第23話 神のニセモノ
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「ふふっ、苦しんでおりますわね。作ったかいがあったというものですわ。
そうは思いませんこと、雅?」
「黙っとけよ、クソ野郎。
今に見てろ、あいつらはあんたの悪趣味な罠から脱出するぞ。
っつか、あの餓鬼はどこ行ったんだよ」
黒い靄でできた、しかし頑丈すぎるくらい頑丈にできた鳥籠のような形をした檻。
雅はそこに閉じ込められっぱなしだった。
少し離れた場所でこちらに背を向けて宙に浮いているのは、闇売処の女店主、乙葉だ。
「………てるのこと?
あの子は任務のために少しお出かけしてるのよ。
可愛い子には旅をさせろって言うでしょう?」
「この檻壊して俺にも旅させてくれていいぜ?」
「お断りですわ」
「………あ、そ。」
そっけない返事を返しながら、内心、嫌な予感がした。
任務なんて、ただの隠語にすぎないはずだ。
乙葉のことだ。
きっとまた誰かを苦しめるための戦略実行に駆り出したに違いない。
いつだって妖魔と関わる時は心が拒絶反応を起こす。
乙葉も、やずはも。
自分を置いて逃げた妖魔の父親も。
いつだって雅はモノのように扱われてきた。
『お母様。
逃げましょう。そうでないと、そうでないとーーーー』
女のーー乙葉の片手に乗る水晶に、記憶に閉じ込められる志乃が映っている。
その光景が見えるのは乙葉だけだが、声は離れた場所に監禁されている雅にも十二分に伝わってくる。
今にも泣きそうなその声に雅の顔が歪む。
「おい。それ見てあんたの嗜虐心を満たすのもいいが、とっとと俺の事を殺したほうがもっと満たされんじゃねぇのか?」
遠回しに、その水晶から届く声をもう聞かせるなという含みを持たせる。
しかし、人生そううまくは行かない。
「ふふ、もしかして雅も気になるのかしら?
人が苦しんでいるところを見るの、好きだものね?
だから、瑠依とか言う人間のこと、乗っ取ったんでしょう?」
一瞬の間に雅の檻の目の前へと距離を詰め、これ見よがしに雅に水晶を見せつける乙葉に腹の底が煮えくり返るような憎悪で満たされる。
「近ぇ、離れろ”神の模倣。“
俺はあえてやったわけじゃねぇ。クソ師匠に逆らえなかったんだよ、クソなことにな。
もともと俺は誰かが苦しんでんのを見て楽しむ趣味はねぇよ、あんたと違ってな」
“神の模倣”。
妖魔に対する最大限の侮辱を吐き捨て、乙葉の怒りゲージを狂わせようとする。
バキン!!
前言撤回。人生わりとうまくいくものだ。
表情一つ変えていない乙葉の手のひらの中で水晶に大きな亀裂がいくつも走っている。
割れる寸前、といったところか。
「良いわ。なら、なぜあの葵ととかいう、妖魔より何百倍も醜く頭の悪い奴を助けて、身代わりになったのかしら?」
雅は脳裏に酷評された葵の姿を思い浮かべる。
狂ったように桜の名前を呼び、半分泣きながら時雨夜を彷徨い歩いていた時。
聖域で、姉の体を返せと声高に叫んでいた、あの時。
それよりも、もっと、ずっと前。
雅は葵に会ったことがある。
それを、葵は多分覚えていないだろう。
あの時の葵はまだ赤ん坊で、父親の腕の中にいたのだから。
そう。葵の、父親。
「ーーーー俺は、葵の父親にかなり借りがあんだよ。
それなのに葵と瑠依が姉妹なの知らずに、命令とはいえ瑠依の体乗っ取っちまったから借金マシマシだ。
少しでも罪を軽くしとこうと思った結果だ」
片目をつむり、頭の後ろで手を組む。
「ま、そういうわけで、俺の命を借りの返済にしたら丁度いいんで、殺してくれても良いぜ?」
実際は、雅が百回死んでも足りないくらいなのだが。
「ーーーー駄目ね。
あなたがもう死んでしまったらあの子達はここに来ない。
良い?あなたは人質。
人質を直ぐに殺すのは愚者のやることよ」
乙葉の細い指先が黒靄で出来た狭い格子をすり抜け雅の髪に触れる。
「あの子達を纏めて始末する。
あなたのことは、そのときに、皆の前でじっくり殺してあげるわ」
髪に触れた手を睨みつけ、ため息交じりに、
「どうもご親切に」
乙葉の片手に無造作に握られた、ひびだらけの水晶玉から、悲痛な叫び声が聞こえた。




