表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春狂想曲  作者: 伸近藤
3/17

3



新聞配達のバイトが、小学校を卒業するまでだったのが、不幸中の幸いだった。

剛力の背中で一服した後、ジンは2時間かけてきたくしていた、当然あばらの骨にヒビが入ったままだ。

親の干渉の無いジンは初登校日、学校には無断で休む事にした。

鈍い痛みがずっと続いていた。


次の日ジンはコルセットを巻きあばらを固定し、登校した。

校門の前には女神が立っていた。

声をかけていいのか迷っていた、その時救急車のお礼を言う口実を思いつくジン。


「お、おはようございます」

「一昨日救急車ありがとうございました。」


彼女がニコッと笑う、その笑顔を見れただけで幸せだった。


「おはよ!昨日学校サボったな?トイレの神様!」


トイレの神様?何のことかさっぱりわからないジン。


「トイレの神様?」


申し訳なさと、面白さが入り混じった様子で女神がこたえる。


「みんな言ってるよ!」

「トイレでボコられた神」

「トイレの神様」


普通ならこんなあだ名嫌がるのだろう、彼女もきっとから書いたかったのだろう。

でもジンは喜んでいた。


「カッケェ‼︎」

「なんか強そう‼︎」


クスクスと真理がわらいだした。


「やっぱ君変わってるね!」

「剛力と別れさせて何が目的?」


真理の本題はそこだった。

それもそうだいきなり彼氏をボコった相手に心を開けるわけが無い。

まして耳を削ぎ取った不気味な俺を…


「好きです」

「付き合ってください」


真理が腹を抱え笑い出す。


「ここで?朝イチに?いきなり告白?」

「初めてだよ、ちゃんと告白する人」

「ありがとう、考えておくよ!」

「でもあたし、強い人しか興味無いから!」

「この中学は強い人ばかりだよ〜♪」

「じゃ!」


短いスカートも自分に手を振っているかの様にジンは彼女の後姿に見惚れていた…


教室に着くと、一年の教室なのに、ニ年の先輩が四、五人俺を待ち伏せしていた。

数分前のキュンキュンした時間がギスギスした雰囲気へと変わる。


「やっと来たよ!トイレ君!」

「富山さんがお呼びだよ!」


そう言われジンは旧校舎に連れていかれた、旧校舎保健室、昨日の血が生々しく残っていた…


「富山さん連れてきました」


180センチはあるだろう、ガタイのいい長ランを着た、先輩がうんこ座りしている。


「この血の犯人、君?」

「これ見てどう思う?」


こいつが親玉だな?

強さが滲み出ている、万全な時ですら勝てそうにも無いと、本能がそう言っていた。


「美しい…」

「ですかね…」


巨体のわりに早かった、富山の拳がミゾをえぐり、ジンの呼吸が止まる。

酸素を吸おうにも、体は酸素を吐こうとする、膝がついたら動けなくなる、ジンはとっさに歯を食いしばる。

富山は、やり合う口実が欲しかったのだろう。

すかさず左頬を殴られた。

歯を食いしばって無かったら、アゴが外れていただろう。

とっさにジンは富山の髪を掴み、富山の右目に指をねじ込んだ、生温かい温もりが指にまとわりつく、溢れてくる涙が生々しく染まった床を洗い流す。


「あ、があぁ、」

「クソ…あぁ…」


右目を押さえた富山が笑っている…


「お前…いいな!」

「狂ってるな!」


息を整うまで時間がかかった。


「富山さんすみません…」

「とっさにやっちゃいました。」


ジンもぼろぼろだった。

富山もぼろぼろだった。

言葉にならない子弟関係がそこには生まれていた。


「俺の舎弟なれよ!」

「一等兵に任命してやるよ」

「タバコあるか?」


愛用のピースライトを富山に差し出し、渡すなりすかさず火を付けるジン。

フーっと富山が白い煙をだし、タバコの口をジンに向ける、交互に一本のタバコを一口ずつ吸う2人。

タバコが短くなり、富山がジンの左手の甲にジュウ…と焼きを入れた。

ジンは無言で耐えていた。


「手の甲は、一等兵」

「二の腕は、二等兵」

「肩には、三等兵」

「ちなみに俺の舎弟で一等兵は神!お前が初だ!」


ジンは嬉しかった、自分を必要としてくれる存在が出来たこと、訳のわからぬ愛情表現だが、ジンは嬉しかったのだ。

富山はその後眼科へ行き失明していると医者に言われたが、それほど落ち込んではいなかった。

海賊の様な眼帯をつけ、男が上がった事を喜んでいた。


説明会から初めての教室、入学式ではトイレしか行っていなかったからだ、自分の席に行くと、1人の女の子がジンの机を拭いていた。

机に書かれている、トイレの神様、ウンコマン。

中学生らしい嫌がらせだ。


「ごめん、俺の席だよね?」


机を拭いている女の子が顔をあげた、剛力に旧校舎の保健室で抱かれていた子だった。


「この間は、ありがとうございます…」


そう言ってその子は席へと戻る。

助けたつもりではないが、この子からしたらそう捉えられたのかもしれない。

同じ小学校だった奴らが、有名になったジンを取り囲み、友達面してくる。

駐輪場では逃げ、剛力にトイレで殴られた時は誰も助けず、こいつらは本当に友達なのかと、ジンには疑問でしかなかった…


ただ、富山さんからの最初の任務が、「ダチを作れ」だった…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