三十一話 エンカウント
「啓?」
急に後ろから声をかけられ、振り返るもそこには誰もいない…わけではなく、視界の下の方で何かが跳ねているのが視認できた。
「お、凪じゃん。よっすよっす」
「お、って最初からわかっててやってたよね? 啓」
「バレたか」
「バレたかって…何年啓の友達やってきてると思ってんのさ」
「うーん…一日?」
「今日だけじゃん!」
「じゃあ二十年!」
「ながっ! …って言うよりそれまだ生まれてないよね!?」
さっきから軽快にツッコミを飛ばしてくるコイツは 秋霧 凪 俺の中学時代からの親友で、特筆すべきはその容姿だろう。
もう高校生になるにも関わらずその身長はなんと140に届いていないのである。そしてその身長に見合った童顔と中性的な声を兼ね備えており、初見で男子高校生と看破することは不可能に近い。おそらく最小サイズだろうが、明らかに制服に着られている。
まさに合法ショタ。そう言うのが好きなお姉さんがいようものなら一瞬でお持ち帰りされてしまいそうな容姿である。
まぁ仲良くなった理由は単純で趣味があったからだ。…まぁどっちもほぼぼっちだったって言うのもあるけど。
あとラブコメで中性的な親友が実は女の子で……みたいなのがあるが先に言っておく。凪は正真正銘の男だ。え、なんでわかるのかって? 修学旅行の時に確認済みだからさ!
まぁ趣味も合うし話しやすいしで理想の友達と言っても過言ではない。そして凪の素晴らしい点の一つはストレートだろうが変化球だろうがこちらの放つボケを全てホームランで返してくれることである。
つまり凪との会話ではあのにっくき『ボケ殺し』が発生しないのである。そのおかげでまるでプロの餅つきかのようにテンポ良く進む会話。一家に一台 秋霧 凪 である。
「あ、そうだ。せっかくだから写真撮ろうよ!」
そう言って笑顔で俺を看板の方に引っ張って行こうとする凪。
「わかった! わかったから引っ張るな!」
まぁ実際は力弱すぎて全然引っ張れて無いんだけどね。
「はーい。じゃあ撮るわよ〜」
そう言いながらこっちにカメラを向けているのは凪のお母さん。その容姿は凪に瓜二つで、双子と言っても疑う人はいないだろう。
…そしてその隣で腕を組んで立っているのが凪のお父さん。明らかに2メートルを超える身長に鍛え上げられたその筋肉。最初見た時マジで吹き出しそうだった。
しかも全然喋らないから初対面の時マジで怖かった…まぁただの人見知りなんだけどね。家行った時すごい優しかったし。
そんなことを考えているうちにどうやら撮り終わったらしい。
「家族で写真撮るならお撮りしましょうか?」
「あらそう? じゃあせっかくだしお願いするわね」
「はい。それじゃあ並んでください」
俺がそう言うと看板の前に並ぶ三人…父親一人に子供一人にしか見えん……凪のお母さんの遺伝子強すぎない?
「それじゃあ撮りますよ〜」
そういって撮っていくのだが……
全く笑わん…あの人。
そう、凪のお父さんが全くもって笑わないのである。ひょっとして表情筋固定されてます?
そんなことを口に出せる訳もなく、結局一度も凪のお父さんが笑うところを写真に収められずに撮影は終了した。
「確認していい?」
「良いですよ。どうぞ」
そう言ってスマホを凪のお母さんに返す。
「よく撮れてるわね。ありがとう」
「いえいえ」
「あら、あなたとても楽しそうに写ってるわね!」
「そうだな」
嘘でしょ!? あれってめっちゃ楽しんでる時の表情なの!?
…というより今日凪のお父さんの声聞いたの初めてだな……
「じゃあ今度は僕が撮るよ! 親御さん呼んできたら?」
「ん? あー…」
「どしたの?」
「今親いないんだよね…」
「え? なんで?」
まぁその反応が普通だよね。というわけで…
少年説明中…
「なるほど、海外転勤か…じゃあしょうがないね」
「そうなんだよなぁ」
「あ、じゃあ今って一人暮らし?」
「そ、そうだよ」
因みに今星影さんと同居中なのは伏せてある。別に凪の事信頼してない訳じゃないんだけどね。
情報はどこから漏れるかわかったものではない。気を付けておくのに越した事はないからね。
…相談したから凪は俺が星影さん好きな事もフラれた事も知ってるしね……
「あ、じゃあ今度遊びに行ってもいい?」
「え……じ、実は前の家じゃ広過ぎるからって引っ越してね。い、今はまだ荷物の整理が終わってないから、呼べるとしてもしばらく後かなぁ(オタク特有の早口)」
「わかった! また呼んでね!(満面の笑み)」
やばい…罪悪感がすごい……浄化されそう………
「じゃあもうやる事ないし手続きしに行こっか!」
「お、おう」
そうして俺はまた引っ張られながら凪と一緒に受付へと向かうのだった…
実は凪に引っ張られる度に全く影響受けてないけど引っ張られているフリをしているのはここだけの話……
この話はどうしても一回にまとめたかったのでちょっと長くなりました。




