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第九十章 戦友

「バ…………バカな………っ!これだけのダークエネルギーを帯びたワシが………敗れる……………のか………」


見開いたバチルスの目は、ヴァルゼ・アークの足元しか映していない。それは最後に見るこの世の風景でもあった。


「言ったはずだ。貴様の負けは、既に宇宙が決めている。役不足だとな」


「フ………フフ………」


「何がおかしい?」


「貴様は……自分の意志では動いていないということか……」


「………どういう意味だ!」


「この前も………同じようなことをほざいていたが………所詮、迫り来る結果を恐れ………ただ流されるままに生きる道化…………貴様さえ……もっとセルビシエを近くに置いていたのなら…………失うこともなかったということだ………セルビシエの死は……貴様にも責任がある………クックッ……いずれ貴様にも避けられぬ時が……来るだろう………いつまでも逃げられはせんぞ………運命からな………」


「死にぞこないにしてはよく喋る。………消えろっ!」


手の平をバチルスにかざし、存在ごと消し去る。


「………ゴミがっ!」


だが、そう言いながらも、バチルスの最後の言葉は、バチルス自身のものとは思えなかった。まるで何かがバチルスを媒介にして話していたような………そんな錯覚を起こすのは、自分の弱さを指摘されたからかもしれない。

そう考えていると、クダイ達が駆け込んで来た。


「ヴァルゼ・アーク!」


羽竜に呼ばれ振り向く。


「遅かったな。バチルスは片付けてやった。後はお前らの仕事だ」


魔帝の姿を初めて見たシトリーは、クダイに寄り添うようにその真っ赤な視線を避けた。

目的を遂げたヴァルゼ・アークは、クダイ達の方へ歩いて来る。当然、クダイ達は剣を構えたが、ケファノスはヴァルゼ・アークに戦う意志が無いことを感じて、立ち尽くすだけだった。

何もせず通り過ぎた頃、ヴァルゼ・アークは口を開く。


「………羽竜。俺は次の世界に行く。お前はどうする?」


時間を終着させる力を狙っていたはずなのに、この世界から離れると口にした。その真意は、サン・ジェルマンが負けることを知っているかのよう。でなければ、サン・ジェルマンによってあらゆる世界が消えてしまう。

それとも、クダイ達に全てを託し、自分の運命を測っているのか………。


「いいのかよ?ここでなら、あんたの望む力が手に入るかもしんねーんだぜ?」


だから解りやすいように、羽竜は聞いた。


「サン・ジェルマンの目的は、お前を殺さねば達成されない。奴にお前を殺せるとは思えん。逆を言えば、お前さえいなくなれば、あるいはクダイ達にも勝機はあるのかもしれん」


ヴァルゼ・アークは、この世界で何が起こるか知っている。

飽くまで憶測に過ぎはしないが、羽竜にはそう聞こえた。


「クダイ」


「は、はいっ?!」


「………正しいことをすれば、人は苦しむ。だから人は正しいことが出来ない。人が過ちを繰り返すのは、正しいことをしても、望んだ結果が待ってるとは限らないからだ。………だが、これだけは言っておく。お前に全てが委ねられた時、お前はお前の信じる正しいことをすればいい」


「ヴァルゼ・アーク………」


そして、また歩き出した。


「この世界には………悲しみが多過ぎる」


そう呟いて闇になった。


「な、なんだったの?」


まるでお化けでも見たような口ぶりで、シトリーがクダイに聞いたが、クダイとて理解に足りてるわけではない。


「どんな正義も、多大な犠牲の上の飾りでしかない。そう言いたかったのだろう」


ケファノスは二人に説いた。

正義という幻想に、惑わされて欲しくないから。

きれいごとだけでは済まぬことばかり。理想と幻想は、時に思い違いされてしまう。理想を追い求めれば、そこは闇の世界なのかもしれない。


「なんだか怖かった」


「大丈夫だよシトリー。あの人は、むやみやたらに命を奪う人じゃないよ。きっと………」


きっと………誰よりも優しさを持っている。そして、悲しみを多く知っている。


「羽竜よ。お前は行かなくていいのか?奴を追ってこの世界に来たのだろう?」


ケファノスは迷っている羽竜に言った。


「戦力はあった方がいいだろ………」


いまひとつ覇気がないのは、サン・ジェルマンの目的に羽竜を殺すことがあると言われたからだ。

 自分がいなければ、クダイ達にも勝機はある………自分が残れば、それはクダイ達にとっていい結果にはならないということなのか?

時の秘法のカラクリが完全に解っていないのに、このままクダイ達だけを行かせるのは忍びない。ヴァルゼ・アークを追うのはいつでも出来るし、いつかまた会えるだろう。時間がかかっても。

ならば、答えはひとつ。


「行こうぜ。アイツにはまた会えるだろうし、もう少しだけ手を貸すよ」


「………そうか。そう決めたのなら、そうするといい」


肉体を取り戻してから、やけに口数の少なくなったケファノスだが、その分、言葉に篭る想いみたいなものは感じられる。


「ありがとう、羽竜」


シトリーが言うと、


せって。そういうの苦手なんだよ。礼なら、せめて、シメリーを助けてからにしてくれ」


また照れた。


「では先を急ぐぞ!サン・ジェルマンさえ倒してしまえば全て終わるのだからな!」


ケファノスが駆け出すと、シトリーと羽竜も続いた。


「羽竜………」


羽竜はすぐにでもヴァルゼ・アークを追いたい。クダイは、羽竜の気持ちをよく解っていた。

羽竜が残ることで自分達に不利なことがあるならば、羽竜は、それを見定めてから消える気なのだろう。そこまで想ってくれる羽竜に、クダイは胸が痛かった。

羽竜とヴァルゼ・アークは敵同士だと言う。なのに、あれだけの信頼関係があるのは、幾度も剣を交えて来た好敵手であること、時には戦友であることの他に、二人が同じ世界の住人からだろう。

今、羽竜は淋しさを感じている。次にヴァルゼ・アークに会えるのは、いつになるかわからない。

時間にして十年も追っていると言っていた。二人は、互いに理解者の役割も担っているのだろう。

クダイがこの世界に残りたいと思う気持ちは、こっちでの住人との間に、大きな絆が出来たから。

羽竜の淋しさは、彼を押し潰してしまわないか、クダイにはそれが気掛かりだった。


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