第四十二章 魔王の試練
ガムダン渓谷。クダイ達はその奥にある遺跡の前で固唾を呑んでいた。
「遺跡………ねぇ」
オルマは“これ”を遺跡と呼ぶのかどうか、世論に聞いてみたい気分だった。
「これって………」
シメリーがちょんちょんと指で“これ”をつっついた。
「どう見たって骨だよな?」
城なんかよりずっと巨大な頭骨。角が額から一本伸び、おそらくは俯せで倒れている。何かに襲われたように。
カイムも直接触れて造物ではないことを確認した。
「すっかすでっけぇ頭だべ。魔族け?」
カカベルが魔族の王様ケファノスではなく、ダンタリオンに聞いた。
「いえ………私も初めて見ます」
知識豊富なはずのダンタリオンでさえ、答えを出せなかった。
微かに感じるケファノスの魔力。本人が張った結界だろう。
「ケファノス、これって何の骨?」
クダイだけは単刀直入に聞いた。
「時間構築魔法具を造ったとされる巨人族の王………ベオの亡きがらだ」
ケファノスの解答は実に簡潔で、要約されたものだった。
「それってこの世界を造った神様ってこと?」
「そうではない。ベオは世界の仕組みを解き明かし、いくつかに別れている世界を成り立たせている力を時間構築魔法具で制御しようとしたのだ」
シトリーの疑問にケファノスは答え、
「だが、あまりに強大な力を前に、己の生気を犠牲にせざるを得なかった」
ベオの歴史を語った。
「じゃあ何か?時間構築魔法具が世界を造ってるわけじゃないってことか」
沈黙は事実の整理だったのか、シャクスが口を開いた。
「いいや。時間構築魔法具を造ったことで、世界を成り立たせていた力が不和となり、結果、時間構築魔法具に頼らなければ世界は姿を保てなくなってしまった。サン・ジェルマンはそれに気付き、時間軸の融合に利用しようと企んだのだろう」
なんとも迷惑な話だ。巨人だかなんだか知らないが、個人の因果が時を跨いで存在しているのだから。
「事実ならムカつく話だ。余計なことをしてくれたもんだぜ」
シャクスはベオの亡きがらを見上げた。
「そのベオって巨人族の王は、どうやって世界の仕組みを解き明かしたんだい?解こうとして解けるもんじゃないだろう?」
オルマ的には、根本となる解決を見ないことには納得出来ないらしい。
「伝説によれば、ベオは存在しうる全ての世界と時間の創造主と出会ったと言われている。その創造主がベオに教えたのか、あるいはベオが偶像解き明かして創造主に出会ったのか、推測するしか方法はない。真実は闇の中にある」
「………巨人族の伝説なんて初めて聞きましたよ。まさかそんな伝説があったなんて………それにしてもケファノス、どうしてこの中に武器を隠したんです?コレクションにするならご自分の城に飾るべきだと思いますが?」
本題はここからだ。ダンタリオンは、これから得るだろうジャスティスソードにも劣らない武器に隠された事情を問いただした。
魔界から隔離してまで保管したわけを。
「お前らがこれから手に入れる武器には強い力が込められている。常に主を求めるほどの武器は、封印でもしておかねば災いの火種と成り兼ねん。飾るなど愚かな行為よ」
そんな危険度MAXの武器を使えと言うのか………ダンタリオン、シャクス、オルマ、カイムの四人は緊張と不安を覚えていた。
そしてそれを、
「ジャスティスソードと変わんないじゃないか」
クダイが代弁した。
「余が言った災いとは、ジャスティスソードのように主を消してしまうようなものではなく、主の心……自我を破壊してしまうようなもののことだ。強い力に呑まれぬ自信と覚悟があるのなら………」
一呼吸置いてからケファノスは、
「行け。手に入れることが叶った時、それはお前達にとって揺るぎ無い力となる」
ベオに張られていた結界を解いた。