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第三十八話


 前日の仕分けと異なり、ファイリング作業はただただ時間が掛かるものだった。

 昨日の段階で月が一桁と二桁など、なんとなく仕訳けていた御蔭で思いのほか作業が進んだので今日は、早めの帰宅していた。


 キッチンで夕食を作っていると、「あり得ないものを見た」とでも言いたげな表情で、俺の顔をまじまじと見つめる。

 そう言えば真堂恭介(しんどうきょうすけ)が、料理が出来るなんて設定は二次創作でも見たことがない。


「えっ? なに急に料理なんてして……なんか変なモノでも食べた?」


 妹の鈴乃(リノ)は、真堂恭介( オ レ )のあまりの変わりように困惑しているようだ。

 俺は誤魔化しながら大雑把に説明することにした。

 かと言って「俺はお前の兄ではない」と、真実を話す訳にもいかない。

 俺はコンロの火を弱める。


「変なモノもなにもお前と食ってるものはそう変わらない。強いて言えば生まれ変わったからだ」


「生まれ変わったねぇ……」


「このままだと良くない事が起こる。そう思ったから自分を変える努力をしてるだけだ」


「それが先週の散髪だったりする訳ね」


「まあそういうことだ」


「で、部活動にも入ってないのに今日帰りが遅かった事にも関係するの?」


「まあそういうことだ。瑞宝高校(うちのがっこう)はクラス単位で奉仕活動をするのは知ってるよな?」


「もちろん。お兄がレベルを下げてまで瑞宝高校(ズイコー)に進学した理由は、お父さん達曰く『精神鍛練』だもんね」


え? そんな設定があったの? 


 表情を気合で抑え込むと思案する。


 言われてみれば確かに真堂恭介(しんどうきょうすけ)は、勉強だけは出来ると言う設定のキャラクターだった。

 そんな真堂恭介(しんどうきょうすけ)にとって自分のレベル以下の学校に通うのは、自業自得とは言え苦痛だっただろう。


 都会でこれだけ立派な豪邸に住んでいる真堂恭介(しんどうきょうすけ)にとっては、自分がどうしようもなく惨めに感じたのではないだろうか? だから非行に走った。


「……まあ、お兄の気持ちが理解できるとまでは言わないけど、アタシだってあの両親から期待を掛けられてるんだから、無理はして倒れないでよ? 負担が増すから」


 真堂恭介(しんどうきょうすけ)真堂恭介(あくやく)になるのに相応しいバックボーンがあったんだな。


「心配してくれてありがとう。頼りないかもしれないけど仮にも俺はお前の兄貴なんだから、辛くなる前に相談しろよ?」


「……まあ、辛くなったら相談する……で、今日遅くなったのはボランティア活動のせい?」


「中らずといえども遠からずってところだ」


「なにそれ?」


「ボランティア活動をするのは間違いない。だけど俺がするのは運営側ってことだ」


「実行委員会とかあるの?」


「いや生徒会の補助役員という立ち位置らしい」


「入学して早々生徒会役員とは出世したねぇ」


「役員じゃなくて補助役員だ。それに俺には拒否権なんてないしな。全部身から出たびだよ。学校全体でボランティアをやろうなんて言わなければ良かった……」


俺だって他の解決方法があればこんな面倒な方法は取らなかったのに……


 苦々しい表情の俺を見て、鈴乃(リノ)は不思議そうに小首を傾げる。


「よ! 未来の生徒会長! お兄はやればできる子だと思ってたよ!」


 俺は料理を皿に盛り付けていると鈴乃(リノ)が抱きついて来る。


「やめろって! あくまでも俺は補助役員だ」


「もうそんなこと言って素直じゃないんだから……」


「随分と楽しそうだな」


「不貞腐れてたお兄がやる気になってくれたのが嬉しいの」


「……」


 真堂恭介(しんどうきょうすけ)お前にも心配してくれる人間がちゃんといるじゃないか。

 なのに心配してくれる人間を裏切るような行動を取るなんて……


「お兄?」


 気が付くと俺は拳を握り込んでいたようで、鈴乃(リノ)の言葉でハッと気が付いた。


「何でもないよ。キチンとやりとげないとなって思っただけだ」


 ちなみに今日のメニューは、麻婆豆腐と卵スープだ。

 人間ストレスを感じた時には辛い物か甘いものを食べると言いと言うから、インドカレーと悩んだんだがスパイスが無かったので断念した。

 

「ふーん、そいうことにしておいてあげる。今日は麻婆豆腐なんだ。中華なんて珍しいね」


「簡単で美味いからな」


「まあアタシは食べるだけだから何でもいいけど……」


 そう言って自分のお皿を持って食卓に運んでいく。

 俺は洗い物を増やしたくないので、丼にご飯をよそってその上に麻婆豆腐をかけて麻婆丼にする。


「お兄食べすぎじゃない? まるでフードファイター見たい」


 酷い言われようだ。

 若い頃は、肉と麺だけ食べるような生活をしていても身体に響かなかったことを思い出した。


「そうかも、明日から気を付けるよ」


「家事自分だけで負担することはないから、私だって野菜炒めぐらいなら出来るし……」


「無理しなくてもいいんだぞ?」


「お兄はやればできるスーパーヒーローだから、そんなお兄がやる気になって行動してるんだから妹としては応援してあげたいなって」

 

 鈴乃(リノ)は自分の分のついでに冷たい麦茶をコップに注いでくれた。


「ありがとう」


 鈴乃(リノ)のやさしさが心に染みる。


「たださ、お兄って多くの人と関わることが苦手なのに大丈夫なの? とは思ってる」


 真堂恭介(しんどうきょうすけ)も俺も苦手な分野だ。

 反骨精神からではなく、同調圧力によって自分がやりたくもないことをするのが嫌なのだ。


「――ぐっ! 正直、生徒会の仕事よりも生徒会と言う組織で活動することが不安だけど、いつまでも集団が嫌いだ。なんてガキ見たいなこと言ってられるとは思ってない。情けない話だけど無理なら最悪逃げればいいかなって……」


 『逃げたら一つ、進めば二つ』、『人生とは選択の連続である』、『案ずるより産むが易し』など、物事の選択に関する類似した考え方は存在する。

 つまり、悩むより動けただし後悔がないような選択をしろということだ。

 

「『なせば成る、なさねば成らぬ、なにごとも』って奴? お兄も変わろうとしてるんだ……頑張ってね」


「おう」


 俺は元気に返事をした。



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