第十話
カクヨム様で二話先行更新しております。
「はい。今日の授業はここまで……」
男性教師が教科書をパタリと閉じる。シャーペンの音がピタリと止まり、ガチャガチャと筆箱に筆記用具を戻す音が静けさを取り戻した教室内に響き渡る。
「引き続き、ホームルームを始めるぞ。
一年の夏は海やプール、川に山様々なレジャーを楽しめる良い季節だ。色恋に勉強を楽しめるまさに『青春』だ!!」
調子の良い声が窓際の席から上がる。
「先生がそんなこと言ってもいいのかよ」
「あのなぁ……俺は生徒の為を想って言ってるだけだ」
呆れた様子で言い訳する男性教師に対して、真面目そうな女子生徒は話の腰を折った。
「でも先生夏休みは大分先ですよ?」
教師は短くそして深い溜息を付く。
その様子はわかってない。何もわかってないなとでも言いたげである。
「つまり、テストと課題等を頑張って、出席日数を失うなと言う話をしたかったのに……お前らときたら……」
悔しそうな表情を浮かべ、ぐぬぬぬぬと歯ぎしりをする先生を見て教室は笑いに包まれる。
「まあいい。ホームルームで伝えなきゃいけない事があるクラスの係り何かを決めたと思うが、ウチの学校では年間を通して自主活動を行う決まりになっている」
先生の言葉一つで教室のあちこちから避難の声が上がる。
思い出した!
真堂恭介が嫌われている理由は、係り決めの時に空気を読まずメインヒロインちゃんと同じクラス委員になろうとした事だった。
つまり、真堂恭介悪役として序盤はまだ終わっていない……ってコトだ!?
俺の思考は加速していた。
不味い。不味い。不味い。
『カルマ値理論』が正しいと仮定した場合、俺の善行はまだこの世界が俺に課した『悪役』と言う役割から抜け出す程高くないと、周囲の態度から推定される。
つまり、現在進行している『ボランティア活動』と言う原作第前半のイベントでの『悪役』として設定されかねないのだ。
やばい。ヤバい。ヤバイ……
どうすればルート分岐出来る?
・腹痛を口実に離席するか?
それだと小規模なザマァしか喰らわないため、まだ『悪役』として使われる可能性が残ってしまう。
確か第一巻の『悪役』は、真堂恭介と、ボランティア活動を邪魔する大人、そして主人公『若松祐堂』が中学時代に恋をしていた幼馴染だったハズだ。
このままだと、真堂恭介が敵としてパーティー追放モノの追放主のように、ザマァのリサイクルされ兼ねない。
そうやって俺が一人自問自答している最中、クラスは教師の演説によって、ボランティア活動に意欲的な気運になっている。
そりゃボランティア活動の歴史的背景を踏まえつつ、『アメリカでは親が多額の金を払ってボランティアの実績を金で買い、高校や大学、果ては企業での面接で活かす』などと言われれば、中二病の残滓を宿しつつも多感で、受験後の無敵感と虚無感を感じている少年少女にクリティカルに響く。
これと似たような状況になっている人種を俺は知っている。
後継者の居ない社長だ。
『後継者を探さないといけない病』を発症した経営者は、そう言う思春期の男女に似た不安定さを持っている。
だから不動産詐欺にあって貯金を失ったりするのだ。
閑話休題。
そんな絶賛盛り上がっている最中の話し合いの開口一番、真堂恭介が『最小の努力で最大のリターンがいいよね』なんて舐めた事を言って冷や水をかけてしまうのだ。
事実でもそりゃ嫌われるわ。
真堂恭介も多感なお年頃と言う事で大目に見て欲しいものだが……
残念ながらそう上手くはいかないのが物語の悪役というもの。
――最終的に彼は “退学処分” にされる
ハラスメント行為を受けたとして【瑞宝学園高等学校ハラスメント告発サイト】を立ち上げ、実名を交え執拗に追及したことで裁判になり敗訴したと言う事が、後に作者への質問で判明するほど徹底的にザマァされる。
自分の方が正しいと思っていても、周囲の空気に乗る事はどうしても必要な事だ。
対人関係が多少苦手でも社会経験を積めば判る事だ。
教師の説明が終わると、メインヒロインの『若松志乃亜』が声を張り上げる。
「何かやりたいことがある人は出来る出来ないは気にしないで気軽に意見を言ってください。ブレインストーミングでより良い意見を出したいです」
やはりよく通るいい声だ。
会議において最も重要なのはどんな意見でも言いやすい雰囲気を作る事だ。
日本人は特に否定されることに弱いため、ブレインストーミングは非常に有効な手段の一つと言える。
「はい!」
気が付くと俺は手を上げていた。
おかしい。
どうして俺は挙手を……?
トイレ等で離席をしないのならば黙っていることが一番いい選択だったハズなのに……気が付けば俺は手を上げて発言をしようとしている。
どんな発言を?
決まっている。
俺が悪役として確定する発言だ。
これが世界の強制力とでもいうのかっ!?
真面目にボランティア活動をしようとする主人公やヒロイン、クラスメイトを小馬鹿にするような感情が、真堂恭介と言う人間の根底からムクムクと湧き上がってくる。
なんだ!
この抗い難い強烈な感情は……
なんなんだよ!!
俺が俺で無くなるような感覚に本能的な恐怖を覚える。
額に脂汗が浮かび、鳥肌が立つのが分かった。
「真堂君……」
若松志乃亜は心配そうなに声をかけてくれる……
ググググ……
クソッ!
言葉が出ない!!
もうちょっここまで来てるのに!!
定められた運命を変えるために言葉を紡ごうとしても、世界の強制力が邪魔をする。
ルールが判っているのに変えられないとか地獄かよ!!
何か? 俺が親より早く死んだからここは地獄だってことか?
しかし、答えを返してくれる人間は誰も居ない。
空しい自問自答だ。
「真堂くん体調悪いの?」
俺にだけ聞こえる小さな声で成嶋さんが心配して声をかけてくれる。
「『出来れば何もしたくない゛っつーか、最小限の努力で最大のリターンが欲しい゛よね゛。ウチのクラスはぶっちゃけそういうのにしない?』」
抵抗空しく原作と殆ど変わらない言葉が口から洩れる。
しかし、クラスが嘲笑や失笑に包まれることもなければ、若松志乃亜が怒りに肩を震わせ、チョークを折ることもない。
「体調が悪いなか貴重な意見をありがとう。何となくの方向性は分かったけど、出来れば具体例が欲しい。
ゴミ拾いとか、ペットボトルキャップ集めとか、ベルマークとか、アルミ缶集めとかさ……皆も彼見たいに先ずは方向性だけでもいいから、『先ずは何を重要視するのか?』テーマ見たいなモノから考えてみてくれないかな?」
原作と多少異なるものの、ルール分岐をするまでには至らないようだ。
俺は重い腰を椅子に降ろした。
予想以上に大声が出た。
オマケに全身から滝のように汗が吹き出てたためシャツが張り付いて気持ち悪い。
多分目も血走っていたことだろう。
うんこを我慢していたと思われて小ザマァされたとみなされれば、最悪の結末は回避できるかもしれないんだけど……
「体調悪そうだけどもしかして……」
「みなまでいってやるな……」
「武士の情けをかけてやれ……」
など、ざまぁされたと言って差し支えない雰囲気になっている。
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