9
カバンからお気に入りの香水サムライを取り出し、手首にシュッシュッと吹きかけ、首のあたりにすり込み、初めてのデートにワクワクしながらどこに行こうかジンは校門前で考えていた。
ジンが女神の彼氏になった事は掃除の時間に埃と共に舞い上がり、生徒の耳に舞い降りていた。
下校のチャイムと共に、スタスタ帰る生徒を横目に、部活動の勧誘の声、野球部の青春の声が鳴り響きはじめたが、真理が校門の前にまだ現れず、血まみれのトビが現れた。
「何してんだよジン…」
「真理さん、剛力強に連れてかれたぞ!」
「何浮かれてんだよ!」
「彼女守れや…」
トビの顔の傷を見て、ジンは怒りを超えた冷静さと狂気を剥き出しにしていた。
「トビ、わりぃ!」
「どこいったかわかるか!」
トビが息を整えながら「体育倉庫、マットあるとこ、ステージの右側…」と答えた。
ジンが学校の構造を理解していないだろうとトビがとっさに的確に教えてくれた。
「わかった!」
「行ってくる!」
初めてトビがジンに怒鳴った。
「おい!1人で行くのかよ!あぁ?」
「俺はジンのダチで、相棒じゃねぇのか?」
ジンはこんな状況にも関わらず、ダチの、相棒の頼もしさを感じていた。
「わりぃ…ちょっと力貸し手くんねぇかな?」
トビがニカっと笑う。
「あたりめぇよ!」
二人が体育館たどり着くと、剛力派30名が立ち並ぶ。
トビが「おりゃ‼︎」と先陣を切る。
ジン横に並び、的確に相手の急所だけを狙い、倒していく。
トビはなぜか正拳突きでガンガン殴っていた。
残り6人くらいでトビが「行けよ!」
と一言放つ。
6対1じゃ袋叩きだが、ジンは倉庫の扉を開けた。
真理のワイシャツボタンは弾け飛び、エメラルドグリーンの下着がチラついていた。
「コラ!」
「剛力!コラ!」
「俺の女に何しとんじゃ!」
涙目の真理がジンを見て「たすけて…」と求める。
ジンの狂気が完全に目覚めた。
剛力は、ジンへの敗北から体が動かず、言葉を失っていた。
剛力が真理を襲おうと四つん這いになっている所にすかさず右膝を再度鼻にお見舞いした。
ゴキュと音と共に血を噴き出す。
転がる剛力に、またがり髪を掴み右拳をまた鼻にお見舞いする。
腕を押さえ右手の人差し指を手の甲に向けた思い切りへし折る。
さらに右拳を強く固めて再度鼻を狙った時に、剛力が謝ろうと口を開く
「ずびばぁ」
ジンの中指に剛力の前歯が突き刺さり、前歯をへし折る。
ジンの拳で歯をへし折ったが、ジンの拳も歯で傷つき、指の骨を剥き出しに血をふきだす。
「はぁがぁぁぁぁあはぁがぁぁぁぁあ」
歯が抜け、血が喉へと流れ込み剛力の滑舌が悪くなる?
「歯が?ハガ何?」
再度血まみれの拳を口めがけて振り下ろすジン。
「ハガ強?歯が弱しだねぇ!!」
ビチャビチャっと音を立て、剛力強、歯が弱しを制覇した。
短ランを脱ぎ、真理にそっとかけ、体育倉庫を後にした。
体育館では、血だらけで横たわるトビが「余裕ー」「また明日」と手を振った。
体育館のギャラリーで、3女神の佐藤麻由子がトビを見つめていた。
「トビ、また明日!」
「今日は助かった!」と言い
ジンが真理の肩を抱きながら、体育館を後にした。
「初デート台無しにてごめんな、真理…」
首を強く振り、涙を拭い、ジンの胸に顔を埋めた後、ジンの顔を見上げる真理。
「最高の初デート!」
「一生の思い出!」
「ピンチに駆けつけるヒーローだよ!」
「私だけの鬼馬に乗ったダークヒーロー!」
涙で目の下を赤くした、女神の笑顔は、俺だけに微笑んで欲しいと、真理をギュッと強くジンは、初めて出会った駐輪場で、抱きしめた。
若い2人の唇が夕日に照らされながら交わる。
カビ臭い体育倉庫の、血と愛で満たされた2人だけの思い出となった。
翌朝、いつもの様にトビがジンを迎えに来ていた。
「おう!」
とトビが驚く
時間にルーズなジンが待っていたからだ。
近づいてくるバイクの音でジンはトビを待たせる事なく家を出ていた。
そしてトビは嬉しそうにジンに話しかける!
「ジンありがとう!」
「昨日の剛力事件で、3女神の一年でランクインしたあの佐藤麻由子に連絡先交換する事が出来たよ!」
「本当ありがとう!」
よくわからないが、ジンは「おう」と答えた。