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第七章 サン・ジェルマン伯爵

「また行くのかよ」


クダイは疲れた身体に鞭を打ち、ケファノスとダンタリオンに連れ出されていた。


「ご協力をお願いしますよ。何せ、私達も早く帰りたいもので」


ダンタリオンは申し訳なさそうに宥める。そうするのは、鎧を纏うのをクダイは反対したのだが、無理を通した経緯もあってのことだ。

行き先は当然、廃校の体育館。


「僕はダンタリオン達の世界には行かないからね」


「そんなことをおっしゃらずに、観光気分でかまいませんから」


なんとか機嫌を損ねないようにしてると、


「放っておけ。いちいちクダイのわがままに付き合うことはない」


ケファノスが冷たく言った。それを聞いたクダイは、


「どっちがわがままなんだよ!僕は被害者だぞ!勝手に人を巻き込んでおいて何て言い草だ!」


憤慨した。


「うるせーっ!!今何時だと思ってやがんだっ!!」


そして近所からの怒号。


「夜に騒ぐと怒りを買うのは、どこの世界も同じなんですねぇ」


ダンタリオンは眉を上げて、気にするなと言いたげに微笑んだ………まあ、出会ってからずっと微笑んだままなのだが。


「君達がいなくなれば、夜に騒ぐこともなくなるよ」


たった三日で、一ヶ月分は疲労してる。誰が何と言おうとそれだけは譲れない。


「こいつは………」


廃校の前まで来て、ケファノスが人影に気付き止まる。


「偶然………ではなさそうですねぇ」


ダンタリオンもその人影が誰かわかった。

人影は門を乗り越え、廃校へと侵入して行く。


「何?また魔物でもいた?」


乗り出すような姿勢でクダイが顔を出す。


「行けばわかりますよ」


ダンタリオンも門まで走り乗り越える。


「行くぞ」


ケファノスはその必要はない。門の隙間を進めばいいだけ。


「自分勝手な奴らだ」


ぶつぶつと文句を言いながら、クダイも門を乗り越えた。










「何もないじゃないか」


人影は独り言を呟いた。

口ぶりから、誰かに何かを聞いて来たような雰囲気だ。

体育館の中を行ったり来たり、物でも探すようにうろうろしている。

そうしてるうちに、急に大きな物音がした。


「誰だっ!?」


人影は出入口に向かって怒鳴る。

すると、誰かが入って来る。


「……………クダイ!」


隣にはもう一人男がいる。


「ヨウヘイ、こんなところで何やってるんだ?」


ちょうどいい具合に月明かりが挿す。舞台を照らすスポットライトのように。


「何って………別に」


ヨウヘイは隠し事でもするように語尾をつぐんだ。


「別の世界への入口でもお探しですか?」


「なんだコイツ」


緑色の髪をした男に、ヨウヘイは胡散臭さを感じた。


「ダンタリオンって言うんだ」


「ダンタリオン?」


クダイに紹介され、ますます胡散臭く感じる。


「どうだ、ダンタリオン」


二人だと思っていると、小さな物体が現れ喋り出す。


「ス………ストラップ?」


よく見ると明らかにストラップ。


「あ、コイツはケファノスって言って………」


ややこしくなるから隠れてろと言ったばかりだった。焦ったクダイは説明しようとしたのだが、そんなことはケファノスには関係なかった。


「余の言ったことに間違いはなかったであろう」


「そうですね。屍人の臭いがします」


ダンタリオンもクダイの都合は関係ないらしい。


「お前、なぜ屍人の臭いがする?」


ケファノスの直球に、クダイは目を塞いだ。もっと言い方ってもんはないのか。


「な、なんでストラップが喋ってるんだ?」


ヨウヘイの言い分の方がもっともだ。誰でもそう思う。


「き、気にすることないよ!」


クダイはケファノスを捕まえようとしたが、ひょいとかわされてしまう。


「お答えになってもらえませんか?手荒な真似はしたくありませんので」


手荒な真似を手段に選んでるなんて聞いてない。大体、ここにはディメンジョンバルブがまた開いてるかの確認に来ただけだ。たまたまいたヨウヘイは関係ない。


「屍人を知ってるのか………何者だ?」


ヨウヘイはケファノスとダンタリオンを警戒する。クダイのことはどうでもいいらしい。


「質問をしてるのはこっちだ。答えねば力ずくということになるが?」


ケファノスが言うと、ダンタリオンが剣に手を持っていく。いつでも抜けるように。ということだろうか。


「待ってよ!ヨウヘイが何したって言うんだよ!」


「下がっていて下さい、クダイ」


ダンタリオンが手でクダイを追いやる。


