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アウグスト戦記   作者: 青い眼の兎
序章
12/40

セラ ダーフィールド

「ほえぇぇぇぇ!こいつが転移ですかい!凄いですぜ兄貴!」


俺とクライドが2人で向かったのは、長閑だが寂れた感じのする小さな村だ。

この村にクライドと妹のセナが暮らす家があるらしい。

オ-ク狩りの予定を午後に回す事にして、先にクライドの妹の病を治す事にしたのだ。

クライドの必死な様子を見てアイリ-ン達も納得してくれた、今は新人眷属と闇魔法の訓練中のはずだ。ルナはベットで爆睡していたが。


「兄貴こっちですぜ。むさ苦しい家ですが案内しますぜ。」


まるでヤクザやマフィアの下っ端の様な態度だが、まぁこれがこいつ為りの敬意の表し方なんだろう。

クライドの妹を治すに当たっての契約はすんなり決まった。

 俺はクライドに話したのは妹の病が治ったら

・俺に配下として仕える事(報酬は月金貨100)、

・女神教に改宗し人攫いや弱者を害す行為は今後行わない事、

・望めばクライド達の家を新たに用意す事

ぐらいだったのが、その全てを即決で了承した、それ所か家を用意してもらえるなら金はそんなに要らない、月30枚で充分だと言っていたぐらいだ。俺的には金100枚でも安すぎるぐらいなんだが。


やがて粗末な板葺きの家の扉の前でクライドは止まり兄貴ここです。と扉を開けて家の中に俺を招き入れた。


「セラ帰ったぞ!」


「お兄ちゃん!もう遅くなるならちゃんと言ってよね!昨日の晩御飯と今日の朝御飯無駄になっちゃったじゃ・・・・・・・・、あの、兄がご随分と迷惑をお掛けしたようで申し訳ありませんでした!」


クライドの声に応える思っていたよりも元気な少女の声が聞こえて、家の奥から杖を付いた顔にいくつかの灰色の痣がある少し痩せた少女が足を引きずる様に現れた。彼女は俺の顔を見ると慌てて何故か俺に頭をさげる


「お、お前っ!俺は兄貴に迷惑なん・・・・・・・・か、掛けたけど・・・違うんだよ!」


「何が違うのよ!いつも人に迷惑ばかり掛けておいて!」


「だから今日は違うって・・・イッッテ!おい・・杖で叩くな!いってぇ!っていってんだろが!」


うん・・・・仲の良い兄妹のようだ。にしてもクライドお前余程いつも妹に迷惑かけてるようだな。


数発結構重い一撃をクライドに叩きつけて俺に向き直る少女は俺に改めて頭をさげる


「兄がご迷惑おかけして申し訳ありません。これで償いとはならないでしょうがどうかお許しください。」


「いや、今日は君に会いに来たんだよ。だから謝る必要は無いよ。」


「え?私にですか?」

キョトンとした顔で首を傾げるその仕草は可愛らしい


そうして綺麗に片付けられた食堂の椅子に座って此処にきた経緯をセラに語った。


「・・・・・・・・・そうでしたか。」


「イッテッ!・・・・・いきなり杖で殴るな!」


「やっぱりお兄ちゃん悪い事してたんじゃない!あれ程言っておいたのに!」


「だから・・・・其処は俺も反省してる・・・・悪かったもうしねぇよ。」


兄の頭に再び杖の一撃を与えた彼女は、真剣な顔で俺に向き直った




「この度は誠に申し訳ございませんでした。愚兄がご迷惑をお掛けしただけでなく、この様な辺鄙な村にまで私の為に来ていただいた様で、本当にありがとうございました。私にとってもとても価値のある有り難い御提案だと思います・・・・・ですがこのお話は、、、、お断りさせて頂きます。」


「おまっ!?マジで言ってんのか!病気が治るって言うんだぞ!また自由に動き廻れる様になるんだぞ!馬鹿じゃねぇのかお前は!」


「馬鹿はお兄ちゃんでしょ!私の気もも知らない癖に!」



そして始まる兄妹喧嘩に、取り敢えず優しく気の強い兄想いの妹の説得をクライドに任せる事にして、席を外す事にしたのだった。


クライドの家の脇に生えている木の木陰に座りながらぼんやりと煙草を吸いながら考えていたのは

俺の兄貴についてだ、勿論この世界には兄は居ないが、日本には居た。今では結婚して子供まで出来て随分と大人しくなったが、昔は随分と考え無しに動く兄だった。子供の頃はそんな兄貴の尻拭いを弟の俺がよくしたもんだ。

ただ、それ以上に子供の頃、身体が弱く小さかった俺はよく近所の悪ガキどもからからかわれたり虐められたりしたもんだが、そんな時は兄にはいつも助けられた記憶もある。


そんな俺の兄弟の思い出が、先程の兄妹の姿に重なって見えたのだ


あの兄妹・・・やはり幸せになってもらいたいな


うん、少し協力してやろうか。


丁度その時家から疲れた顔をしたクライドが現れこちらに頭を下げてきた。


「兄貴すいません。せっかく家まで来てもらったっていうのに。はぁ~我が妹ながらあぁなるとホント始末におけねぇんですわ。少し時間を置けば機嫌も治って話を聞く気にもなると思いますんで、申し訳ねぇが少しまってもらえねぇか?」

