ライリーさん一家
「うぁ~~♪凄いですね!大きな建物が一杯です!」
美しい街並みに感嘆の声を漏らすのは、メイド服を着込んだティナその隣には妹を微笑ましい笑顔で見つめる姉のクラリッサもいる。そして俺の隣にはアドバイザーとして参加してもらったヨナだ。
俺達が訪れているのは東域最大の都市である東都メランブル、東域最大の勢力を誇っているメランブル公爵の領都にして人口は30万を超えこの地域で最も古い歴史を誇り栄えている街でだ。
公爵はそれなりに上手く統治しているようで、街往く人々の表情も暗く無いし街も活気に溢れている。だがそれはこの街の一面でしかない、今いる場所は二重の城壁に守られたその内側の地域で主に貴族や大商人などの富裕層が暮らす土地だ。内側の城壁である第一城壁を越えると街の風景は一変する、粗末な建物が建ち並び街には物乞いが溢れており、疲れた表情や痩せた粗末な服装をした住民の姿が多く見られる。
彼等は必死に働いてももその日の些末な食事を食べるのが精一杯な生活をしているが、それでも城壁の外に広がるスラムで暮らす住民より余程ましだった。スラムには周辺の貧しい住人が集まり暮らしていたが、彼等は仕事も無くその日の糧を得ることも出来ずたまに行われる街の日雇いの仕事で辛うじて生きているに過ぎない。この街でも底辺の者達が暮らす街だ。
どうして俺達が突然にこの街にやってきたか、その目的は簡単に言うと買い物です。決して暗殺だとか破壊工作といった物騒なもんじゃありません。
実は会議の行った日の翌日に最果ての森に住む他部族たちに動きがあったのだ、具体的にはエルフ、ダ-クエルフの集落と、何故かラミアのお姉さん達の集落からも人狼族の集落へ向け、十数人の一団が向かっている。おそらく何らかの会合が行われるのだろう、そして間違いなく議題に俺達の事が上がるはずだ。
そして近いうちにこちらに使者が送られてくるはずだ。
俺達としては既にこの最果ての森の俺達の城館があるあの場所で国を造る事を決めている。今更『俺達の聖地なのでどいてください。』と言われてもそれを聞く事は出来ない。
ならばどうするのか?勿論戦争はするつもりは無いのでまずは交渉だ。出来れば配下と成って欲しい所だが、未だうちは人口30人の小さな開拓村程度の人口しか持たない弱小勢力だ、それは難しい。
今回の交渉では俺は同盟関係を相互に結べればそれが最善だと思っている。次点で相互不可侵ってところだ。最悪敵対関係に成らなければ良い。と言ったところだ。その為に先日エルフやダ-クエルフ達を救出した恩と食料の援助をカードとして使うつもりだ。
そんな交渉時に俺達が粗末でみすぼらしい恰好をしていたら相手がどう思うか?
当然良い印象は持たれないだろう、誰も力無く貧しい国と同盟など結べないし、その必要性も感じないだろう。
少しでも交渉相手に良い印象と俺達の力を見せる為にまずは、俺や娘達、特に娘達を着飾らせる事にしたのだ、今皆が着ている服は大体が盗賊達からの略奪品で当然男物が多くサイズも違えば趣味も悪い、略奪品の中にあった僅かばかりの女物服でなんとか遣り繰りしている状況だ。
それでこれを機会に娘達の服や装飾品を求めてこの街にやって来たのだ。やっぱり可愛い娘達に粗末な服いつまでも着せて置くわけにはいかんしね。
こうしてアドバイザーとして元商家のヨナさん、この街での俺のコンセプトが金持ち君主のボンボンって事からメイド姿のクラリッサとティナを連れて遥々この街までやって来たのだ。
まず入ったのは、街の中心に有り高級な店が立ち並ぶメインストリートに有る高級店、早速其処に飾られている豪華な衣装を物色してみたのだが
「ご主人様、とてもこの様な豪華なドレスは私に似合うとは思えませんので‐‐‐その・・」
「私も遠慮したいかな、なんか見てると眩しくて眼が痛くなりそう。」」
「ラルフ様がどうしてもと言うなら・・・」
うん。うちの娘さん達はお気に召さないようです。
うん。その気持ちよく判ります
何と言うかまぁ、派手なのだ、そこらじゅうに派手な刺繍や豪華な飾り付けがなせれた眩い衣装、中には金糸の糸で造られた生地の衣装もあり、店内の照明を反射し輝いて見える。
正直言ってそれを着る女性よりも衣装が主役に成ってるようだ。そんな成金のマダムが好んで着そうな衣装をうちの娘達が着用するのを思い浮かべてみたが
うん。無いわ。
