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青春狂想曲  作者: 伸近藤
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ジンは入学式前の中学の説明会、小学生ながらに、新しい世界で大人になれる事を楽しみにしていた。

同じ小学校の友達と指定された駐輪場へ自転車を停めた。

皆新品の自転車に、新しいヘルメット、新しい学ランに身を包み、初々しかった。

ジンは突如転校した2つ上の兄のお下がりの自転車と学ランだった。


「新入生は自転車の位置を確認したら体育館へ移動して下さい」


大人びた声の先輩が皆を誘導していた、皆がスタスタと歩いて行くなか、ジンは悪戦苦闘していた。

お下がりの自転車の鍵が錆びて締まらないのだ。

ジンは一緒に来た友人に先に行くように伝えてからも、錆びた鍵と戦っていた。

まるでこの時点でお前は劣っているんだとでも言われてるかのように感じていた。


「あれ?爽ちゃん?」


ジンは、その声に振り向く。


「あれ?自転車は爽ちゃんのだけど顔が違うね?」

「弟くん?」


ジンの言葉が詰まる、ジンの心臓がドクンドクンと暴れ出し、顔面に勢い良く血液をこみあげる。


「は、はい」

「お、弟です。」


彼女が首を斜めに傾けながら、ジンの心配をしてくれた。

「早くしないとおくれちゃうぞ?」


急いで鍵を締めようと力を入れた、さっきまでびくともしなかった鍵がガシャンとスムーズに閉まる。

ジンは彼女は自分の幸運の女神に思えた。


「あ、ありがとうございます」

「そ、それでは失礼します。」


体育館の中に集まり言われた列に並び座っていた時ジンはずっと彼女の事ばかり考えていた。

ショートヘアーに、甘い香り、少し短めのスカート…

頭の中は彼女の事でいっぱいだった。

校長先生の長い話が終わり各自指定された教室に行き、担任になる先生と顔をあわせた。

本来入学式後に教室の場所や担任と顔をあわせるはずだが、この学校は学区が広く、一学年10クラスあるマンモス校だからなるべくスムーズに入学式を終わらせるために必要な説明会だった。

全てが終わり朝一緒に来た友人と駐輪場へ向かった。

なぜかジンの自転車だけボロボロに壊されていた…

慌てて友人達が逃げていく、後ろから見るからに不良とわかる先輩達がジンを取り囲む。


「爽ちゃん元気?」

「また遊びたいな〜!」

「弟くんを生贄に逃げたのかな?」


ジンは今朝自分の母に言われたことを思い出す。「自分の身は自分で守りなさい」言ってる意味を今理解した。

兄はいじめられて転校した…情けない…

ジンは何も言葉が出てこなかった…


「入学式ちゃんとおいでね!」

「バイバイ」


黙りしているジンを冷やかし不良達は、消えていく、平成なのに長ラン、単ランでバチバチ決めてるヤンキーだった。

ジンの通う中学は、酒岡市のナンバースクールの中でも超不良中学の第四中学校だった。

他の学校からは死中学校と言われていた。

そのため隣の中学に入学する者もいた。

 入学式、ジンの家は長男、長女が絶対の家柄だったため、他の家族が親子で登校するなか、歩いて1時間かけて登校していた。

そんなジンは、愛される事を諦めていた。

ジンは校門の前で少し髪を整えて深呼吸した。

説明会からずっとジンは彼女の事を考えていた。

ジンはドキドキしながら一年四組、自分のクラスに向かった。

その時肩をトントンと優しく叩かれた、ジンはなぜか彼女だと思い振り返った。

そこには駐輪場で絡んできた先輩達がいた。


「弟くん!」

「トイレ行こう!」


ジンは、何も言わずにトイレへついていった。

両腕を押さえられ、ボス的な男がポケットに手を突っ込みメリケンを取り出し両手にはめ、躊躇なく左肋骨を殴る。

メリメリ、ミシミシと鈍い音が彼の身体に染み込む。

呼吸が止まり、身体は酸素を吸おうと肺を膨らまそうとするがいう事をきかない。

腕は押さえられたまま、右の肋骨も殴られる…

ゲラゲラ笑いながら先輩達はうずくまるジンを大便器に連れて行く、廊下を歩いていた担任と一瞬目が合った気がした。

大人の助けはなく、大便器に顔を埋められ水を流される。

呼吸の出来ない身体が便器内で溺れていく。

目を覚ますとジンは、病室のベットの上だった。


「ば、ばぁちゃん」


ジンのばぁちゃんは酒岡市立病院の婦長をしていた。


「ずいぶんやられたね!」

「爽ちゃんをいじめてた先輩かい?」

「ジン、あんたも転校しな!何も兄のけつぬぐいする必要なんかないんだよ?」


ジンは、悔しかった。

小柄な柄に腕っ節には自信があったからだ。


「あいつら卑怯だ…」


ばぁちゃんは声高らかに笑った。

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