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第八十三章 泣けない想い

シャクスの悲報を聞き、誰もが泣き崩れた。シトリーも、シメリーも、カカベルも。涙は見せなかったが、ダンタリオンもかなり落胆していた。

なによりも、オルマは一生涯分くらいの涙を流したかもしれない。

あのシャクスが死んだなんて、誰も信じたくないのだ。

ザンボル国王は、シャクスの死はこれからの人類のいしずえになるものと、国を上げての盛大な葬儀を執り行ってくれた。

本来なら、シャクスの故郷エルガムに帰ってやるべきことなのだろう。でも、各国の王達がそれでは納得しなかったのだ。

それは誇るべきこと。聖騎士シャクスは世界から認められたのだ。

葬儀は、カカベルの主導で行われた。ケファノスが提案したのだ。

当然、経験のないカカベルは躊躇っていたが、仲間の為にと承諾してくれた。

ザンボルの神父や神官から、何度も段取りを教わり、見事やってのけた。きっとシャクスも喜んでいるだろう。

シャクスの亡きがらは、とても艶のある黒い棺に入れられ、エルガムへ送られることになる。


「シャクス………」


クダイは涙を腕で拭い、しっかり見届けようとシャクスの棺を見ていた。

その横で、涙も見せずただ眺めているだけのダンタリオン。

親友の死を悲しんでないわけではないだろうが、しっくり来ない。


「悲しくないのかよ」


だからこんな聞き方になる。


「そんなことはありません。十分に悲しいですよ」


「じゃあなんで泣かないんだよ」


「なんで………と言われましてもねぇ」


ダンタリオンのいつもと変わらない調子がムカつく。もっと泣くものだと思っていた。なのに、クダイの問いに困りながらも、微笑みすら浮かべている。


「シャクスは親友だったんだろ。こんなに薄情な奴だなんて思わなかったよ。ダンタリオンの分まで僕が泣いてやる」


「…………お願いします」


胸の中。きっとクダイにもダンタリオンにも同じ想いがあるはず。

悲しみの重さ故、涙など悲しみの基準にはならない。少なくとも、シャクスの忘れ形見の前で涙は見せられない。そういう想いもあるのだと、クダイは知らない。










−夜中−。

嫌味なほど涼しく過ごしやすい夜だった。

シャクスの葬儀も終了し、ザンボルの国も静まり返る。

ふらりとテラスにやって来たダンタリオンは、先客がいたことに気付いた。


「あなたもおいででしたか。ケファノス」


魔王だからだろうか、やけに夜が似合う。


「………眠れなくてな」


魔界を取り囲むように、既に海の上にも兵を配備している。後は攻め込むだけ。

シャクスの葬儀がありごたごたとしたが、明日には攻め込む時期を決定する。


「私もです」


無理もない。シャクスはダンタリオンの親友。ケファノスにとっても大切な仲間だった。

ダンタリオンはテラスの手摺りに手を着くと、


「シャクスは自分の兄に憧れ聖騎士になりました。非の打ち所も無い人物で、まさに鏡となる人でした。ですが、その兄が戦争で命を落とすと、周囲はシャクスにその代わりを期待したのです」


勝手に話し始めたダンタリオンの話を、ケファノスは黙って聞いていた。


「しかし、シャクスには荷が重い期待でした。いつしか彼は、強くなることで兄の影を追うようになり、自分というものを見失っていたのです。………それが、クダイと出会い、気付けばクダイの為に道を作ってやりたいと思っていたのでしょう、訓練と称しながら剣を振るう彼は、愛に溢れていたように思えます」


「それはお前も同じではないのか?」


「………お互い様でしょう」


暗くてよくは見えないが、ダンタリオンは声のトーンとは裏腹に、笑ってはいないようだった。

始まりはどこからなのだろうか。人間と魔族の戦争?違う気がした。

始まりは、クダイがジャスティスソードを手にしてからではないだろうか。

あの日から世界がおかしくなっていった。

そして気付けば、交じり合うはずのない者達が隣にいる。

それが成るべくして成った結果であるのなら、シャクスの死もまた、成るべくして成ったこととでも言うのか。


「認めたくも信じたくもありませんね」


わなわなと、手摺りを掴む手が揺れている。

力なく呟いたダンタリオンの心中は、ケファノスには手に取るようにわかる。志しを共にする仲間の証拠だろう。


「………泣きたくば泣くといい。誰も責めはせん」


「………ありがとうございます」


それでも嘔咽おういんしながら、静かに友の死と向き合っていた。


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