯の支度は一段落がついたのか、エプロンをつけたまま沙奈が不安そうな顔でこちらへとやってくる。
そして、1枚の紙を差し出した。
そこには、友達の家に遊びに行くといった趣旨が葵の字体で書かれていた。
しかし、いつものような丁寧な学生らしい葵の字ではない。
何処となく急いでいるような、焦っているようなーーーー
「………2人なら、今日は友達の家に泊まるって言ってたぞ」
「えぇ?!そうなの?!
やっぱりパパには連絡が来てたのね!」
「あぁ、まぁな……
沙奈にそんな事言ったら心配すると思ったんじゃないか?」
荒れた字体。
葵の部屋に飾られていた狐のぬいぐるみ。
「連絡がない方が心配するのに……
私だって何回も電話かけたのに、一向に出てくれないんだもの」
「充電が切れてるのかもなぁ〜」
消えた2人分の傘。
連絡が繋がらない2人。
昨晩の、2人の心配そうな顔。
全てが繋がる。
「泊まりに行くのに、二人とも自分達の歯ブラシさえ持っていってないわ……」
「歯ブラシは無くてもなんとかなりそうじゃないか?買うなり借りるなり手はあるさ」
まず歯ブラシの心配をする沙奈に軽く突っ込む。
これはいつものことだ。
…………真実がバレてはいけない。
沙奈を、巻き込んではいけない。
「ん〜〜、まぁ、そうかもね〜
なら今日は、2人だけでの夕食ね。何だか寂しい」
「俺と2人だけ、甘い時間を過ごそうじゃないか、沙奈……」
「もう。変なこと言わないで」
「てっ!!」
額に軽くデコピンされ、苦笑しながら擦る。
「あの2人なら、大丈夫さ」
「そう、よね!」
顔を明るくした沙奈に優しく笑いかける。
安心したのか、沙奈は再びキッチンへと戻っていく。
その後姿を見送りながら、
「……俺が掟を破ってまで作った子たちだからな」
一ノ瀬家の大黒柱、一ノ瀬 祐介は、誰にも聞こえないくらい小さな声で、そう呟いた。




