第四十四話
ミスがあったので42話から修正しています
弁当を作り忘れた俺は食堂で、成嶋さんと一緒に飯を食べていた。
「それで……」
成嶋さんの言葉を遮ったのは意外な来訪者だった。
「あ、よかった。真堂君やっと見つけた」
声のする方を見れば志乃亜さんが居た。
どうやら俺を探しているようだ。
「あれ、しのあさん?」
学食で人気のある唐揚げ定食300円の唐揚げを口に頬張ったところだったのだ。
はて? クラスで何かあったのだろうか? しかし心当たりは何もない。
「真堂君、飲み込んでから喋りなさい。お行儀が悪いわよ」
飲み込んでから謝罪の言葉を述べる。
「ごめん……で、どうしたんだ?」
「今日のお昼ミーティングだったんだけど伝えそびれてて……で今探してたんだけど……定食だと今直ぐ来てもらうのは無理そうだね」
そう言って俺の唐揚げ定食を見る。
「悪い」
度重なる重労働で夜は泥のように寝る日々を過ごしている。だからなのか最近食欲が増進されていて、多めに食事を取って居る。
カルマ値稼ぎのゴミ拾いと、推しへの遭遇を兼ねたお散歩は控えた方がいいかもしれない。
「いいのミーティングとは言っても、各クラス一人行けばいい程度だから謝る必要はないんだけど……」
「何か言いたいことがあるのなら言ってくれ……探すならLIMEを入れてくれれば見たのに……」
「あ、うん言うね。わたし真堂君のLIMEしらいないから連絡出来ないんだよね」
「……」
「ほら真堂君ってクラスLIMEから抜けちゃってるし、連絡先知ってる人多分クラスに居ないんじゃないかな?」
「……」
声にならない声が漏れる。
真堂恭介だからお前は、原作でもウィザウトされるんだよ!
学生にしろ社会人にしろ、グループLIMEって便利だろ? ノートの写真貰ったり課題などの予定を確認したり俺の学生時代でもみんな参加してたわ!
――と言うか俺の学生時代は、中学3年の2月頃にはもう学年のLIMEグループが存在してコミュニティを作ってたぞ?
なのにお前ときたらグループに馴染もうとする努力もせず、いじめられただハブられたと被害者感情丸出しでいるから嫌われるんだよ! と言いたくなる。
だけどもう真堂恭介は存在しない。真堂恭介の居場所は真堂恭介が、真堂恭介の役割は洞口秀夢が背負っている。
「私は真堂くんのLIME知ってるけど……」
「よかったら、志乃亜さんLIME交換しようよ」
自分の立場を考えると、心臓がバクバクと激しく鼓動する。
義理の範疇と言えるLIMEの交換だけど、女の子それも飛び切りの美少女であるメインヒロインと交換するのだ。
緊張するし、二の足を踏む。だけど迷っていては先に進めない。
「ほら今日みたいに志乃亜さんに使い走りをさせるのは悪いしね」
志乃亜さん個人のLIMEが欲しい訳ではない。
遅れ取り残された現状を解決したいだけだ。
「もちろんいいよ」
あっさりと首を縦に振る。
ジャケットの胸ポケットからスマホを取り出す志乃亜さん。
スマホカバーが大きく兎の耳を模したであろう部分が胸ポケットから大きく飛び出ている。
スマホを触りながらこう言った。
「だってこれからも必要でしょ? 交換はふるふるにする? QRコードにする?」
「じゃあQRで……」
「はい」
可愛らしいスマホカバーに覆われたスマホの画面には、QRコードが表示されている。読み取れということらしい。
俺も慌ててアプリを起動してQRコードを読み取る。
「じゃあ実行委員会のグループに招待するね」
「ありがと……」
明るい髪色の少女が声を掛けて来た。
「志乃亜ちゃんそろそろ戻らないとご飯食べられなくなちゃうよ」
彼女は、クラスメイトで、主要キャラの『山本・ウインチェスター・八枝子』と言う。
本来のシナリオ通りならボランティア活動にも積極的に行動するのだが、俺がシナリオを変えたせいか必要がないからか部活に専念している。
「じゃあ私ご飯まだだから戻るね。真堂くん成嶋さんまた午後の授業でね」
「お、おう……」
「一つ貰うわね」
成嶋さんはそう言って俺の唐揚げを一つ奪うとそのまま一口で食べる。
「俺の唐揚げが……」
「最近食べ過ぎなのよ……ストレス発散なんだろうけどもう少し何とかならない訳?」
「あーどうだろなあでも無理は出来る時にしておかないと……」
「力を抜いたり、人を頼ることを覚えた方がよさそうね。そう言えばお弁当の日とそうでない日があるけど……お母さんに作って貰ったの?」
「ああそのこと? 両親が共働きだから自分の分は自分で作ってるんだ。だけど最近は弁当を作る時間があれば寝たいぐらい疲れてるんだ。まあコンビニで弁当買うよりは安いからいいんだけど……」
正直に言えば葛城に奢ったりする期会を減らせば、毎日食堂で食べても全然足りる。むしろ余る。
だけど学生時代の金はあればあるだけいい。
かと言ってバイトを始められるほど俺の状態は安定していない今、切り詰められるのは食費だけだ。
幸い家に食材だけはある。
偶に夕食を作って小遣いを強請り、昼食を浮かせばバイトぐらいの金になる。
そういう所だけを見てもやはり、真堂恭介は恵まれている。
「自分で作ってるの? 凄いわね」
「その代わり小遣いは多いけど放任主義だからな……どっちもどっちだな。まあ見かねた妹が手伝ってくれるって言ってたから少しは楽が出来そうだけど……」
「真堂くんも大変なのね」
「そう言う成嶋さんはどうなのさ?」
「似たようなものよ? 両親が共働きで毎月お昼代を貰ってる」
「……バランスとかに煩かったよね? 料理覚えたら?」
「料理は出来るわよ?」
「本当かなぁ~」
それってレトルトや冷凍を温めるだけなんじゃないのか? と訝し気な視線を向ける。
「早起きが苦手なのよ。だから毎日なんて死んでも無理ね」
「俺も苦手……だから前日か1週間分作って置くんだ」
盲点だったと言わんばかりに目をカッと見開く。
「真堂くんってほんとマメね」
「そうか?」
掃除・洗濯は週に一、二回とかなりサボっている。
風呂やトイレだって防カビ燻煙剤やスタンプで掃除をサボっている。
今はどうやって両親を説得してロボット掃除機を導入しようかと悩んでいるぐらいだ。
「急に、無理に変わろうとしなくてもいいのよ?」
「人には変わらないといけない時があるから、変身なんて……」
その場で変身ポーズを取る。
「あははははははは、何の変身ポーズよ」
成嶋さんは涙を浮かべるほどに笑う。
こんな毎日のために俺は無理をするんだ。




