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新しい筆入、新しいノート、初々しい空気、夢と希望で溢れている教室の雰囲気にジンは押し潰されそうになっていた。
初日を出遅れ、クラスメイトの名前すら知らない、昨日きっと自己紹介の時間とかがあったのだろう。
先生の目を盗み、小さな紙を回してる、その紙を開くたびにチラチラとジンを見てはクスクス笑う。
ジンは先生の目を盗み、タバコに火を付けた。
黒板を見ている時に吸い、こっちを見ている時は机の中に手をいれた。
当然バレバレの行動だが、先生は知らないふりをしている。
生徒と関わるのが嫌なのだろう。
休み時間に群がるクラスメイト、つまらない授業、あばらの傷を癒すかの様にジンはその日ずっと寝ていた。
昼休みこの学校は、給食ではなく弁当制だった、牛乳だけ配られ、弁当を作ってくれる親はいないため、ジンはコンビニに買いに行った。
教室に戻ると、皆が弁当の中身を見せ合っていた。
ジンは、105円のメロンパンをかじりながら、皆を眺めていた。
教室の入り口に富山さんのパシリが息を切らしながらジンを呼ぶ。
「き、鬼馬さん!」
「ちょっと助けてください!」
クラスメイトの視線がジンに向けられる、2年生の先輩に敬語で助けを求められる。
ジンは自分の居場所を見つけた気がした。
「おう!」
ちょっとカッコつけるジンがいた。
富山派とぶつかっていた、剛力派とのいざこざの様だった、富山さんが眼科へ行っている隙を見ての事だった。
旧校舎の保健室の取り合いだ。
剛力派約30名、富山派ジンを入れて3名。
富山は、己の力とパシリ2人だけで君臨していた。
グランドにはずらりと剛力派並んでる。
「鬼馬さん…どうしますか?」
退屈な時間から一変、ジンはワクワクしていた。
まずは狭いところに誘い込んで、一対一ずつにしようと考えたが、グランドの真ん中にそんな所は無い…
ジンは考えるのをやめた。
「あー耳がいてぇなー!」
「くそがきぃぃい‼︎やれ‼︎」
剛力派がジン目がけて走って来る、目、鼻、のど、そこだけを狙いジンも対応する、だが人数に押されていく、口の中は切れ、鼻血がワイシャツを赤く染める、左目は大きく腫れ上がる、「あたし強い人が好きだから」なぜかこんな状況で女神の声が頭の中で響く。
拳を強く握り、両脇をしめ、冷静に殴り始めるジン、拳の皮は剥け、どっちの血かもわからない。
剛力を含め残り6人…
昼休みの終わりのチャイムがなる…
殴り合い終了のゴングへと変わった…
旧校舎の保健室でパシリが掃除をしていた。
ベットの上で寝ていたジンが目を覚ます。
「ずいぶんと楽しそうだったね!ジンちゃん!」
女神が横にいた…
「真理さん、授業中ですよ?」
女神が笑顔をこぼす、ジンはその笑顔を見るたびに胸がキュゥっと締め付けられる感覚が好きだった。
「ジンちゃんも授業中ですよ?」
「パシリ君、もう戻りな!」
異様なほど自由な女神は何者か気にはなっていたが、ワイシャツの隙間から見えそうな胸元のほうがその時のジンには一大事だった。
「どこみてんの?」
「見たい?」
そんな悪魔の囁きにジンは、ごくりと音を立て、唾を飲み込み、何度も頷いた。
「付き合ったらいくらでも見せてあげるよー!」
そう言って、ベットに腰掛けていた女神がピョンと跳ねる。
短いスカートがフワッと舞う。
水色だった…
「見たな?」
「こいつ〜‼︎」
女神がジンの頬をつねる、殴られた傷が痛むが幸せ時間だった。
「す、すみません、見るつもりは無かったんですけど」
「てか俺、真理さんから見てまだ弱いですか?」
まだ出会って一週間程度なのに俺は、焦っていた、それほど女神は美しく、可愛いのだ、他の男と付き合ったりしたらと思うと…
「君強いよ!うん‼︎強いよ!」
「ただ付き合うまでの過程も楽しみたく無い?」
「今は彼氏候補って事にしよ!」
「ダメ?」
ジンは首を激しく横に振り、傷だらけの顔で笑顔を作った。
「ダメじゃないです!」
「嬉しいっす!」
女神はニコッと笑ながら手を差し出す。
「じゃぁ今日は、家まで送ってもらおうかな!」
帰り道、嬉しさで何を話したかよく覚えていない。
職員会議で、今日が早く帰れる日だった事に感謝しながら、二人の時間に浸っていた。
女神の家は大きな門のある家だった…
「真理さん…立花組って…」
全身が凍りつき、数日間の男の勲章がズキンズキンと痛む…
そこは親父が副組長を務める組織だった…