第四章 賢者と呼ばれる男
「はて?可愛いらしいお人形さんですが、お知り合いでしたでしょうか?」
ダンタリオンは首を傾げアフロヘアの天使を見つめる。
「誰?知り合い?」
クダイは小声でケファノスに話しかける。
「若くして賢者にまで成り上がった喰えん奴だ」
若くして賢者になったことが、どうして喰えないのかはわからないが、その言い方から、仲間でないことは確かだ。
「どこかで聞いた声ですね。まさかとは思いますが………魔王ケファノス」
一見、微笑みを崩してないように見えたが、ケファノスの名を口にした時、険しい表情をした。
「なぜ貴様がここにいる」
ケファノスの口調も少し乱暴気味だ。
「なぜ?私はガーゴイルを追ってここまで来ただけです。あなたこそ、随分変わり果てたお姿ですが………イグノア様はどうなさったのです?」
「消えたよ」
「消えた?これはまたどちらへ?」
「さあな。あの世か……それとも存在すら失くなったか」
「まさかその少年が………」
クダイはダンタリオンに睨まれた。
「ぼ、僕じゃないです!ケファノスが!」
ケファノスを指差して否定した。
「猿芝居はやめたらどうだ。ジャスティスソードは使い手に災いをもたらす。そのくらい貴様が知らんわけがなかろう」
ケファノスはクダイの裏切り(?)に動じることもなく、ダンタリオンに返し言葉を放つ。
「では、イグノア様はジャスティスソードの災いのせいだとおっしゃるのですね?」
そう言って、ダンタリオンは剣を抜く。
「なんの真似だ」
「イグノア様がジャスティスソードの災いで消えたとしても、最終的にはあなたを倒せば事が済む」
「………………。」
「今のあなたなら負ける気がしません」
そのやり取りをクダイは黙って見守る。
成り行きを見守るわけではなく、黙っていれば巻き込まれずに済むと、そう思っていたのだが、
「こっちにはジャスティスソードがある。それでも殺る気か?」
ダンタリオンはまたクダイを睨む。
「フッ。彼が?ご冗談を。華奢で、まるで構えがなってない」
「そう思うか?だがこやつはジャスティスソードの災いを受けん」
「そんな話………信じるとでも?」
「嘘だと思うのなら試してみるのだな。事実、余をこのような姿にし、たった今ガーゴイルを倒した。それでもまだ存在している」
ダンタリオンが信じられないのは、ジャスティスソードは誰にでも使えるが、心に悪のある者はその代償を払わなければならない。人間である以上、いや、神であってもわずかな悪は必ずある。クダイに災いが起きないというのは、クダイの心に悪が潜んでないことになる。
それが信じられないのだ。
「………………それが本当なら、興味深い。ジャスティスソードを使いこなせる者など、どこにもいなかったのですから」
ダンタリオンは剣を鞘に収め、戦うことを諦めたようだ。
「では二人共、私と一緒に来てもらいましょう」
「え?な、なんで僕まで………」
「ジャスティスソードを持っているからですよ」
意味ありげに笑うと、ケファノスを見て、
「異論はありませんね?」
「…………よかろう」
このまま自分の城へ戻っても、部下に説明して理解させる自信はない。従った方が無難と踏んだ。
「では、参りましょう」
そう言って、ダンタリオンはディメンジョンバルブの中に入ろうとした。その時、
「いけない!」
ディメンジョンバルブが閉じ始まる。ダンタリオンは慌ててこじ開けようとするが、努力の甲斐なく閉じてしまった。
「なんてことだ………」
ケファノスが落胆の声を漏らした。
唯一の帰り道が断たれたのだ。
「あの〜………」
ダンタリオンはゆっくり振り返ると、
「今夜、泊めていただけませんか………」
気まずそうに言った。