こいつはセラが何故この話を断ったかまるで理解できていない、まぁ・・・説得は無理だな


「乗り掛かった舟だ、俺が少し話してみる。いいか?」


「兄貴がか!そりゃ助かるぜ。手間かけますが是非ともお願いします。」




クライドに教えられたセラの部屋の扉を叩く。


「・・・・・どうぞ。」

という声が聞こえたので部屋に入る。

質素な部屋だが、綺麗に掃除され片付けられており窓際には年頃の女の子らしく一輪の可愛らしい花が飾られている。

セラはベットに腰をかけて少し先程よりも辛そうにしていた、現に俺を立って迎えようとしたのだが、思うように立ち上がる事が出来ないでいるようだ。やはり病は相当に悪いらしい、立ち上がろうとする彼女を制して傍の椅子に座らせてもらった。


「あ、あの・・・せっかく来てもらったのにすいませんでした。」


「ふふ、そんな事はセラさんが気にする事じゃないさ。」


「あ、あの・・・私の事はセラと呼んで貰えると嬉しいです・・・」


「じゃあセラ、私の事はラルフと呼んでくれると嬉しいかな。」


「そ、そんな~~いきなり呼び捨ては私には無理です!・・・ラルフさんでお願いします。」


それからしばらく俺はセラとの会話を楽しんだ。


俺にも兄が居た事を伝えまぁ随分苦労させられた。とそのエピソードを可笑しく伝えたり。


そしてまだこの世界に来て間もないが、その濃密な体験を話した


「まぁそんな巨大な木が本当にあるんですか?」


「ラルフさんのお住まいは海の近くなんですね!家から海が見えるんですか!いいなぁ私海って見た事無いの。」



「へぇーハ-ピ-ちゃん達って可愛い子供が空を飛んでる感じなんですね!フフフ、なんか想像すると可笑しいかも。」


「それで盗賊から助けた娘さん達が今の住人さんなんですね!」


「私も見てみたいなぁ。大きな木も綺麗な海も高い城壁も、綺麗な水を湛えたお堀も。」



「うんいいよ。少し散歩に行こうかセラ。」


「ん・・・・?えっ・・きゃ!・・・あの・・・ラルフ・・さん・・」

俺は彼女の背中と膝の下に手を入れて優しく抱き上げた、まぁお姫様抱っこってやつだな


そして転移を発動させた。


「なっ・・・!ここは・・・・・まさか。」


俺が転移したのは巨大な巨木の大きな枝の上。

足元には俺や娘達の家が、少し先には巨大な城壁が見えそしてその先には何処までも続く海岸線と青い海の絶景が広がっている。


「綺麗・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「フフフ、どうだい俺の国の感想は?」


「凄いです!凄く綺麗です!凄く凄く素敵です!!」


「セラありがとう。嬉しいよ。でもまだ足りないモノだらけなんだよこの国は、人も物も何もかも足らないんだ。だからね、俺は君のお兄さんや、そしてセラにもこの国を大きく良くするのを手伝って貰いたいと思っているんだよ。やっぱり駄目かい?」

腕に抱いているセラを優しく見つめて話す。


「・・・う・・・うぅ・・・、駄目じゃないです・・・・」


そう答えるセラの顔は真っ赤だ


「まぁさっき断ったセラの気持ちも判るんだけどね、セラはもう自分の為に兄さんにこれ以上無理をして欲しくなかったんだろ?」


「・・・・はい、最近よく兄が思いつめた顔や悲しい苦しそうな顔をする事が多くなってて、このままではきっと取り返しの付かない事が起って、兄がどこか遠くへ行っちゃう気がしてずっと心配だったんです。私なんかの為に無茶をする兄が心配で・・・だから」


「さっきは断ったんだね。でもこの場所で、この国の為に頑張り無茶するクライドや君自身の事を想像してみるとどうだい?」


眼を閉じてしばし想いを馳せるセナ


「・・・・・・・・・・嬉しいです。うん!嬉しいし!楽しそうだし!とっても素敵!」


その顔にはとても病人とは思えない希望に溢れた表情だった。そして直ぐにその表情が曇る


「・・・あ・・・・・あの・・・・ラルフさん?さ、さっきは断ちゃったけど・・・やっぱりラルフさんの眷属になりたい・・・です。あ、あの・・駄目ですか?」


その表情は先程の希望に満ちた表情とは異なり、とても不安そうな表情だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お兄ちゃん!」


