第二十四話
「これとこれどっちがいいと思う?」
真剣な眼差しでハンガーが掛ったままの上着を自分の前に合わせ質問が行われている。
既に何着か成嶋さん好みであろう上着を何着か合わせて俺に見せてくるのだが、ファッションセンスに乏しい俺に意見を訊く理由が判らない。
男の意見が欲しいのだとは思うが、陰キャオタクの俺には門外漢すぎる。
俺の好みのタイプが清楚系だと分かった為か、成嶋が披露してくれる服はどれも清らかで可憐な服ばかり。
美しい黒髪でスタイル抜群ということもあってか、大抵の洋服が似合う。
もちろん着物やメイド服と言った普段使いしないタイプの洋服も、メイクやサラシと言ったもので調整すれば抜群に似合うだろう。
「右のは可愛い系で左のはカッコイイ系だよな? 成嶋さんにはどっちも似合うと思う」
「じゃぁこれとこれは?」
「それも似合うと思う」
「褒め方が無難過ぎ、似合うと思うは禁止ねっ」
「なんかすまん」
「もう。そういうところがモテないんだよ! 妹さんがいるから女の子の二択を無難に乗り切るのに慣れてるって言うか……」
「確かに長年の経験のせいかもな……」
前世の俺には彼女もいなければ妹も居なかった。
ゲームや漫画などで女の二択は、「こっちがいい」と強く言ってはいけないと書いてあったことを思い出して実践してみたが正解だったようだ。
「まあ真堂くんって思ってることが顔に出るタイプだから、本心から褒めてくれてるのは分かるんだけどね。本当に似合っていると思ったから誉めてくれたんだよね?」
「似合わない洋服を褒めてどうするよ」
「……そ、そうだよねじゃぁこれ試着してみるね」
試着室に何着か洋服を持って入り着替える。
カーテンの向こうから聞こえる衣擦れの音。
ナニカに引っかかっているのか微かに聞こえる成嶋さんの息遣い。
今彼女がどんな格好をしているのか? と言う下衆な想像をしてしまう。
心の中で好奇心の猛獣(亡者)が「わたし、気になります」と言っている。
しかし、落ち着けここは完全に女性物専門店。
布一枚向こう側には免罪符である成嶋さんがいるものの男性独りでは辛すぎる。
俺のためにも一刻も早く着替え終わってくれと言う真摯な祈りが通じたのか、暫くしてレールの上をコロが走る音が聞こえカーテンが開くと
そこには天使が舞い降りていた。
可愛らしいフリルがあしらわれたワンピースはまるでドレスのようだった。
俺は彼女に目を奪われた。
「ど、どうかな?」
白い肌に朱が差す。
濡れ羽色の髪を撫でると髪がフワリと舞い。
その場でステップを踏むようにゆっくりと回転すると、同時に枝毛の無い髪が靡きスカートの裾も広がる。
まるでラノベの挿絵や恋愛趣味レーションゲームの気合の入ったCGのように、幻想的で現実離れした光景に一瞬思考が追い付かなくなる。
成嶋明日羽はヒロインになれるぐらい魅力的な人物だ。
見惚れて言葉を失っていると、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべてこう言った。
「真堂くんもしかして、言葉が出ないぐらい私に見惚れてる?」
「……」
「もしかして図星? 今までと全然反応違うし……真堂くんこういうザ清楚系のが好きなんだ」
「……ぐっ! 悪いかよ……」
一言も肯定の言葉を口にしていないのに、どうやら成嶋さんから見れば一目瞭然らしい。
男のチラ見は女のガン見と言う様に男女では洞察力や空気を読む能力に得手不得手があるのかもしれない。
自分の好みを言い当てられて、頬が熱を帯びるのを感じる。
「ぜんぜん。むしろ可愛い時は全力で可愛い! って褒めてくれた方が女の子は嬉しいと思うよ」
「そういうものか……」
「そういうモノだよ……」
暫く沈黙すると成嶋さんは、
「折角だからこの服買っちゃおうかな……」
「そ、そうか……」
「うん。着替えるから少し待ってて……」
天国は終わり店員や女性客に怪しまれないようにと祈りながらカーテンの前で待つ。
「んっ……」
ぱさり、ひゅるると衣装が擦れる音が聞こえる。
ただエロく聞こえる吐息交じりの声が聞こえ精神衛生上良くない。
薄布一枚向こうは下着なんだと意識するだけでテンションが上がってくる。
……しかし、ボルテージが上がりすぎるのも不味い。
意識を逸らそうにもここは女性向け洋服店、落ち着く要素は何一つない。
素数か円周率あとは般若心経を唱えると良いと創作物で俺は学んでいる。
清算を終え紙袋を手に店を出る。
 