「クッ………どうなってんだ!」


ヨウヘイは追い込まれた犯人のように後ずさる。


「答える気はなさそうだな」


「では少々手荒に行きましょう」


ケファノスと同調して、ダンタリオンが剣を抜く音が響く。


「ダンタリオン!!」


クダイの言葉は耳に入らず、ヨウヘイに詰め寄り、


「失礼」


柄で腹に一撃見舞った。


「ぐはっ………」


クダイは、崩れるヨウヘイを守るように割って入る。


「やめろよ!何すんだよ!」


敵意を剥き出してダンタリオンを睨みつけた時だった、


「危ないっ!」


クダイを横に押し倒す。


「いてっ!だから何すん………」


クダイの目に映ったのは、強い光に弾き飛ばされるダンタリオンの姿。

派手に弾き飛ばされたが、剣で防ぎきった為、ダメージは負ってないようだ。


「すごい力だ………」


当の本人も、自分が受けた力に感銘すら抱いている。

その光の元は、


「あの野郎………話が違うじゃないか」


ヨウヘイだった。

顔付きが変わる。眉間にしわを寄せ、唸る獣のように歯を食いしばる。


「ヨウヘイ……?」


いつもと雰囲気の違うヨウヘイに、クダイもただならぬ殺気を感じる。ケファノスと出会った時と同じように。

悪い夢なら覚めてほしい。でないと現実逃避したくなる。


「ケファノス!!」


クダイの制止を聞かずにヨウヘイの前まで行く。


「ケファノス?そうか、お前が魔王か………」


「余を知っているところを見ると、裏に誰かいるようだな」


探られるのを拒んだのか、隙を見てダッシュする。


「ちょ………」


「どけ!」


クダイを突き飛ばし、驚くことに壁をぶち破ってグラウンドに出て行く。


「追え!」


「あなたに言われるまでもない」


ケファノスが叫ぶと、一番に飛び出したのはダンタリオン。

というよりも、まともなのは彼しかいない。


「行くぞ、クダイ」


そしてケファノスも出て行く。

何がなんだかわからないまま、クダイもヨウヘイを追う。

確かなのは、想像以上に厄介なことになっていること。

クダイはダンタリオンが暴挙に出ないように必死で追い掛け、グラウンドのど真ん中まで来ると、ヨウヘイとダンタリオンが対峙している。


「観念しましたか?」


ダンタリオンは見たことないような構えで剣を構えている。


「いい機会だと思ってな。屍人の力、どれほどのものか確かめてやる」


心境の変化はわかりやすかった。どうにかして得た力を試してみたいのだ。それが無謀かどうかは別にして。


「やっぱり屍人の………しかし不思議ですねぇ、生きた人間に屍人が憑くことなどありえないのですが」


ギラリと切っ先が光る。

微笑んでそれらしい表情を見せないその分、刃が胸中を表しているようだ。クダイはそれを察した。


「ダンタリオン………はぁ……はぁ……ま、待ってよ……マジで」


あまり体力がないのが浮き彫りだ。息を肩でするような距離は走ってない。


「クダイ………こんなに面白い奴らを一人占めだなんて、つれないじゃないか」


ヨウヘイからも嫌味を言われる始末。


「そんなつもりは………」


「まあいいさ」


ヨウヘイは両手を広げる。そこに、闇夜でもわかる黒い霧が集まって来る。ダンタリオンの表情が少し曇った。真剣になったのだ。


「ダークエナジー………誰が裏にいるんだ」


「ケファノス………」


小さいので、暗闇ではどこにいるか見失ってしまう。クダイの肩に乗り、全てをダンタリオンに任せている。


「なんだよ、その……ダークエナジーって?」


「闇にだけ存在する物質。闇に生きる者、とくに屍人には無くてはならない物質だ」


ヨウヘイが集めたダークエナジーをダンタリオンに仕掛けようとした時、


「やめておけ」


一人の紳士が現れた。

紳士と言いたくなるような格好。杖をつき、手には白い手袋をしている。トップハットを被り、ゆっくり歩いて来た。


「邪魔すんなよ」


ヨウヘイの知り合いらしい。


「彼は賢者中の賢者。今のお前が勝てる相手ではない」


月明かりにその素顔が晒された。


「あなたは……!」


「やはりお前だったか……」


ダンタリオンもケファノスもその紳士を知っている。

歳は五十代半ば。日本人ではなかった。


「これは魔王どの。随分とお姿が変わられましたな」


紳士が紳士らしく微笑んだ。


「久しぶりだな………サン・ジェルマン伯爵」


ケファノスがそう呼んだ紳士。

クダイがこれから戦っていく最大の敵だった。


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