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第八十六章 その先へ

「クダ〜イ!羽竜ぅ〜!」


尖んがった耳をピクピクさせながら、居なくなった二人の探索をシメリーはしていた。

カカベルとシトリーも別の方を探索している。なにぶん、広いに輪を掛けた広さのザンボル城。どの場所へ行くのも新地に来たような感覚になる。


「んもうっ!どこ行っちゃったねぉ?状況読めてんのかしら?!」


ぶつぶつと愚痴り庭園を歩いていると、一人の神官がうろついていた。その神官は、シメリーがキョロキョロしている姿を見て、声を掛けて来た。


「どうかしましたかな?お嬢さん」


「あ……」


慌てて耳を隠そうと思ったが、城の敷地内にいるのだから、関係者なのだと思い直し手を下ろした。


「あのぅ、男の子二人見ませんでした?なんか頼りないのと、やんちゃそうな………」


頼りない=クダイ。

やんちゃ=羽竜。

それがシメリーの二人に対するイメージらしい。


「さあて。見んかったな。何せ、ここに来たばかりでね」


「そうですかぁ………」


来たばかり。きっと他の国の神官なのだろう。


「………それにしても、今日はこの前と違って穏やかな口調ですな」


「は……はい?」


神官に知り合いはいない。何を言ってるのか首を傾げていると、


「私を忘れてたなどとは言わさんよ。エルフの王女様」


「だ……誰……?」


悪意のある気配。自分が狙われているのだと知る。


「誰?これはおかしな。記憶でも失くしたのか………?」


「………まさか、サン・ジェルマン?!」


「クッククク。ようやく気付いて頂けましたか」


途端、サン・ジェルマンは魔力でシメリーの自由を奪う。


「あ………な、何するの?!」


「エルフの王族の魔力。捨て置くと思いましたかな?」


「わ………わ、私は……!」


勘違いしている。サン・ジェルマンはシトリーだと思い、シメリーに接している。それが解ってしまったシメリーは、自分がシトリーではないと知れば、彼女をまたさらうのではないかと考え、


「私をさらっても、きっとまたみんなが助けてくれる!そしたら、今度こそ終わりよ!サン・ジェルマン!!」


敢えてシトリーを演じた。


「私が終わる前に世界が………時間が終わるのだよ」


それに気付かないサン・ジェルマンは、そう言うと、シメリーを連れ去った。










クダイ達が戻ったのは、それから数時間後。既にシメリーの行方が知れないことで、大騒ぎになっていた。


「何かあったのかな?」


クダイがのんきな口調を見せると、


「また嫌な予感がするぜ」


羽竜が言った。


「クダイさ!羽竜さ!」


空から降りて来る二人に、カカベルが駆け寄る。その表情から、ただ事でないことは確かだった。


「どこさ行ってただ!」


「どこって………」


黒仮面に会って来たと言ったら、ひょっとしたら怒られるかもと、クダイは口をつぐんだ。話すなら、ケファノスかダンタリオンの方が話が早い。


「それより、なんかあったのか?」


同じことを思ったのか、羽竜が話を逸らすと、


「んだ!シメリーがさらわれただ!」


「な、なんだって?!」


「兵士の一人が見てたらしいべ!見慣れない神官と消えるのを!」


「カカベル、それ本当なの?!」


「嘘さ言ってどうすんだ!大体!クダイさと羽竜さが居ねくなったのが原因だべさ!みんな探してただぞ!何回もおんなじことやって、何考えてるだか!」


「う………そんなこと言われても………」


クダイも、それを言われては何も言えない。

そこへ、ケファノスがやって来た。


「クダイ!どこへ行ってた!」


珍しく………と言うか、初めて口調を荒くしている。相当、心配させたのと、シメリーのことで神経を尖らせている。


「ヴァルゼ・アークのところだよ」


見兼ねて、羽竜が口を挟んだ。


「黒仮面のところか?一体何をしに………」


「サン・ジェルマンの秘密を知ってるのはアイツだけだ。だから直接聞きに行って来たんだ」


悪びれもなく羽竜が言った。言い訳をする気はないが、不可抗力なことでクダイが責められるのはいい気分がしないからだ。


「二人ともどこに行ってたんだ?!」


すると、また同じようなことを言いながら、カイムが来た。その後ろにシトリーとダンタリオンもいる。


「クダイ!シメリーが……!」


泣きそうな顔でしがみついて来たシトリーの肩を、クダイはそっと抱きしめ、


「ゴメン。僕達が勝手にいなくなったから……」


シャクスの二の舞には出来ない。そう思い、クダイは全員に、


「でも、サン・ジェルマンの秘密が解ったんだ。次で最後だ。全て終わりに出来る!」


切り出した。


「………それは本当なのですか?」


確認もしたくなる。ダンタリオンは穏やかに言ったが、顔は驚いているようだった。


「本当だ。ヴァルゼ・アークは嘘は言わない」


羽竜はそう言うと、更に続けた。


「サン・ジェルマンは常時魔法で存在してるとか言ってた。常に魔力を循環させてるから、剣も魔法も通用しないんだって。倒し方まではさすがに教えてくれなかったけどよ、それが解っただけでも光明が射したってことだろ?」


それを受けて、ダンタリオンは、


「………常時魔法………ですか。…………わかりました。それは大きな手掛かりです。いずれにしても、シメリーを助けに行かねばなりません。クダイ、あなたの言う通り次が最後の戦いです。行きましょう。サン・ジェルマンのところへ」


「準備はどのくらいかかる?」


「一時間ほどで」


ケファノスが聞くと、そう答え、


「皆さん。一時間後に出陣出来るよう、段取っておきますので、それまで身体を休めておいて下さい」


出陣の約束をする。

それは、例え国が認めなくとも、ここにいる者達だけで戦う意志の表れ。

きっとその一時間で、ダンタリオンが常時魔法………時の秘法の解除方法を探してくれる。クダイと羽竜はそう期待する。



何度もやり直せたとしても、満足する答えは得られない。だから最後にする。サン・ジェルマンとの戦いに終止符を打たねばならないのだ。


その先の光を見る為に。


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