桜の木の下には
「ねー、霧馬君」
新年度が始まった頃、彼女が俺に話しかける。
「何だ?弥帆」
「うちの高校の裏にある桜ってさ―――」
「告白すると、幸せになるってそれは良くある話だろ?それ」
『良くある話』だろ、そう思っていた。
―――その時、彼女の目が笑っていなかった事は当時の俺には分からなかった。
▪▪▪
あれから、数年後。
大学を出た私たちは、再び出会うことになった。
「久しぶりだな、弥帆。調子はどうだ?」
彼がそう話を振る。
「普通よ」
「そうか」
それから、通った高校に行ってみる事になった。
「そういえばこの桜の木って、なんか噂があったよな」
「ええ、そうね」
「その噂って、確か……」
彼が言うのを、私は遮る。
「それは私から言わせて。この桜の木の下で告白すると、霊に取り憑かれるって話で」
「おいおい、そんなおっかない話だったか」
困惑する彼に、私は嘲笑う。
「これはほんの冗談よ」
そう言いつつ、私は彼に近づく。
「この桜の木の下にはね、貴方が高校から付き合っていた女達が眠って居るのよ」
▫▫▫
それを聞いた俺は、冷や汗をかいていた。
俺が付き合っていた『彼女』は、弥帆が転校する前に行方不明になっていると聞いていた。
でも、今になっても『彼女』の行方が分からない理由は――
その時、俺の腹に何か刺さるのが分かった。
「……弥帆、ど、どうし、て……」
「残念ね、霧馬君。貴方には生きる資格なんてない」
その言葉を最期に、何も聴こえなくなった。
▫▫▫
「ねえ、あそこの桜の噂って聞いとる?」
「あーあー、あれね。失恋した女性が自殺したっていう噂でしょ」
「そうそう。気になる人の名前を書いた紙を埋めると、呪いがかかるって話でさ」
「えー、なにそれ」
▪▪▪
『本日、午後4時35分。男性を殺害した容疑で、無職の天名弥帆を逮捕しました。他にも殺害容疑がある疑いで取り調べをするとの事です』