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第五十二章 SPICE BOY

「どこへ行ってた、セルビシエ」


開口一番突いて出たアスペルギルスの言葉に、セルビシエは不満だった。


「どこだってよろしくなくて?いちいちあなた方に言う必要はありませんわ」


「どーせ、またあの男のところだろ」


エンテロは察しがついてるんだと言わんばかりに言う。


「黒仮面か」


アスペルギルスが聞くと、


「あんな空かした男のどこがいいんだか」


エンテロが冷やかした。


「セルビシエ、あの男だけはやめておけ」


「あら?どうしてかしら?黒仮面様は素敵なお方よ」


アスペルギルスの言い方が気に入らなかったのか、食ってかかった。

四天王と呼ばれはしてるが、仲がいいわけではない。それぞれ実力が特化してるだけで、互いに興味はない。

干渉されたくもない。


「あの男は何やら嫌な空気を持ち合わせている。まるで存在そのものが闇。我ら魔族にとって、決して福音をもたらす者ではない」


「バカバカしい。わたくしの幸せはわたくしが決めますの。とやかく言われる筋合いはありませんでしてよ」


険悪なムードが流れ、話し合いも何も無くなりそうなので、


「止せよ、二人共。今、魔族は俺達四天王が仕切ってるんだ。俺達が喧嘩したら、サン・ジェルマンや黒仮面の好きにされちまう」


エンテロが仲裁に入った。

彼的には、アスペルギルスに賛成なのだが、セルビシエは芯が強い女だ。言ったところで始まらない。


「フン」


セルビシエは鼻を鳴らして椅子に座った。


「まあよい。貴様がそんな態度を取れるのも今のうちよ」


「………どういう意味かしら?」


「ケファノス様を魔王として認めぬ以上、魔族を統率する者が必要だ」


「まさか………!」


セルビシエは、座ったばかりの椅子から腰を上げる。

それは、アスペルギルスが何を言ってるのかわかるからだ。


「将軍が眠りからお目覚めになられる」


「将軍が…………?」


「そうすればセルビシエ、貴様の勝手など認められなくなるだろう」


ケファノス直属の部下。そして四天王の上に立つ者。


「ま、しょうがねーよな。俺達にカリスマ性はねーし、下手すりゃサン・ジェルマンに魔族を乗っ取られちまう。将軍に魔族の王になってもらうのが一番だろ」


「そういうことだ。だが、急ぎ足、我らにはやらねばならぬことがある」


アスペルギルスは少し言い淀み、


「サン・ジェルマンが輪廻の塔へ向かうことを決めた。我々もそれに同行する」


そう言った。


「でもなんでサン・ジェルマンの目的に付き合うんだ?俺達は俺達でやればいいじゃないか」


エンテロにはアスペルギルスの考えが理解出来ない。


「話は最後まで聞け。何もサン・ジェルマンの手助けをしようと言うわけではない」


「じゃあ、なんだってんだ」


時間構築魔法具ツールが揃った時、それを奪う。それまでは協力するフリをするのだ」


「ケッ。面倒くせー。そんなら今すぐ殺っちまえばいいじゃねーか」


「それでは駄目だ。サン・ジェルマン達は、まだ我々に隠してることがある。それを知るまでは生かしておかねばならぬ」


「ならお前に任せるよ。俺はそういうのは苦手だからな」


割り切りがいいのは、不得意な分野に踏み込んでもいいことなど何も無いと知っているからだ。


「わかったな、セルビシエ」


「…………好きになされば」


アスペルギルスの高圧的な態度に機嫌を損ね、またどこかへ行ってしまう。


「エンテロ、兵を整えてくれ」


「魔族全軍で行くかあ?」


「それもいいが、今度はきっちり陣を組む。人間達を確実に殺す」


傷つけられたプライドがじんじんする。


「………あいよ」


エンテロは間を置いて返事を返した。


「最後に勝つのは我々魔族だ」


アスペルギルスは野望を燃やしていた。










「セルビシエとデキてんのか?」


品の欠片も無いストレートな言い方をしたのはヨウヘイだった。


「見てたんだぜ?お前らが抱き合ってんのをよ」


動揺させる意図があったかは定かではないが、あまりにずさんな暴言に、黒仮面は苦笑いするしかなかった。


「覗きが趣味なのか?あまり褒められんな」


「ごまかすなよ。どうなんだ?デキてんのか?」


それを聞いてどうする気かは知らないが、答えねば気が済みそうにもないので、


「特別な感情はない。向こうは俺に惚れてるようだが」


はっきりと言ってやった。


「何を企んでるんだ?」


「企む?誰がだ?」


「お前だよ、黒仮面。セルビシエを手なづけて」


「なるほど。自分の立場が危うくなって来たと見て、俺をダシにサン・ジェルマンの信頼を得ようというわけか。フッ、中々したたかじゃないか」


「そ、そんなんじゃねー!俺はただ、俺達を欺く行為をしたお前が………」


「俺がいつお前らを欺いた?その解釈には無理があるんじゃないか?」


「なら、客人の立場のお前が、セルビシエと密会を重ねてるのはどう説明つけるんだ!」


「俺とセルビシエが何をしようと、お前には関係ない。それに、俺はサン・ジェルマンの客人であって、他の誰の客人でもない。だからお前にとやかく言われる筋合いはないんだよ」


ヨウヘイの胸倉を掴み、静かに言った。


「こ……この野郎………」


「血気盛んな男は嫌いじゃないが、礼儀知らずは別だ。あまり俺を怒らせるな」


黒仮面の雰囲気に完全に呑まれたヨウヘイは、無意識に震えていた。本能で悟る恐怖に、その場にへたれ込む。


「サン・ジェルマンに感謝することだ。サン・ジェルマンがお前を必要としてなければ、とっくに殺してる」


去って行く黒仮面の足音が、ヨウヘイの心臓までも震わせた。

足音は遠退いても、まだそこにいるような気配を感じて。


「ち……ちくしょうっ!」


いつも優位な立場にいると思っていたのは、勘違い意外の何物でもなく、気付けば孤独に犯されつつある。

だから自分の居場所を作るのに必死なのだ。

人間離れした力を持っていても、特に強いわけでもない。クダイが悩むことを、ヨウヘイもまた悩んでいた。


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