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第六十七章 夷険一節

完璧だと思っていた結界に、突如侵入して来た羽竜。


「そんな……どうやって入って来たっていうの………?この結界は………」


「ヴァルゼ・アークから教わったんだろ?」


「!!」


「空間を切り取って凍らせる。切り取って無くなった空間には仮想空間をはめてカバー。だから結界の存在には誰も気がつかない」


「なら………なぜ貴方は気付いたの………?」


「付き合いが長いんでね。アイツとは。アイツの手が加わるものは直感が働くのさ」


そんな単純な理由で強固な結界が………いや、強固だと信じたものが破綻するというのか?

セルビシエにとって黒仮面は絶対。それを揺るがす不死鳥、羽竜。

関わってはいけないと、それこそ直感が働く。


「俺は例え女でも、敵である以上は手加減しない」


左手に握る赤い刃の剣。照準は既にセルビシエの心臓に合わさっている。


「言ってくれますね。納得です。あのお方が一目置くだけのことはあります」


黒仮面に着いて行くということは、羽竜とも関わって行かなければならないということ。

しかしそれは先の話。

羽竜が剣を頭の脇で構える。


「動かないで下さい。この女の首を折りますよ?」


人質にされたオルマを見て、


「その前にお前を殺す」


羽竜の目つきが鋭くなる。

見た目には有利な立場に立っているはずのセルビシエなのに、追い詰められている。


「行くぜ!」


羽竜は駆け出した。


「くうっ……」


呻いて、セルビシエはオルマを“投げ付けた”。

セルビシエの鞭から解放されたオルマは、羽竜に受け止められる。

同時に羽竜の動きをも止めた。


「この娘さえ手に入ればここには用は無い!」


シトリーを抱き抱え、セルビシエは結界を解くと、そのまま何事もなかったかのように消え去る。


「待て!」


慌てて剣を投げたが、セルビシエの残像を擦り抜け東屋の石柱に刺さる。


「くそっ!」


ぬかった。鞭のポテンシャルを計れなかった。

人間を軽々と投げ付けるほど鞭を操るとは。


「うっ………シ……シトリー………げほっ、げほっ」


「大丈夫か?しっかりしろ!」


「シトリー………は……?」


「………すまない。連れて行かれた」


羽竜の言葉を聞き終えることなく、オルマは意識を失った。










「止めるなっ!!」


羽竜が一連の出来事をみんなに話すと、クダイは誰よりも先に助けに行くと言い出した。


「落ち着いて下さい。気持ちはみんな同じなんです」


頭に血を昇らせた首を、なんとか落ち着かせようと、ダンタリオンは言った。


「落ち着けるわけないじゃないか!」


手を伸ばしたダンタリオンを睨み付け、腕を振り払う。


「クダイ!シトリーを助けたいと思うなら冷静になれ!」


シャクスが黙らせるように声を張り上げると、悔し涙を流しクダイは俯いた。

結局、一人では助けに行けない。行きたくとも魔界の場所がわからないのだ。


「羽竜!どうしてシトリーを助けてくれなかったの?!」


責っ付くシメリーから視線を逸らし、羽竜はただ黙っていた。

その態度が気に入らなかったシメリーは、


「不死鳥なんて大袈裟な肩書あるくせに!何にも役に立たないじゃない!」


と、罵声した。

それでも羽竜は何も言わない。決して羽竜に落ち度があったわけではないのだが、冷静さを欠いている二人に話す言い訳もないのだ。


「よせよ、シメリー。羽竜は俺達が気付かなかった結界に気付いてくれたんだ。シトリーは連れ去られたけど、オルマの命は救われた。羽竜が気付かなかったら、オルマだって殺られてたかもしれないんだ」


カイムも羽竜に責任は無いと思っている。むしろ感謝すべきなのだ。羽竜がいなければ、シトリーが連れ去られたことすら気付かないままだったろう。

やり場のない怒りを雲散するのは感心しなかった。


「シメリー、羽竜を責めてもシトリーは戻らない。感情を抑えろ」


そうケファノスが言った時、アイニが入って来た。


「お母様!」


シメリーの堪え切れない感情は、アイニに引き寄せられていくようだったが、


パシンッ!


シメリーの頬をアイニがぶった。

その行動の真意を誰も理解出来ず、嫌な空気が流れた。


「お……お母様……?」


「シメリー、貴女は決意と覚悟を持って国を出たのではないのですか?涙を拭きなさい!泣いてもシトリーは戻って来ません!」


その言葉は母親としてのものではなく、エルフの国を守る王としての言葉。

シメリーは仮にも次期王位継承権を持つ。それは飽くまでシトリーの次の候補なのだが、継承権を持つ以上は、権利が無くなるまで“らしく”振る舞わなければならない。

万が一、シトリーに何かあった場合に備える義務がある。


「アイニ様、いくらなんでも……」


カイムがシメリーを庇おうとすると、


「ううん。いいの。ありがとう」


カイムの袖を引っ張り、シメリーは自分の身分を噛み締めた。


「ごめんなさい。お母様。こんな時だからこそ、冷静にいるべきなんだよね」


涙を拭いて、改めて羽竜の方を向き、


「私、酷いこと言ったね。ごめんなさい」


「………別にいいよ。気にしてないから」


軽く流し、話題を振るなと言わんばかりに視線を合わせることを拒んだ。


「ケファノス、事態を知った各国の王達が会議を開くそうだ」


アイニは気丈に振る舞ってはいるが、内心はシトリーを案じて穏やかではないはずだ。


「わかった」


ケファノスは、早くシメリーとカイムの前からアイニを遠ざけてやろうと、一言返事で行こうとする。


「ケファノス!」


名前を呼んだ声はクダイのものだと気付いた。

それはケファノスだけには“味方”でいてほしいという合図。

肉体を取り戻してから、政治的な活動に勤しむようにしか見えないケファノス。これからの魔族のことを考えれば当然なのだろうが、クダイにとってはケファノスならわかってくれると信じているのだ。

しかし、ケファノスはクダイに背を向けたまま、


「指示が出るまで仮眠を取れ。それも大切なことだ」


そのまま会議へと向かった。


「俺達も仮眠を取ろう」


カイムが言う。


「そうですね。シスター、すみませんがオルマをお願いします」


ダンタリオンも理解を示し、


「わがった。任せてけろ」


カカベルも自分に出来ることならと了承した。


「クダイ、ケファノスの言った通りだ。今は身体を………」


シャクスが言いかけると、


「みんな………最低だよ」


クダイは怒りをあらわにすることもなく、一人どこかへ行った。


「どうすんだ?」


「ほっとけ。いつものことだ」


カイムはクダイを心配したが、聖騎士としての性か、シャクスはすぐに訪れるだろう戦いに備えることしか頭になかった。

それぞれが、それぞれのことをやる為に散る。

当たり前のことなのだが、それを冷めた目で見ていた者が一人。


「……………。」


 夷険一節。正しいことのはずなのに、その光が見えない。

羽竜は、そこに残存する空気に違和感を感じていた。


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