女王コルネリア
最果ての森北部に位置する森に囲まれた美しい湖、その広さは対岸を望めば僅かに霞むほど澄んだ水を湛えたその湖の湖畔にラミア族は暮らしていた。
ラミア族、上半身は美しい女性の姿下半身は蛇の姿をし一族全員が女性という少し他の種族とは違った特性を持った種族である。性質は比較的温厚で楽天的な者が多く進んで他種族と争うような事は無いが、種族特性に毒魔法 雷魔法を持った彼女達は優れた魔法使いであり怒らせてよい存在などでは無い、現に彼女達を攫って奴隷にしようとした盗賊や彼女達の領域を狙った強欲な君主もいたが彼女達を害そうとした者達は例外無く悲惨な死を迎える事となっていた。
そんなラミアの一族を束ねる女王コルネリアは、その日里の重責を担う彼女の側近とも言える4人の戦士長達との会議を行っていた。板張りの上に精緻な装飾の施された敷物が敷かれたその部屋は
5人のラミアの女性がその長い蛇の尾を伸ばしても充分余裕のある広さだ。
そんな一族の重要な会議が開かれる部屋では5人の美しいラミアの女性が、その美しい肢体を横たえ頬杖を突きながらだらけ切った姿勢で会議を行っていた。
「ねぇコルネリア様~~そろそろ決めないと不味いですよ。今年の産卵期のお相手は何処にするんですか?」
「ですよ~今年はコルネリア様も産卵期に入るんですから、ちゃんと考えましょうよ~」
上座に座る腰まである深い紫色をした髪の妙齢の美女が頬杖を付いただらけ切った姿勢で気だるげな声をだす。
「言われずとも判っておるわ。然し其方等も今年は産卵期であろうに少しは真面目に考えるが良いぞ。」
「え~~そういうのは女王のお仕事だと思うんですけど~~」
「いつも私達に仕事押し付けてズルいと思います」
「うん、去年はミルが犠牲になってた」
「今年は逃げれませんよ、ちゃんと働きましょうね」
「ぐぬぬぅ~~」
側近達全員の主張にいささか分が悪いと感じた女王コルネリアは少しだけその懸案に思いを傾ける
産卵期それは彼女達の種族の特性上毎年この季節に起こる事だが、女性だけしか存在しない以上本来は
生物で有る以上は種を残す事は出来ない、ではラミアはどうやって種を増やしてきたのか?
それは他種族の男達を攫いもしくは交渉し他種族の種を得る事により、その数を増やしてきた。
遥か昔は強引に他種族の男を攫ってきた事も有ったが、現在では友好を結んでいる他種族に頼んでこの季節に何人かの男を送って貰う事になっている。一時の事とはいえ美女と懇ろな関係に成れるのだ、その他種族の者達も選ばれれば喜んで参加する。毎年この時期になるとソワソワしだす若い男達はおおいのだ。
選択肢は森の外の人族 森のエルフ、ダ-クエルフ、そして人狼族だ。
「う~~む、去年はエルフだったかの?ならば今年は人狼あたりに頼むかの?」
「え~~あの人達ガサツで少し匂うのよね~~」
他の三人も頻りに頷いている
「ではダ-クエルフの連中に頼むか・・・」
仕方があるまいと別の提案をすると次は別の娘が
「え~~あの人達、確かにイケメンが多いけど・・下手なんだよね~~それに目付きが厭らしいし」
他の三人も頻りに頷いている
「では・・・人族に頼むが・・・」
するとまたも別の娘から否定の言葉が
「え~~あの人達いい人だけど、変態が多いんだもん。私はパスね」
他の三人も頻りに頷いている
「・・・・では、今年も去年と同じエルフ族に頼む事となるが・・」
「え~~あの人達、優しいけど小さいのよね、オマケに早いし・・・無いわ~~」
他の三人も頻りに頷いている
またも飛び出す否定の言葉に思わず
「お主ら!そんな事ばかり言っておっては何時までも決まらぬではないか!妾にどうせよと言うのじゃ!」
と怒りの言葉を投げつけるのだが、側近達に反省の素振りは全くない
彼女達は温厚で理性的な種族だ・・・だがその反面怠惰で享楽的な性質も持っていた。
「え~~じゃあコルネリア様は何処の種族が良いんです?」
そう言われるとコルネリアも口を紡ぐ事しか出来ない、何故なら彼女達の言う事はコルネリアの感想とほぼ同じだったのだ。
だからと言って産卵期は一族にとって種族を維持する上で大切な事であり必要不可欠なモノだ。
「今年は辞めときます。』とかは流石にコルネリアにも出来ない。
内心頭を抱えるコルネリアだったが、、、、、
その時ふと、数日前に届いたダ-クエルフの族長ファルナの手紙の事を思い出した。
手紙には、この森に魔族らしき者が現れたらしい事、その者はかなりの実力者らしく、人攫い数十人を瞬く間に葬って身内を助けてくれた事
が書かれており、ただ問題は彼がどうやら我等の聖地を住処としている事でその問題を共に協議したい旨が記されていた。
あまり森の事に積極的関わるつもりのないコルネリアはこの手紙に然したる関心を覚えなかった。どうやら敵対的な存在では無さそうだし、聖地についても足を踏み入れた事も無い地だ、敵対勢力が住むと言うなら問題だがそうでなければ特段気にすることではない。
そう思っていたのだが・・・・魔族か・・・
それは最早伝説となっている種族だ、神話の大戦時前にはかなりの数が居たが、大戦で大きく数を減らして僅かな生き残りも400年ほど前に忽然とこの世界から姿を消した。身内の争いで滅んだとか魔族だけ罹る疫病に襲われだの、強大な魔獣に滅ぼされただの様々な憶測がとなえられているがその真実は未だ解明されていない。今伝わって居るのは精々が強大な魔力を誇り強力な魔法を操ったという事ぐらいだ。
妾の30年ぶりの産卵期に現れた魔族か・・・・・・・・・・・・・うん。。良いのぅ。。
その美しい紫色の瞳に僅かな欲望を湛え、ニヤリと笑った。獰猛な肉食獣の様な笑みを浮かべたラミアの美しき女王は
即座に協議への出席を決め・・突然の女王の行動に混乱する側近達を尻目にダ-クエルフの族長ファルナに対し出席の旨を伝える手紙をしたためるのであった。
「