第六十章 平和維持軍
「どっから湧いて来たんだ、この援軍は?」
塔の外ではエルフ軍だけでなく、エルガムやザンボル、その他国の軍勢でひしめき合っている。
一息入れるダンタリオンとカイム、シメリーを見つけ、シャクスがやって来た。
「ホントだよね。どういうことなのかなぁ?こんなに援軍が来るなんて」
「事情はどうあれ、助かりました。一時はどうなるかと思いましたよ」
シメリーの疑問は次期に解決する。そんなことよりも、命を救われたことは幸いだった。
ところ構わずねっころがるカイムも、心中は同じはず。
「それよりもシャクス。酷いケガですねぇ」
ダンタリオンが見上げると、疲労でガタガタの自分達に比べ、血だらけのシャクスは痛々しかった。
「後少しで倒せたんだがな。次こそは倒して見せる」
死闘だったのだろう。口調にも覇気がなかった。
そこへ、エルフの女王アイニと、人間の国の王達が姿を見せる。いずれも鎧を纏って。
代表で口を開いたのはエルガム国王だった。
「シャクス、ダンタリオン、話はアイニ女王から聞いた。これまでの非礼、知らずとは言え許して欲しい」
深々と頭を下げられ、“一応”家臣である二人は慌て、
「陛下!おやめ下さい!」
シャクスが言う。
「どうか頭をお上げ下さい。陛下に頭を下げられては私達の立場がありません」
ダンタリオンは座っていた腰を上げた。
「そうはいかぬ。この世界を救う為に、わずかな人数で魔族に挑んだのだ。万が一のことがなくてホッとしておるのだ」
また、ザンボル国王も、
「かつての詫びもしなくてはなるまい。君達を敵だと決めつけ、とんでもない過ちを犯すところだった」
言って、輪廻の塔を見る。
「“彼”からも話を聞かねば」
それはきっとケファノスのことだろう。
「アイニ様」
「カイム……わずかな間に顔付きが変わったようだな。逞しい戦士の顔だ」
実の子であるカイムの成長は、母親としてなにより喜ばしい。
出来ることならば、真実を打ち明け抱きしめてやりたかった。
そしてシメリーも。実の子ではなくとも、気持ちは我が子。知らぬシメリーは“母親”の姿に泣き出しそうだった。
「シメリー、無事でなにより」
「お母様……」
シメリーもまた“母親”の胸に飛び込みたかったが、国を出た意味を台なしにしたくなく堪えた。
一歩、大人になったシメリー。でも、それは同時に我が子として育てて来た娘が手を離れて行く瞬間でもある。きっとシトリーも。
「みんなぁ〜〜〜〜!!」
そうしていると、塔の方からクダイ達が来る。知らない顔ぶれを二人、連れながら。
鮮烈な真紅の鎧の少年。
深い紫の鎧の騎士。
……………………………
……………………………
……………………………
誰も言葉を発しなかった。
少年が誰かも知らないし、騎士も誰だかわからない。
これまでの言動を考えれば、どちらがケファノスかはわかることではあるが。
重い沈黙を破ったのは、
「世話をかけたな」
紫の騎士。ケファノスだった。
「随分と色男ですねぇ。う〜ん、私のポジションが危ういかも」
それをダンタリオンがにこやかに答えた。
改まって礼を言い合うよりも、普段通りでよかった。
「フン。もっと年寄りかと思ったがな」
シャクスも微笑んで見せた。
アイニ達国王らも、微笑みはしなかったが、敵ではないケファノスを邪険にするようなことは言わなかった。
「そっちの少年は?」
また重苦しくなるのを回避するように、カイムがクダイに聞いた。
「あ、羽竜って言って、不死鳥だよ」
説明が不足してる。一番いいのは羽竜本人の口から説明してもらうことなのだが、こうも情報が沢山では整理するのも難しい。
「シスターはどうなさったのです?」
オルマの腕に抱かれたカカベルを見てダンタリオンが気にかけたが、
「まあ………いろいろと」
クダイはそれしか言わなかった。
とにかく、援軍が来た成り行きや、ケファノスのこと。カカベルのことも不死鳥である羽竜のこと。情報が混線してるようで、どうにもならない。
誰もがそう思っていると、
「魔王ケファノス」
ザンボル国王が口を開いた。
「我々人間とエルフ、その他この世界の全ての種族で設立した平和維持軍に貴殿を招き入れたい」
それは、サン・ジェルマン伯爵から世界を守ろうとする全ての種族で構成される究極の軍団。
世界が一つになった奇跡だった。