そそくさと高級店を後にして別の店を覗いてみたのだがどこも最初の店と大差なかった。
「参ったな。ここまでとは、少しはマトもな店も有ると期待したんだが。」
「ご主人様、なんなら私が生地さえあれば何とかしますが?」
「ほんとになんか眼がチカチカしてきました。」
「こんなのが今のトレンドに成ってしまったのでしょうか?」
いっそのことクラリッサの言うように生地だけ買って何とかするか?とも考えたがせっかくこの街まで来たのだと思い直して外側の第二城壁の方も一応見てみる事にした。
第二城壁の比較的賑やかな通りに来てみたのだか、今度は別の問題に直面して頭を抱える事になった。どこも庶民向けの店だけあって値段は安いが、素材も悪く地味なのだ。これなら今持っている服と大差はない。
「先程までの店よりはマトもですが・・・・」
「うん。少なくても眼には優しいよね。」
「確かに丈夫そうではありますが・・・・」
うん。娘さん達は微妙な表情です。
何というかこちらの服は地味なのだ、余裕のない人達が着る為に造られた服の為仕方無いのだろうが、これなら今娘達が着ている服の方が余程上等ではないだろうか
しかし参った、まさか金はあっても買うべき物がないとは、せっかく店まるごと商品を買占めする覚悟で来たのに。
そんな時少しメインストリートからは外れている場所にある古びた店舗が眼に入った。その開かれた扉からは何着も衣装が飾られてるのが見えた為恐らくは服飾屋だろう。ちらりと見える衣装も悪いものには見えない。
僅かな期待を胸にその店を訪れて見ると、年若い娘さんが店番をしており愛想のよい笑顔で挨拶で接客してくれた。
「いらっしゃいませ!明日で在庫がなくなり次第閉店となりますのでお安くなってます。ゆっくり見ていってくださいね。」
店は閑散としており俺達以外には客は居ないようだ、商品も山積みの状況で売れているようには見えない。
しかし其処に並べられていた衣装や装飾品はどれも洗練されており趣味も良く、素材も上質でそれに丁寧に縫製や刺繍を施された上品な物だった。店の一角に並べられている装飾品も美しい装飾が施されており一目で高価な物だと判る。
そんな衣装や装飾品が、まるで捨値のような値段で並べられている。
娘達をみると熱心に衣装を手に取り眺めている。
うん、気に入ってくれたようだ。一応確認の為ヨナに確認する
「ヨナどう想う?俺はここが気に入ったが?」
「はい、素材もデザインも良いですし、縫製の技術も高いかと、しかしこの価格は・・・物の価値に合っているとはとても、おそらくこの値では大赤字かと。」
やはりそうか、なんかなんか閉店するって言ってたしな、なんか事情があるのかもな。
すいません。と店員を呼ぶと直ぐに先程の若い女性店員が走ってきた、
背が小さいがきびきびとよく動く、なかなかかわいらしい女性だ。
「はい、なんでしょうか?」
まるで店員の見本のような笑みを浮かべながら答える彼女に
「このお店の商品全部頂きたいが、幾らになるかな?」
瞬間女性の完璧笑みが崩れた
「・・・・はっ?・・・・・・・父さん母さん!!」
そう叫びながら店の奥へ消えていったのだ
奥に消えていった店員さんに押し出されるように奥から現れて来たのは、中年の男女おそらく夫婦であろう二人だ。娘に急かされて真面目そうな職人風の主人が俺達に挨拶する。
「あ、あのこの度はありがとうございます。その家の商品を気に入って頂いたようで、お支払や直しについてお聞きしたいんてで、奥にどうぞ。」
通された部屋は作業場兼商談の場所としても使われているようで、雑多に積まれた生地や手入れの行き届いた作業道具が置かれた部屋の隅に、質素な机と椅子が並んでいる、
ライリーと名乗った主人が挨拶の後に
「あの、散らかしていて申し訳ありません。貴人をお通しする部屋などは家には有りませんのでどうかご容赦くださいませ。どうぞお掛けくださいませ。」
席に付くと質素だが品の良いカップに注がれたお茶を店員の娘さんが運んできた、どうやら今日は店は閉店したらしい。
「では、早速ですが、家の商品をお買い上げくださるとの事ですが、本当に・・・全てのお買い上げでよろしいので?」
「あぁ構いません、それでお幾らになりますか?」
「ありがとうございます。代金ですが・その金貨1500枚程になりますか・・・」
金貨1500枚と言えば日本円で1500万円だ、高いと言えば高いが、店の在庫を全て買い取る値段と成ると破格の安値と言ってもいいだろう。しかもこの世界でも最高品と思える物ばかりなのだ。
