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第八章 誘引

「こんなところで何をしてる」


ケファノスが声色を変えてサン・ジェルマンに問うところを見ると、あまり会いたいと思える人物ではないことは、クダイでも理解出来た。

プラス、ダンタリオンに微笑みは戻っているが、どことなく殺伐とした雰囲気を出している。


「魔王どのにお話するようなことではありません」


丁寧に、わかりやすい口調で話すが、ケファノスとダンタリオンが知ってるということは、こっちの人間じゃない。


「誰?」


自己紹介もなさそうなので、クダイはケファノスに囁く。


「様々な時代と世界を行き来する能力を持つ者だ」


一言で紹介され、どういう人間かはわかったが、


「え?それってどういうこと?」


ディメンジョンバルブを通らなければ世界の行き来は不可………のはず。しかしその能力を持つという。今の状況さえ混乱気味なのに、余計に知恵熱を出させようというのか。


「奴は時間脈………つまりディメンジョンバルブを故意に開き、時間軸を旅しながら生きる騎士よ」


「騎士…………鎧、着てないよ」


また小声で言う。

同じような説明を二度するというのは、ケファノスはサン・ジェルマンについて詳しくないのかもしれない。


「少年、騎士と名のつく者の全てが、鎧や剣を持っていると思わんことだ。騎士とはその心に授けられる称号。信頼出来るかどうかの物差しよ」


サン・ジェルマンは、トップハットの位置をくいっと直す。


「余をこの世界に連れて来たのは、ジャスティスソードではなくお前の仕業か?」


「いいや。私は知らない。この世界にいた時に、たまたまディメンジョンバルブが現れたのでな、何事かと調べていたのだが………そうか、ジャスティスソードが………」


目に力が入っている。サン・ジェルマンは思考を回転させて、深く何かを考えている。


「サン・ジェルマン、あなたはそのヨウヘイという少年に屍人を?」


耐え切れずしゃしゃり出て来たのは、お調子者の賢者。

どうにも黙っていることが出来ないたちなのは、本来の性格なのかもしれない。


「屍人の潜在能力は目を見張るものがある。それを受け入れる器を探し、長い時間を旅して来たのだ。その器こそがこの少年よ」


サン・ジェルマンの紹介に気をよくしたのか、ヨウヘイは口角を上げた笑いで前髪を跳ね、


「選ばれたったてことさ」


「ヨウヘイ………」


別人のようなヨウヘイを、クダイは心配になる。


「何を企んでる」


核心をつくケファノスは、肉体があったならサン・ジェルマンを手にかけたんじゃないだろうか?

クダイはそう感じた。それだけに、ヤバイ男なのだろう。実際、ダンタリオンが今も額に汗を滲ませ、剣を握る手に力を入れている。


「時間軸の融合」


伯爵の称号を持つサン・ジェルマンの後ろに、小さな黒い渦が現れ、すぐに直径ニメートルほどの大きさになる。ディメンジョンバルブだ。


「夢を見る歳でもあるまい」


ケファノスの皮肉すら心地いいのか、


「見れるうちが華。そういう言葉もある」


涼しげに笑って見せた。


「人間と魔族が戦争をするように仕組んだのはあなたなのですね、伯爵」


夕べのケファノスとの会話で、人間と魔族の間のすれ違いがあることを知った。なぜかダンタリオンはそこにこだわっているようだった。


「私の行動を逐一気付かれては困りますのでな。まあ、カモフラージュの為に、種族間戦争を利用させていただいた。もっとも、魔王どのだけは冷静に私を見ていたようだが」


「なるほど。それはくだらないことをしてくれましたね」


ダンタリオンは剣を鞘に戻す。


「伯爵、あなたの企みはわかりました。しかし、こちらにはジャスティスソードがあります。何を企もうと、正義の刃の前に平伏すことになるでしょう。彼によってね」


「はあ!?何勝手なこと言ってんだよ!」


危なく聞き逃すところだった。

ダンタリオンの調子の良さは油断出来ないことを、クダイは学んだ。


「ほほう。だがジャスティスソードは使い手を不幸にする。どんなに強力な剣であっても、諸刃であっては意味がない」


「残念だな、クダイはどういうわけかジャスティスソードの災いを受けん。お前の首も、狙うに苦労はしないということだ」


クダイは目を点にして、ケファノスをただただ見つめるしかなかった。

ダンタリオンと言い、出会って日が浅い自分を勝手に仲間のような言い方をするのだから打つ手がない。


「へぇ……クダイがねぇ」


興味が出たらしい。ヨウヘイはディメンジョンバルブの方を向くと、


「なあ……クダイ」


「なんだよ」


「勝負しようぜ」


「勝負?」


「俺はサン・ジェルマンと時間軸の融合ってやつを目指す」


「何バカな……」


「ジャスティスソードって伝説の剣なんだろ?だったら、そいつで俺達を止めてみな」


突然の友人の宣戦布告をどう受け止めたらいいものか。


「これは面白い。魔王どのと有名な賢者どのがイチ押しの少年ならば、さぞかし有能なのだろう。余興は派手な方がいい。是非、クダイ少年には頑張ってもらいたい」


サン・ジェルマンは本気で期待している。派手な余興を。


「ではお三方、またお会いしましょう」


トップハットを押さえる感じで挨拶を終えると、ヨウヘイを連れディメンジョンバルブの中へ。


「ヨウヘイ!!」


追うべきか、追わざるべきか、クダイの気持ちは完全なる無視だった。


「行きますよ!伯爵の企みを聞いた以上、見過ごすわけにはいきません!」


真っ先にダンタリオンがディメンジョンバルブに飛び込んだ。


「行くぞ、クダイ」


「待ってって!僕は行くとは言ってない!」


「これはお前の世界にも関係することだ」


「んなこと言われても、よくわからないよ」


「時間軸の融合………あらゆる次元のあらゆる世界が統一されるということは、全ての時間の終わりを意味する」


そんなにすんなり受け入れられるかと、怒鳴ってやろうとも思ったが、


「お前なら止められるかもしれんのだ」


真剣な表情………はしてないが、堅い意志を感じた。


「…………わかったよ」


納得はしてないが、もとより好奇心の強いクダイ。ケファノス達の世界にも興味はある。

ディメンジョンバルブの前で一呼吸して、


「危ないことになったらすぐ戻るからな」


「好きにしろ」


ケファノスと共に異世界の扉へと入って行くと、まるで二人を待っていたかのように、ディメンジョンバルブは閉じる。

おぼつかない足取りの子供のような不安を抱え、クダイは流されるまま身を任せた。


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