「うおっ!セラ!・・・と兄貴か。」


「セラ話はどう・・・・」


「そんな事よりお兄ちゃんに報告があるの!私ラルフさんの眷属になる事に決めたから!」


「お兄ちゃんもラルフさん所で働くんでしょ?もう馬鹿な事しちゃダメよ。サボったら私が許さないからね!」


「煩せぇな!俺だって兄貴には恩が有るんだよ!サボる訳ねぇ・・・ん?お前気が変わったのか、そうかそうか。こ頑固者をあっさり説得するなんて流石兄貴!ありがとうございました!この愚妹が手間かけさせてホントすいませんでしたね。」


「うるさいわね!全部お兄ちゃんが悪いんだからね!そんな事よりラルフさん、早速眷属にしてもらってもいいですか?それとも何か準備や用意がいるんですか?」


「いや用意するモノはこれといってない、セラとクライドが良ければ直ぐに始めるが。」


2人をみると「お願いします。」と似た様な仕草で頭を下げる。やっぱ兄妹だな


これで8人目の眷属化だ、こっちも慣れたものだ、セラを椅子に座らせて俺の魔力をセラに委譲する様に意識する。やがていつもの様に俺からゴッソリと魔力が抜ける感覚と同時にセラを淡い優しい光が包んだ。


「・・・んっ・・・・あっ」


そして光が収まり現れた少女は栗色の髪は変わらないが、病人らしいカサカサだった肌は、潤いを帯び美しく痩せ細って身体は肉付きが良くなりより女性らしく美しく、そして身体中に有った醜い灰色の痣は跡形も無く消え去っていた。


「・・・・ん?あれもう終わったの?」


「せ、セラちょ調子はどうなんだ?」


「うん・・・・嘘みたいに身体が軽くなってる・・ずっと有った痺れや不快感も消えてる!」


椅子から立ち上がり軽く身体の様子を確認するセラ

そして思い出したように、少し躊躇ながら近くの鏡を覗く


「・・・・・良かった・・・・痣も綺麗に消えてる。ホントに嘘みたい・・・・・」

彼女の紅い眼から涙が零れた。


俺の隣では強面の男がワンワン泣いている。


まあ、少しそっとしておいてやろうか。


俺はそっと外に向かって転移を発動した



先程の木陰で座って煙草を吹かしていると

少しは落ち着いたのだろう兄妹が出てきた。


「恥ずかしい所見せちまって・・・すいません兄貴。」


「もぅラルフさん!御礼を言おうと思ったら急に居なくなってて、少し探しちゃったじゃないですか!もう!でも本当にありがとうございました!」

兄の方は恥ずかしそうに、妹の方は最初は少し不満そうな少し頬を膨らませ現れ、最後には嬉しそうな

顔で俺にお礼を言ってきた


「2人共気にするな。セラ調子は良いのか?」


「それがホントにびっくりす程良くて。なんか今ならお兄ちゃんにも勝てそうな気がする!」


「馬鹿言ってんじゃねぇよ!流石に病み上がりの妹に負ける程俺は落ちぶれちゃいねぇよ!」


いやクライド君、残念ながら多分君じゃ多分勝てませんわ


名前:セラ ダーフィールド 女 レベル9 契約者ラルフ

・種族:魔族

・状態:正常

・㏋:165/165

・MP:1521/1521

・武力:55

・魔力:73

・知力;61

・統率:30

・敏捷:58

・防御:25

・魔法防御:17

・スキル

 闇魔法:LV1 時空魔法:LV1 弓術:LV3  家事:LV1 酪農:LV1

・装備 無し


確か石花病って確か高い魔力を持つ子供が罹るんだったよな。ルナもそうだったけどセラも魔力が高い

しかも俺から闇魔法ばかりか時空魔法まで継承している。つまり俺の使う極悪魔法を俺と同じように行使できるのだ。それに病気に罹る前は戦闘経験もあったんだろうレベルもそこそこ高いし。流石クライドの妹と言うべきか弓術のレベルも高いとなれば遠距離戦で彼女に勝つのは不可能なんじゃ・・・



その後兄妹に希望を聞いたら直ぐにでもうちの国へ引っ越しをしたいと言う事だったので、セラが新たに使える様になった時空魔法の収納の使い方を教えて家に有った家に有った必要な物を全て彼女の収納に収めさせ、彼等の飼っていた牛2頭、馬2頭と共にセラが発動させた転移で拠点まで移動した。


「今の転移・・・・ホントにセラが・・・・?実はこっそり兄貴がしたんでしょ?」


「だから私が使ったって言ってるでしょ!ププ、こりゃホントにお兄ちゃんより強くなっちゃったかも!」


「ば・・馬鹿言ってんじゃねぇよ!俺だって兄貴の眷属になりゃぁその位は簡単に出来る・・・はず」


「はいはい、そういうのを捕らぬ狸のなんとやら!って言うのよ~~♪うわぁぁラルフさん凄い!あっと言う間に家が出来たよ!こんないい家に住めるんだ~海も見えるし素敵すぎ~♪」


ハイテンションでご機嫌のセラ、気に入って貰って良かったです。クライドは・・・まあドンマイ


こうしてまた俺に新たな眷属が増えたのだった。




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