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第十四話




「帰ってないの?」



 駅前で再び葛城綾音(かつらぎあやね)を発見した。



「あれ先輩、帰ったんじゃなかったんですか?」



「コーヒー飲んで帰るつもりだったんだけど……少し心配になって一周廻って居なかったら帰るつもりだった」



「コーヒー代を電車賃にすれば良かったのに……」



 正確にはバス代なのだが説明を端折った俺が悪い。



「そうかもな……家に帰らないにしてもどこか店に入るとか方法があるだろう?」



「制服なのでゲーセン含む殆ど場所には入れないんですよ」



「あーなるほど……」



 条例とかで親同伴でも夜間子供の出入りを制限している場所も多いからな……



「じゃぁ俺と一緒なら大丈夫だな」



「……」



「俺が君の兄役をすれば万事解決と言う訳だ」



「はい?」



「奢ってやるから店に行くぞ……」



 そう言うと少女の手を引いて歩き出す。



「先輩ちょっといい人過ぎませんか?」



 少女に言われて考える。

 画面の向こうにいる憧れのキャラクター相手にテンションが上がっていることは否定できない。

 ぶっつけ本番になってしまったが、『ネームドキャラクター』から俺への好感度の変化は、今日のボランティア活動イベントで“変化する(・・・・)”ということが判っている。

 しかし、推しのキャラクターが会話できる一人の人間として困っているのだ。

 ファンとして出来る事をしたいだけだ。

 つまるところ、俺のエゴだ。



「妹と同じ年齢の可愛い女のこを見過ごせないだけだ」



「やっぱり……シスコン?」



「そうかもしれない」



 素直にシスコンと認めた事が意外だったのか少女は困惑する。



「えっ、あ、ちょっと……そこは『奢られる側なのに調子に乗るなよ』とか先輩風吹かせてもいいところですよ?」



「可愛い後輩にそんなセリフ吐けるかよ……ほら、ぼさっとしてないでいくぞ?」



 そう言って少女の手を取ってどこにあるとも判らない店を探すのであった。




………

……




「先輩。土地勘ないならないでもっと早く言ってくださいよ……」



「すまん……」



 ファミレスのボックス席に座った俺は、推しから問い詰められていた。


 時刻は一般的な夕飯時を過ぎた19時頃。

 地元だと外国人やDQNが居座っている時間だと言うのに、初めて入った都会のファミレスは空いていた。

 駅前でこの時間にこんな疎らなんて、このファミレスは潰れるのではないだろうか? と心少し配になってしまう。


 恐らく、ラブコメのイベントとしてガラガラではおかしく混んでいても不味いと言うことで中途半端な客入りになっているのだろうと推察する。



「この辺って先輩の中学辺りの子達が遊びに来る場所なのに……土地勘ないなんて信じられない」



「それは……」



 実は俺が転生者で憑依する前の記憶がない。とは言えるハズもなく言い淀んでいると……



「先輩そんなイケイケな見た目して実は高校デビューだったんですね!」



 否定したいものの、前世を考えれば高校デビューと言えなくもない事実に俺は首を傾げる。

 原作挿絵の髪型……つまりは悪役からの脱却のために美容室で髪を切ったのもデビューの一環と言える。



「そうだな……」 



「あれ、意外。否定されると思ったのに……『俺は陰キャじゃねぇ』って」



「ドリンクバーでいいか?」



 昔見た動画でドリンクバー単品で粘れる時間は6時間程度だと検証されていたハズだ。

 1,2時間程度なら余裕で粘れる。



「はい。流石に高いものおねだりするほど厚顔無恥じゃないですよ……」



 ドリンクバーを注文しコーヒーをカップに淹れ席に戻る。



「先輩ブラック飲むんですね」



「ああ、眠気覚ましになるしな……」



 思えば前世はカフェイン漬けだった。

 今世では多少気を付けないと……



「同級生達が急にブラック飲めるアピールしてきたことを思い出して……」



「まぁ、あるあるだな」

 


 前世では俺も大人=苦いモノが飲める人だと思って機会がある度にブラックコーヒーを頼んだ記憶がある。

 大抵フレッシュとシュガースティックを入れ、カフェオレもどきにしてしまうまでがワンセットだ。



「先輩も年下とは言えこんな綺麗な女の子相手に意識して格好つけてるのかなーって」



「否定はしない。男って生き物はいつになっても恰好を付けたがる生き物なんだよ」



「そんなもんですか」



「そんなもんだ」



 対面に座った少女は初めて自然に笑った。

 先ほど街灯の下で見た笑顔よりも柔らかくなっていたので、少しは彼女のためになれたのだと実感が持てる。



「また。迷惑かけてもいいですか?」



「ここに来る前もいったけどタイミングが合えばいいよ。はいこれ――」



 そう言って俺はメモ帳のページを破り少女に渡した。



「――俺の電話番号、メアドと家の住所逃げたくなったら来なよ」



「そこは、もっとはぐらかすのが大人だと思うんですけど……」



「バーカ。一つ年上に何を期待してるんだか……なんせ野生の後輩は酔っ払いとバトルして負けるぐらい弱いからな。俺が保護してあげないと……」



「あたしは、犬猫ですか!?」



「どちらかと言えば猫……いやそれらに類する何かだとは思う……」



「結構辛辣っ!」



「……まあなんだ。物騒な世間だし家までとは言わないまでも送っていく必要があるからな」



「先輩って過保護なんですね。捨て猫動画とか好きそう……」



「動物番組は好きだな……『ダヴィンチが来た!』とか」



「うぁ……好きそう……」



「時間潰すの付き合ってくれてありがとうございます。これもあたしが可愛いからかな?」



「客観的に可愛いだろ? さっきナンパされたことがあるとか自分で言ってただろ?」



少女は言葉を返す事無く顔を伏せる。



「おーい葛城(かつらぎ)?」



「……先輩には恥じらいとかそう言うのはないんですか? 

あたしの照れ隠しに全力で乗って来ないでください。

恥ずかしくて顔から火が出そうです!」



「それは……すまん」



 女性に縁の無い人生を歩んできたため加減が判らない。

 そのせいで葛城には迷惑を掛けてしまった。

 俺達は蛍光灯が煌々と照らす駅に向かい葛城(かつらぎ)を送り届けると俺も家に帰った。




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