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家を出ると家の前には、トビがバイクにまたがりジンを待っていた。
「おせぇよ!」
「お前この時間から家出たら遅刻するだろ」
ジンの頭の中に時間通りに登校するという考えは一ミリも無かった。
「おう!トビ!」
「わざわざ迎えに来てくれたのか?」
トビなりの友情の証であった。
ジンの顔を見たトビは、まじまじとジンの顔を覗き込む。
「また傷だらけじゃねぇかよ!」
「誰と喧嘩したんだよ!」
こめかみあたりをポリポリと掻きながら、引き攣った笑みを浮かべるジン。
「親父だよ!」
「親父は親父の求めてる答えを返答しないと、すぐに暴れるんだ!」
「ハハハッ!」
ジンからしたらそんな事は日常的な事だったが、トビからしたら衝撃だった。
「まぁいいや、乗れよ!」
当たり前のようにジンが、トビの後ろに乗る、ジンの通学路にバイクの音が響き渡る。
学校の近くの売り家のガレージにトビがバイクを隠した。
朝のホームルームの鐘が鳴ると同時に2人は学校に到着した。
クラスが別々の2人は教室の前で分かれた。
オールバックに短ラン姿のジンを担任目が捕らえる。
「おい!鬼馬!」
「その格好は何だ?」
「授業中にタバコ吸った事もきいてるんだぞ!」
上から目線の担任に向けるジンの目は殺気に満ちていた。
担任は20代後半の、男性だ。
「え?」
「親父からもらった学ランおかしいっすか?」
そういいながらジンは、担任の立っている教壇に近づき、グッと担任の胸ぐらを掴んだ。
「な、なんだ、せ、先生に暴力する気か?」
ジンに迷いわなかった。
グッと掴んだ胸ぐらを少し緩め、担任がスッと後ろに下がる瞬間、再度力を入れ担任を引くと同時に鼻に頭突きをした。
担任の鼻の骨が鈍い音を立てたのが響き渡るほど、クラスの空気は凍りついていた。
「あぁあぁ…」
「はぁはぁ…」
担任が鼻を押さえ、怯えた目をしていた。
きっと喧嘩や暴力とは無縁の生き方をしていたのだろう。
「みんなは1時間目の授業が始まるから座っていなさい!」
「お前は、私と校長室に来なさい。」
自分の席に着く事もなく、ジンは校長室に誘導された。
だるそうに担任に着いていくジン、校長室は学校内の中心にあり、立派な木の扉になっていた。
担任がノックしドアを開けた。
「失礼します。」
「私に手を上げた問題児の鬼馬をお連れしました。」
「校長自らご指導と罰を与えてやってください。」
小太りの校長が、肩をガクッと落とし、諦めた表情をしていた。
「奥山先生…」
「申し訳ないが、鬼馬はあなたのための勉強ですよ…」
担任の奥山は思っていた返答と違い驚くと同時に、自分の耳を疑った。
「それはどうゆう事でしょうか?」
立派な椅子に座っていた校長が立ち上がり、ジンに歩み寄る。
「私が、奥山先生くらいの時の教え子が、鬼馬顕巳、彼の父親だよ!」
「授業中にタバコ、麻雀、二階から人を投げる…」
「ただね、彼を観察してるとね、私が学んでいたのだよ!」
「彼の兄はボンボンって感じだけど、鬼馬神は、顕巳と同じ目をしているよ!」
「今日の事は私を信じて許してやってくれ!」
担任の奥山は、学校のトップに言い返す事が出来ず、「はい…」と一言発しモヤモヤした気持ちと共に、ジンを連れ校長室を後にした。
校長は少し嬉しそうに笑っていた。
教室に戻る途中、レザーの眼帯をした富山と担任とジンが鉢合わせる。
「おう!ジン!」
「教室行ったらいねぇから探したぜ。旧校舎いこうぜ!」
担任は富山にビビりながら教室に向かった。
「あ、いいすね!」
ジンは富山の隣に並び、歩き始める。
「その短ランいかしてんじゃん!」
「盗撮の奥山がジンの担任?」
「この短ランは親父に貰いました!」
「てか盗撮の奥山?」
長ランを靡かせ、ゲラゲラと富山が笑う。
「あいつ盗撮してんのよ!」
「それもババァ専門でよ!」
ジンもゲラゲラと笑い出した。
くだらない話をしながら二人は、旧校舎の保健室にたどり着くと同時に、ジンがタバコを取り出し富山へ差し出し、火をつける。
そのあと自分もタバコを咥えて火をつけた。
二人は、タバコを吸いながら退屈に浸り始めた。