第25話 愛弟子
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
一方その頃。
渚冬の戦況は悪化していた。
「っ!!」
自分に巻き付く靄を死に物狂いで作り出した氷槍で薙ぎ払う。
ことができれば、苦労はしなかった。
足も、手も拘束された渚冬にとって絶体絶命の危機だった。
それに、この靄は渚冬の五感を鈍らせる。
本来妖魔の使う権能もどきは、神にとって悪影響だ。
だから通常、神が異界に入ることはあまり良いこととはされていない。
八方塞がりだ。
もちろん切り札はある。
しかしそれは最終手段だ。
それを使えば渚冬の神代が削れる。
代償が大きい。
「案外大したことねぇなぁ、氷鬼?
少し戦っただけでこのザマか?」
口の塞がれた渚冬は何もいえずただ相手をーー藍瀬を睨みつける。
「はぁー、つまんね
うさちゃんのこと追いかけよ」
「……!……、……!」
「はっ、何言ってっか分かんねーっーの!」
渚冬をその場に拘束したまま、くるりと背を向ける藍瀬。
それはつまり、葵の、瑠依の、桜の、志乃の。
渚冬が守りたい人達の命が脅かされることを表していて。
必死に言の葉を紡ごうにも叶わない。
やり場のない怒りが最後の切り札を使うことを決意させた。
切り札の出現のため、全身に力を集めーーーー
「わぁ、修羅場だねー、大変だ」
突如響いた第三者の声で、その力が霧散した。
「誰だ、テメェ」
「私かな?私は彌珠端と申します。
以後お見知りおきを、藍瀬君。」
予想外の人物が、リングインした。
「あー、大変ですね。神なのにこんなに靄に……
えーと、どうしましょう。
………それっ」
彌珠端が手を一振り。
すると渚冬に巻き付いていた靄が全て解け、反動で渚冬は地面に倒れ込む。
「何してくれやがるんだよ。
彌珠端だか何だか知らねぇけど、邪魔すんならぶっ殺す」
「殺気が強いですねぇ。
渚冬さん、やれますか?」
「え、えと…、」
体内を巡る靄で乱れる呼吸を整え、第三者を見上げる。
紅蓮のような赤い髪は一つに結われ横に流している。
揃いの紅色の着物に、黒い草履。
優しそうな目つきで口元にゆったりとした微笑をうかべている。
「困りますよ、貴方が捕まると。
私の可愛い雅を助けてもらわないといけないんですから」
口ごもった渚冬の思考をぶっ飛ばす発言で、渚冬は一旦思考の放棄を決断。
すぐに立ち上がり、体内に力を巡らせる。
「藍瀬君。
いくら妖魔は多神の肉体や精神を乗っ取ることが出来ても、執行人に乗っ取るなんて大したものじゃないかい?」
拍手をするやずはの顔は笑っている。
ーーーー否、笑っているようで笑っていない。
氷の笑みだった。
「藍瀬君。君、どうせ乙葉達とグルなんだろう?」
「……さぁな」
歯切れの悪い返答に彌珠端は確信を得る。
「可愛い弟子を救ってもらうために、ちょっとお仕事しましょうかね」
着物の袖をまくり、力を渦巻かせるやずはに藍瀬の警戒心も上がる。
「…ハッ、妖魔に誰かを救うなんて概念が必要かよ?!
そんなに誰かを救いたいなら、救って見せろよ!」
そう言い放ち、
ーーーーー怜央が、否、藍瀬が、消えた。
「は」
跡形もなく。
突然に。
思わず空気が漏れる。
神も妖魔も、よく消える。
というか、自由自在に顕現、消失できるものが多い。
問題は、そこではない。
そこではなくてーーーー
きゃぁぁぁぁ!!
突如として鼓膜を突いた悲鳴にある。
「何処からーーーー?!」
「成程。ハメられましたね、渚冬さん」
「罠……ってことですか?!」
「そうですね。
あそこ、見えますか?
あの建物。黒靄に覆われていってる、あれです」
少し離れた、大きな、人間界でいう高層マンションじみた見た目をした建物を指差す。
「何が、何がしたいんだ」
「あれは恐らく洗脳型の靄です。洗脳にもタイプがあるんですよね。」
藍瀬の急な消失に、響き渡る悲鳴、そこに霧の思わぬ力の解説が今更入ってくる。
渚冬の思考は追いつけない。
建物が、黒靄に侵食されていく。
彌珠端は冷静な声で、
「一つは今の怜央さんみたいにその対象の心を乗っ取るもの」
再び悲鳴が上がる。
先程よりも、高く、鋭く。
渚冬の心が掻きむしられる。
「2つ目は、特定の相手に敵愾心をもたせるようにするもの」
続けて、中指を、立てる。
「最後に、自死を仕向けるもの」
薬指を立て、そうして3本指を立てたままそれを渚冬へと向ける。
「因みに、非常に言いにくいですが」
耳を塞ぎたくなる。聞きたくない。
そう思ってしまう。
異界は、ここは、何なんだ。
妖魔は、一体、何なんだ。
彌珠端の声が拒絶する渚冬の耳に乱暴に割り込む。
「靄の洗脳は、神と人間にしか効力を示しません」
その言葉に冗談でなく渚冬の呼吸が止まる。
つまり、それが意味するところは。
銃声と刀と刀が触れ合う音が幾重も響き渡る。
渚冬は袴を翻し走り出す。
救ってみせろと言っていた。
それは、つまり。
あの建物の中にいるのは。
背中に冷や汗がタラリと流れる。
その後ろ姿を。
「がんばってくださいね、渚冬さん」
彌珠端は追わず、静かに透徹した瞳を向ける。
「私は私の戦場で死力を尽くしましょう。
私の弟子を助けるために、ね」
1人微笑み、黒靄に巻かれてその場から姿を消した。




