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第九話



 失念していた……学校の屋上と言う場は大抵の創作物において主人公達がたむろする場所だということを。

 そんなラブコメ濃度が高い場所に悪役の俺が行けばそれはもう悲惨な目に合うことは約束されていると言っていい。


 ここだと周囲からの視線も辛い、静かで人気のない場所はどこかにないだろうか?


 いや、そういう場所は逆に危険だ。

下手に向かえば悪役としてのイベントが起きかねない。

 体育館の裏は不良の溜まり場だし、図書室でメシを食う訳にはいかない。

 教科教室や部室は……伝手がない。

 

 他に思いつく定番スポットの数々は、俺が悪役として転生した以上避けて過ごすのが無難だろう。


そうすると……一番の安全地帯は、教室か学食だな。


 聞き耳を立てていると購買部は中庭の辺り、学食は一階B棟にあると言う。


アニメだと結構近いような描写がされていたけど、実際は近くも何ともないんだな……


 少しばかり聖地巡礼のような気分で食堂へ移動する。

数台しかない食券機には既にずらりと生徒の列が出来ており、弁当・購買勢の少なさをひしひしと感じる。

 

財布から金を出し食券を買い求め、受け取り口に向かう……


 そこは戦場だった。

パートさん達がフライパンを振るい、一度に大量の食事を作っている。

生徒達も生徒達で、自身の購入したメニューの載ったお盆を奪うように奪取するとキープした席に向かっている。


怖え。

高校の学食怖え……


 前世は私立ではなく、国公立だっため高校に学食なんて無かった俺は、大学時代の学食を想像していたのだがそんな程度では収まらなかった。


 何とか購入した『唐揚げ定食300円』を手に空いている席を探す……


 幸いだったのは現状学校中から嫌われている訳ではなく、クラス内であると言う点だろうか?


 そろそろあるはずの『ボランティア活動を決めるイベント』での発言によって、真堂恭介( オ レ )はより一層孤立を深めてしまうのだ。


 しかし、イベントを回避するための善行を積もうにも今日であれば時間はない。

 確か入学後直ぐのイベントハズなので、いつおこってもおかしくはない。


 そんなことを考えていると、三ヵ所ある出入口の傍に空いている座席を発見する。

 座っているのは女子生徒が一名だけ。



「ラッキー」


 友達を待っている可能性はあるものの当たって砕けろの精神だ。


「……あら真堂(しんどう)君、珍しいのね」


「ま、まあね。席いいかな?」


「公共のスペースだから、私に許可なんか求めなくてもいいのに……」


 少し怪しまれたが何とか誤魔化せたようだ。

 

「いただきます」


 先ずは胡麻ドレッシングがかかったサラダに箸を付ける。


 せっかく転生したんだ。

 今世は長く健康に生きたい。まあ前世の死因のように突発的なモノは回避できないが……


「ダイエットでもしてるの?」


「なんだよ藪から棒に……」


「サラダから食べると『血糖値の上昇が抑えられる』と聞いたことがあるからよ」


「さすが成嶋(なるしま)さん、俺なんか何となく覚えていただけだよ……」


「別に大したことじゃないわ」


 言葉の上では謙遜して見せる成嶋(なるしま)さんだが表情はとても嬉しそうだった。


成嶋(なるしま)さんは魚定食なんだね」


「陸の動物性たんぱく質を取る機会は多いけど、海のモノを取る機会は少ないから意図的取るようにしてるの……それに昨日はお肉いっぱい食べちゃったし(ボソ)……」


 後半何を言っているのか聞こえなかったが、流石は美容系女子の成嶋(なるしま)さん、高校一年生ながら意識が高い。

 顔を赤く染めているが何か恥ずかしいことでもあったのだろうか?


「な、なんでもないわ早く食べ……ると良くないし、でもあったかくないと美味しくないわよね。つまりはよく噛んで食べないと体に悪いってことよ!」


「言いたいことはわかるけど少し落ち着こうか」


 少し声を荒げてしまったせいで周囲の注目があつまるのを感じる。


「あれもしかして、真堂(しんどう)じゃないか?」


「ほんとだ。真堂が女子とメシ食ってるぜ?」


「いつもは一人でパン齧ってるのに……」


「やべぇぇ」


 同学年か同じクラスの奴と思われる生徒が次々と、俺の陰口を口にする。


「~~~~っ!!」


 カァァァっと漫画だったら擬音が見えそうな程に成嶋(なるしま)さんは顔を赤く染める。


絶対無理してるよな……


 昨日の痴漢、翌日にはクラスの嫌われものの俺の相手をしているのだ。


なんて義理堅い性格なのだろう。


 でも、そんな彼女にこれ以上負担を掛ける訳にはいかない。

 登下校の時に彼女と同じ電車に乗って守る程度の関係でいた方がお互いのためだ。


 俺はワイヤレスイヤホンを取り出すと耳に取り付け、前世いつものようにスマホで動画を流し唐揚げでご飯を掻き込む。


「私と一緒にご飯を食べているのに態度と行儀が悪いわよ?」


「これ以上関わると迷惑かなと思ってさ」


「私は迷惑だなんて思っていないわよ? 真堂(しんどう)くん程度が私に迷惑をかけれるなんて傲慢な思い込みよ」


「……」


「それに真堂(しんどう)くん優しいもの」


「後悔するかもしれないぞ?」


「そのときはそのときよ。私に人を見る目が無かっただけ……ただそれだけのことよ」


「そうかい……」


「もしかして照れてるの?」


「そんなこっぱずかしいこと言われて照れるなって言われる方が無理だ」


「ふふっ、やっぽり真堂(しんどう)くんは顔に似合わず可愛いのね」




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