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第七十四章 necesarry

「なんだかんだ言って、やっぱりクダイのことが心配なのか?」


「カイム」


一人ザンボル城を出たケファノスの前に、カイムが現れた。


「行くんなら行くって言ってくれよ」


「これはサン・ジェルマンと決着を着ける戦いではない。飽くまでも、クダイ達を連れ戻す為の任務だ。戦力としてお前やダンタリオンには休んでいてもらいたい」


「言ってることはわかるぜ。クダイ達が乗り込んだ以上、連れ戻しても、今度はサン・ジェルマン達が最後の引導を渡しに来るだろうしな」


慎重に事を進めたい。


「そうさせない為に、今しばらく時間が必要なのです」


ケファノスでもカイムでもない声がした。


「ダンタリオン」


「あなたが行けば、バチルスが黙っていませんよ?ケファノス」


「わかっている。だが、シャクスだけに負担はかけられまい」


「そうですね。彼は確実な戦力。必要な人です」


ダンタリオンは月に顔が照らされ、眩しそうに目を細める。


「各国の兵士が、明朝にはザンボル周辺に到着します。それまでは、伯爵達に気付かれたくはないんです」


「だから余が行くのだ」


「お願いします。あなたにもいろいろと事情はあるでしょうが、優先順位を見失いませんよう」


「まさか余が自分を見失うとでも思っているのか?」


「いえ。そうではありません。そうではありませんが…………何か、嫌な予感がするんです」


これまでに経験したことのない、強烈な不安感。もう無視出来るレベルにはない。

各国の王達が、機転を利かせ自国の兵士を呼んでいたことは幸いだった。一度は帰還し、それから攻める手筈を、急遽変更してまで戦の準備をしてるのだ。

順調に、慎重に進んでいるのだから、必ず上手く行くと信じたい。

なのに、たった一つの、得体の知れない不安感如きに絞め殺されそうになる。


「わかった。貴様がそこまで言うからには余程のことなのだろう。肝に命じておく」


「お願いします」


ケファノスが馬にまたがり、そのまま勢いよく走り行く。


「ダンタリオン………」


「わかっています。きっと私の思い過ごしでしょう。………きっと」










「見えたっ!」


魔族の群れをかわし、視線の先には城門が見える。

猪突猛進。最後に行く手を塞いだ魔族を、乗っていた馬をジャンプさせてかわし、勢い衰えぬままに城門を突き破った。

突き破ると言っても、頑丈なスチール製の扉に穴を開けることはなく、馬のひづめが押し開いた形になった。

勢い余った馬は体勢を崩し、オルマを落馬させてしまうが、そこはオルマも無様に終わることはなく、華麗なる宙返りを決め着地した。


「ごめんね。無理させちゃって」


倒れた馬に近寄り、鼻面を優しく撫でてやる。

扉は開いたままだが、魔族の群れが中には入って来れないと知ると、


「ここでゆっくりしてて」


そう言って城の奥へと進む。

静かな城内は、意外と言えば意外だったが、返って不気味にも感じる。

外にあれだけ群れていたのだ、とっくにクダイと羽竜が来ていることは察しがつく。と言うか、シャクス達の話を聞いていたから、推測するまでもなかった。

闊歩かっぽを許されたオルマは、誰に邪魔されることなくやがて広いラウンジに到達する。


「お前らは………」


そこでアスペルギルスとエンテロに出会ってしまう。

驚いたのは二人も同じようで、


「こんなに簡単に侵入を許すとは………」


アスペルギルスが溜め息を吐く。


「余計な仕事が出来たな」


同調したエンテロが槍を構えたが、


「エンテロ、お前は予定通り黒仮面を始末して来い」


「お、おいおい、お前はどうするんだよ?」


「我は………」


アスペルギルスはじっとオルマの顔を見て、


「この女を倒す」


はっきりとそう言った。


「冗談じゃないぜ。お前まで勝手なことするつもりかよ?女一人くらい、二人でかかれば………」


「この女とは輪廻の塔での勝負がまだ着いていない」


「わっかんねーなあ。セルビシエに影響されちまったのか?」


自分ならわかる。強い者との戦いにこだわっているから。しかし、アスペルギルスまでがこんなことを言い出すとは思わなかった。

エンテロの問い掛けに答えることはなく、エンテロ自身も諦めたと言うか、呆れたと言うか、


「好きにしろ。侵入者に変わりはないし、その女の始末には“お前一人で事足りる”だろ」


既成事実を作ってやった。

アスペルギルスは、


「恩に着る」


仲間であるエンテロにそう言った。

エンテロが走り去るのを待って、


「ジャスティスソードの少年と言い、不死鳥と言い………何をしに個人でここへ来た?」


「………やっぱりクダイ達、来てるんだね」


「不死鳥は黒仮面と戦っている。ジャスティスソードの少年は………おそらくサン・ジェルマンのところだろう。よもや、我々を無視してサン・ジェルマンを倒しに来たとは思えんが?」


「ふぅん……知らないのかい」


「何をだ?」


「アンタの仲間のセルビシエって女が、シトリーをさらったんだよ」


「………シトリー………?」


「エルフの女の子だよ。…………なるほどねぇ。アンタらとサン・ジェルマンは上手くいってないんだ」


「詮索は無用。そのエルフの少女を助けたいのなら、我を倒すことは避けて通れぬ条件。果たすか、果てるか、運命の赴くがままに戦おうぞ………女戦士オルマ!」


女、女と呼ばれていたが、ようやく名前で呼んでもらえたようだ。

アスペルギルスは輪廻の塔で見せた姿へと変わる。

長い尾。太い牙。後方に曲線を描く二本の角。


「嬉しいねぇ。名前を覚えててくれてさ」


オルマはシャンと音を鳴らし童子切りを抜く。


「もう何も失いたくない。誰も失いたくない………あたしが生きる為に、みんなが必要なのよ!」


運命が赴くがままに………違う。そうじゃない。

人が生きて奏でる音が運命でなければならない。

運命の名の下に、命がもてあそばれていいわけがない。

哀しみを知ってばかりの運命の先。人が見る夢の彼方。

行き着くことが叶わぬ今も、オルマは生き抜くことを望んで歩いている。



必要なものは、必要なことをしなければ得られない。

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