「あの・・・多少ならそのお値引きもさせて・・・」
俺の沈黙を金額が高いからだと勘違いした主人が更なる値引きを示唆してくる、この主人どうやら腕の良い職人のようだが商売人としては問題らしい、だから店もこんな状態なのだろう。
「いえ。値段はこちらは問題は無いのですが、その値段ではそちらは赤字でしょうに。本当にその値で頂いてしまってよろしいのですか?」
「はは、確かに赤字ですが、どうせこの店ももう閉めますし、その代金で借金返してもうこの土地は離れようと思ってましてね。幸い家の実家は少し余裕があるので兄貴の商売の手伝いでもしようと思ってますよ」
「それだけの腕が合ってもったいないと思いますが。」
「ありがとうございます。そんな事言ってもらったのは旦那が初めてですよ。最初は内郭で商売してたんですが地味すぎだと全く相手にされず、一念発起して、外郭のこの場所で商売始めたのですが、今度は高すぎると相手にされませんでした。最期のお客様にそう言ってもらって少し浮かばれましたよ。」
自嘲気味に話すライリーさんは少し寂しげな笑顔で経緯を語った。隣にいる奥さんと娘さんも寂しそうにその話を聞いている。
これ程の職人なら引退させるのはもったいないないな。どうせならうちに来て欲しい
「あぁ愚痴を聞いて貰ってすいませんでした、では先程のお値段でよろしかったですか?」
「いえ、やはり気が変わりました・・・・金貨5000枚で如何でしょう?」
「そんな!・・・・・・・えっ?5000枚?」
「あの・・・・?聞き間違いでしょうか?金貨5000枚と聞こえたのですが?」
「ああそちらで合ってますよ。金貨5000で此方の商品を全て売ってください。」
「ほ、本当によろしいので?」
「私はそれなりの物にはそれなりの対価を、素晴らしい物にはそれに見合う対価対価が払われるべきだと考えてます。それに、今回の買い物は私の大事な娘達への送るものです、それを捨て値で買い付けるなんて出来ませんよ。」
「ああ・・・ありがとうごさいます!」
「あなたよかったわね。また仕事が出来るじゃない!」
「でも、お父さんお店の権利売っちゃたじゃない?どうするの?」
「あぁ!そうだった・・まだ間に合うんじゃないか?早速話を!」
「落ち付きなさいあなた!まだお客様が見えるのだから!」
喜ぶライリー一家を微笑ましく思いながら俺は提案をした
「こちらからひとつ提案があるのですが、腕の良い職人とあなた方を認めた上での話ですがうちの国に家族で来ませんか?」
そうしてライリーとその家族にうちの国への移住話を持ちかけるのだたった。
急な話しに眼を白黒させながら聞いてくれたライリーさん、凄い田舎で人口も まだ少ない事なども隠さず伝えた、後から騙されたとか言われるのやだしね。
話を聞き終えたライリー一家は互いに顔を見合せせる。
「・・・・私はとても良い話しどと思うが?」
「私もそう思うわ。家まで用意してくれると言うのだし。」
「うん。これから造ったのも全部ラルフ様が買い取ってくれるって言うし。私は行きたいな。」
「ご主人様に付いていけば間違いはありませんわ。」
「ラルフ様とっても優しいから心配無いよ。」
「あなた方が決める事ですので、ですがもしこちらに来られるなら歓迎致しますわ。とても良いところですよ。」
娘達の後押しも合ってライリー一家の移住が決まりました。これで衣食住の衣の部分もかなり強化された!喜ばしいかぎりだ。
当面は城館が出来て空き家になっている娘達が住んでいた家にすんでもらう事にする。
ライリーさん達は今引っ越しの準備や借金の返済、などに走り回って貰っている、
急かして申し訳ないがこちらも忙しく、またいつこちらにこれるかわからないので今日中に出発する旨を伝えてある。
ライリーさん達が準備してる間俺達は街を廻り大量の食材や調味料雑貨などを買い込み、そして準備の出来たライリー一家と共に転移で帰還したのだった。
長旅を覚悟していたライリー一家は随分驚いていました。
しかし新居や家の国は気に入ってくれたようだ。
因みにライリーさんが装飾品のデザイン加工を、奥さんのリンダさんが主に服のデザイン縫製を担当していて、娘さんケイミ―さんがその両親の手伝いをしながら販売も担当していたそうだ。
こうしてうちの国の国民がまた少し増えたのだった。