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第七十一章 幻想を糧にする男

ジャスティスソードとトランスミグレーションは、対向して来る敵を瞬殺。その威力は各々の存在感を誇示しているようだった。

どちらも“普通”の剣ではない。当然と言えば当然のことだろう。

ただ、二つには違いがある。

トランスミグレーションは羽竜との疎通がある。

しかし、ジャスティスソードはクダイを導いているように思えた。

それはクダイの実力が足りないのとは違う。“そういう”剣なのだ。

使い手に災いをもたらすと言われたジャスティスソード。今は意志を持ち、クダイを………


「よう!クダイ!このままじゃキリがねー!ザコはほっといて城に乗り込むぞ!」


「オッケー!わかったよ!」


目的はシトリーの救出。それさえ果たせれば退却すればいい。

二人は、ジャスティスソードとトランスミグレーションの刃を重ねる。すると、金と赤の光がフラッシュして辺り一面を吹っ飛ばす。

それは互いに無意識の行動で、事前に練習も話し合うこともしてない。言うなれば、ある種の選ばれし人間だけが持ち得る直感。

障害が無くなり、一直線に魔王城の門を抜け城内へ入り込んで、威圧感たっぷりの馬鹿でかい扉を閉めた。


「これで入っては来ないだろ」


羽竜にはわかる。あの手のザコが城内に入ることはないと。


「シトリー………」


クダイは行き先を決めようと、城内を見渡した。

魔王の住まう場所だけあって、想像を裏切らない暗沌とした雰囲気が漂う。

これがケファノスの趣味かどうかは置いとくとして、よくわからない石像だとか、誰が使うんだと聞きたくなるくらい大きな剣と槍。

奥まで延びた広い廊下には、赤い絨毯が敷かれている。


「とりあえずは一本道みたいだな」


静まるクダイに代わって、羽竜がチラッと見ながら言った。


「ここにシトリーがいる」


ここに来て身体が震える。恐怖感からなのか、武者震いなのか、クダイにはそれを知るほどの経験はない。


「ああ。だけど、ここにはヴァルゼ・アークがいる。お前らの宿敵、サン・ジェルマンもだ」


シトリーを探せたとしても、生きて帰れる保証はない。それに、二人だけで戦い切ることも難しい。


「びくびくすんなよ。俺もいる」


頼りになる笑顔を羽竜が見せると、


「び、びくびくなんてしてないよ!」


クダイは頼りなく慌てた。

たった二人で来たのは勇み足だったかもと、思わないわけでもないのだが、隣で真っ赤な鎧に身を包む少年が曖昧にしてしまう。

考えてみれば、羽竜は単身でヴァルゼ・アークを追っている。どんな世界に行こうとも常に一人なのだ。

だから“どんな”状況でも自分が崩れない。


「こっからが本番だ。もたもたするな!」


羽竜はまるで自分事のように、赤い絨毯の上を走る。


「ちょ、ちょっと、羽竜ーーぅ!!」


未来を望むのはクダイか、それともジャスティスソードか。










「順調みたいだな」


黒仮面は頭上に浮かぶヨウヘイを見てから、サン・ジェルマンに言った。

ヨウヘイはサン・ジェルマンによって“器”とされてしまっている。今はただ、屍人かばねびとを集め、フィルタリングしてダークエネルギーに変えているだけの存在。

そして、セルビシエがさらって来たシトリーは、その下でやはりヨウヘイと同じように道具にされていた。


「流石はエルフの王族。魔力が尋常じゃない。おかげで屍人かばねびとを集める時間が短縮出来る」


サン・ジェルマンは満足そうだった。

必要なダークエネルギーがどれだけの量かを計るには、時間構築魔法具ツールに供給すればわかるらしい。

黒仮面はそんなサン・ジェルマンを冷ややかに、


「こんなんで時間が本当に終着するのか?」


「何を今更。時間とは常に“正”の方向へ流れる。屍人かばねびとは時間の断片。言わば排泄のようなもの。その断片が残す力を今ある四つの時間構築魔法具ツールに与えてやると、本来は無い力が作用し時間は“負”の性質に変わるだろう。そして、流れの無くなった“ゼロ”の状態の時、時間軸は融合を始め、そこにバランスブレーカーをブチ込んでやれば………」


醜い笑顔を見せた。それがサン・ジェルマンの本性。

おのが目的の為ならば、少年少女の命までも糧にする。


「ここまで来たら好きにやればいい。俺は成り行きを見守るだけだ」


「よいのだな?私の目的が達成されるということは、全ての次元が消滅し、時間の無い空間だけが残るということだ。つまり………」


「それこそ今更だろう。終末を望んだから、お前に宇宙の仕組みを教えたのだ」


「ならば遠慮なく進めさせてもらう」


黒仮面への気遣いは片鱗も見せなくなった。

黒仮面はフンと鼻で笑い、踵を返し、


「そうだ。羽竜とクダイがやって来たらしいぞ」


伝える。


「不死鳥とクダイが?」


何をしに来たとでも言いたいのだろうか?そんな目つきをしている。


「そこのエルフのお姫様を助けに来たんだろ」


「アスペルギルス達は?」


こんな時だけ頼るのかと思ったが、利用出来るものは利用する。その精神は自分と変わらない。


「城に侵入されたとかで騒いでいた。クク……アスペルギルス達にあの二人が止められるとは思えんがな」


「ここまで来ると?」


「若者をナメてかからないことだ。俺達にはない情熱がある」


「情熱………ふっ、そんなもので私を止めることは出来ん。来るのなら私自ら戦うまでだ」


「サン・ジェルマン、若さとは脅威だ。その若さにいつも俺達は足元をすくわれる」


サン・ジェルマンは自分の若かりし頃を思い出した。

あの頃、周りの大人達が口にする常識だとか自信など、なんの障害にもならなかった。

それを知りながら、今は立場が逆なのだ。これも全て時間が存在するからだ。


「少しだけ、俺もあいつらと遊ぼうかと思っている。それまで対策を練ることだな」


黒仮面は妖気さえ漂う部屋を出る。


(終末に見る幻想など、なんの興味もない。俺は………)


窓から見える月はフルムーン。

 黒仮面はその仮面を外した。

そこには悲愴に犯された瞳がある。

運命を憂い、人の心さえ嘆く瞳。


「俺は、幻想さえも糧にする」


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