第五十六章 鳳凰の祭壇
「やっぱり来たな」
土のエンテロは気分がよかった。
自分を楽しませてくれるゲストが現れたのだから。
「貴様に会いに来たわけではないのだがな」
そう言いながらも、シャクスも騎士として強い相手とやり合えることへの嬉戯に躊躇いはないようだ。
「そう言うなよ。どうせ俺を倒さなきゃ先には行けないんだ」
「いや、通させてもらう。クダイだけでもな」
決まり事のように言ったシャクスは、いつもより緊張感に縛られているクダイの肩に手を乗せ、
「ここからは一人で行け」
それはサン・ジェルマン達と戦いになっても助けが入らないことを示唆している。
やり合えば、クダイに軍配は挙がらない。でも、二人でここでエンテロを相手にする時間はない。
「大丈夫だ。お前ならきっと何とかする」
「このジャスティスソードを………信じていいのかな」
兄のような言霊は、無責任なんかではなく、戦いの場において信頼する仲間への言葉。いい加減、クダイにもそのくらいはわかって来た。
「ケファノスの姿、拝むんじゃなかったのか?」
踏ん切れないのだろうと、そう言った。
「そうだよ。うん。ケファノスの姿を拝むんだ」
それはクダイからケファノスへのプレゼント。ジャスティスソードで失った肉体を取り戻す。
ここで命を貼なきゃ男が廃る。
「行くよ」
「クダイ」
「ん?」
「お前には戦いの経験はない。俺が教えたことなどせいぜい基礎中の基礎。自信には繋がらないだろう。だがな、戦う者は、何を信じるかが問題なんじゃなく、何をどう信じるかが問題なんだ」
ジャスティスソードや無眼の構えに頼るなと、シャクスが言った意味がわかった気がした。
過ぎた力か超えた力か。いずれにせよ、有り余る力に頼り切る末路は見えていた。
何の為の力なのか。それがわからないでいたクダイには、身を破滅するだけの力だった。
だが、単身エンテロに挑んだクダイは、シュードモナスへ挑んだ時のクダイとは違う。
自惚れた小僧なんかではなく、運命を共に出来る、同じ夢を追える、全てを託せる騎士。
まだまだ面倒は見なければならないが。
「行け!クダイ!」
「うん!」
最悪な第一印象から始まった二人は、気付けば心を繋いでいた。
クダイに道を作る為、エンテロへの最初の一撃は基礎を取っ払った突貫工事のような一撃。
受けたエンテロの腕が痺れる。
隙を突いてクダイは最上階を目指す。
「やるじゃねぇか。もっとマニュアル通りの攻撃して来るかと思ったぜ」
力一杯シャクスを払いのけ、竜人へと変身する。
「あまりいい子ちゃんじゃあないもんでな」
シャクスにしては珍しいジョーク。クダイ達が聞いたら目から鱗ものだったに違いない。
「ヘッ。言うねぇ。でもいいのかよ、ジャスティスソードと無眼の構えが使えても、サン・ジェルマンには勝てないと思うぜ?」
「さっさとお前を倒して、俺が行けばいい」
「だったら始めようぜ。聖騎士シャクス」
準備運動なんて必要ないくらいに筋肉が火照る。
強い者が強い者を求めるのは自然の摂理。
流れに身を任せ二人は戦う。
待ち切れない想いを、エンテロは口にした。
「今夜は楽しい夜になりそうだ」
「これは………」
ヨウヘイの目に映るのは所謂祭壇というものだった。
ピラミッド型で、てっぺんまで続く階段の両脇には不死鳥をモチーフにした石像。
「鳳凰の祭壇。記述にはそう記されている」
説明したサン・ジェルマンは、後ろに手を回し祭壇に近付く。
石像を撫でるように触り、質感を確かめる。
「ふむ。なかなかの出来栄えじゃな」
大きさから原寸大なのだろう。非常に細かな彫刻が施され、それはそれで生命の息吹さえ聞こえて来そうだ。
古い造物の雰囲気を堪能するサン・ジェルマンとは対称的に、ヨウヘイは疑問ばかりで頭を潰されそうだった。
「いろんな世界や時間を旅するわりには、不死鳥を見たことがないのかよ」
「無い。どんな世界にも不死鳥伝説はあるが、見たと明言した者は数少ない」
「じゃあ、黒仮面は数少ない貴重な目撃者ってわけか」
「目撃どころか、会っているようだ。あの口ぶりはそういうことだろう」
無限に既存する世界を、隅から隅までを渡り歩くのはそう容易ではないのかもしれない。
黒仮面が不死鳥の存在を認めるのは、彼がたまたま行った世界にいたのか、あるいは彼の生きた世界にいたのかもしれない。
「ヨウヘイ、お前の世界にも不死鳥伝説はあるのだろう?」
ある。どこの国にも不死鳥を連想させる話はあるが、信憑性はまず皆無。ロマンを描く助けにしかならないように思っていた。
しかし、幾分かの確率で、不死鳥は姿を見せるのだ。今夜。
「まあな。けど、俺の世界で語られる不死鳥とその石像、全く同じ姿だ。違う世界の同じ伝説。事実であることの証拠ってことか」
「賢くなったな」
「ケッ、茶化すなよ。それくらいはわかるさ」
外から風が流れ込んで来る。
見れば、暗闇に包まれていて、祭壇の火が心もとなく辺りを照らす。
無人の塔に火を燈してくれた魔族に感謝しつつも、もう少し明るくてもいいような気もした。
「しっかしよぉ、時間を終わらせるのに時間構築魔法具が必要なのはわかるけど、俺がどう必要になるのかさっぱりだぜ」
この世界を舞台にする必要性もだ。
「城に戻ったら話してやる」
呟いたサン・ジェルマンは、ヨウヘイを見ることはなかった。