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第四十四章 贖罪の刀剣

「“ウチ”の男共はど〜〜〜〜してこう甲斐性が無いわけ!」


カイムと同じような状況に陥り、オルマは自分だけ置いてかれたと勘違いしてるのだ。


「いくらなんでも女一人残して消えるってのが納得出来ないわ!!」


男勝りな性格なのは自覚している。だからと言って、扱いが雑にされてる気がしてならない。


「大体、武器なんてどこにもないじゃないの!」


吐き捨てた文句が足元の石碑に気付かせる。


「あれ?こんなのあったかしら?」


屈み、碑文に目をやる。


『非情の愛は人の力にあらず

切り裂くは幼き迷える魂

我振るう力は妖魔の力』


「…………どういう意味よ」


ここにダンタリオンがいたなら、「碑文とはこういうものです」と言ったに違いない。


「そのままの意味よ」


「!?」


「お久しぶりねぇ」


そう言ったのは、


「あ……あたし……?」


「そう……“あたし”よ」


オルマの前にいるのは彼女自身。ただ、若い。


「何者……なの?」


「聞いてなかったの?あたしは“あたし”よ」


「そうね………見た目はね。少しばかり若いけど」


聖騎士になる為の訓練兵だった頃の制服を着ている。推測するに、十年前のオルマ。


「で、何しに出て来たの?誰のイタズラかは知んないけど、過去に興味はないわ」


本物であるはずがない。自分はこの世でただ一人。


「過去に興味はない…………か。そんなわけないわ。だってアンタ、引きずってるもの………あの時のこと」


若いオルマは剣を抜き、


「忘れたなんて言わないわよね〜ぇ?聖騎士になる夢を諦めた原因だもの」


「言うな!そんなこと………」


「逃げるの?」


自分なのに自分が怖かった。若い時の自分はこんなに鋭い目をしていたのだろうか?


「ある日、訓練兵に任務が下りる。住人がまるごと盗賊団って村の壊滅。訓練兵とは言え、聖騎士や賢者になろうって連中が集まった集団、問題はなかったはずだった………ここまでは大丈夫?」


若いオルマは嫌味に笑う。

しかし、オルマは噛み付くこともせず、黙って彼女の話を聞いていた。


「思ったよりも激しい戦いになり、任務遂行すら危ぶまれた中で、アンタは不意に飛び出して来た子供を殺した」


「あれは………!!殺らなければあたしが殺られていたわ!」


「本当にそう?子供よ?殺さなくても済んだんじゃないの?」


「違う!!」


「恐いんでしょう?自分の別の一面を認めるのが」


「あたしは正しい判断をしたわ!」


「じゃあなんで聖騎士にならなかったのよ」


思い出したくないことが記憶の奥底から這い出て来る。

盗賊団の村を壊滅、抵抗しなかった女、子供は殺さずにそのまま捕らえた。

オルマが殺した少年を除いて。

帰還してから、特に咎められることはなかったが、仲間からの目はそういうわけにはいかなかった。

女でありながら容赦なく子供を殺したと陰口を叩かれ、あまつさえ、万が一オルマが聖騎士となって、立場が上になられるのを恐れた者達からの冷酷な仕打ち。そもそも、女性であるオルマが、聖騎士になることを快く思う者などいるわけがなく、男勝りな性格とは言え、いつしか心は折れていった。


「聖騎士になることを諦めただけじゃなく、恋にも破れちゃあ……女もおしまいよね」


若いオルマに心を傷つけられる。


「恋は関係ない!」


「忘れたの?シャクスに言われた言葉」


「…………。」


「『女に騎士は務まらん。ダメだと思うならさっさと諦めろ』だって。冷たい男。“あたし”が好意を持ってることは知って言ったんだよ?嫌な男だと思って………」


「黙れ!あれはシャクスの優しさだ!わざと冷たくして………そして………」


「めでたい女。あっ、そっか、まだシャクスのこと想ってるんだ」


「うるさい女め!!」


図星をつっつかれ、思わず出た拳だったが、若いオルマにあっさりかわされ、


「あっははは!なっさけない!そんなに好きなら抱かれたらあ?アイツだって男だよ?その気にするくらいわけないでしょ?」


これが誰かの言葉なら、きっと言い返す自信はある。でも自分自身に言われるのは、否定出来る要素がない。

でも………


「その気…………」


「そう!わかってんでしょ?自分の魅力。裸の女、前にして何も出来ない男なんていやしないわよ」


「…………くく………くくく………」


オルマが俯き、肩がひくひくと上下する。


「あはははははっ!」


そして耐え切れず吹き出した。


「な、何がおかしいっ!?」


「あは……はひ……あ……あたしがシャクスを……裸で誘う?あははは!」


「何がおかしいのか聞いている!」


「ちゃんちゃらおかしいわよ。なんであたしがシャクスに。シャクスから来るってんならわかるけど。大体ね、シャクスとかダンタリオンなんかに媚びるようなこと、あたしのプライドが許さないのよ」


そう言って、若い自分の剣を掴む。刃を。


「な、何を………!」


オルマの手の平から血が溢れ出る。


「アンタ、“あたし”を気取るんなら、女としてのプライドなんかより………」


「ひっ………」


「女戦士オルマのプライドを優先しなっ!!」


刃を素手でへし折り、その拳をおもいっきり叩き込んだ。若い自分の顔に。


「顔洗って出直して来なっ!」


若い自分が光になって闇より消去された。

同時に、オルマの握っていた刃も光に包まれ、別の形へと変わる。


「これ…………」


細く長い剣。でもレイピアの類ではない。なぜなら見たことがない形だからだ。

金細工、つばは般若の顔で、そこから静かに反るような刃。特徴的だったのは、両刃ではなく片刃なところ。

オルマは飴色の鞘から抜いた片刃に見惚れていた。


「なんて綺麗な………」


その刃には、


『童子切り』


そう彫られていた。もちろんこの世界の文字で。


「フン……嫌な名前」


一閃すると、闇が消えて行く。


「でもまあ………あたしにはお似合いか」


そう言ったオルマから涙が流れた。

強がる自分の心か………それともあの日の少年への贖罪か。

それとも………


「涙なんて………バカみたい、あたし」


涙は、塵界じんかいに住む者に許された、唯一つの償い。


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