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第三十八章 欲深き正義

「シトリーとシメリーはシスターと一緒にここにいてくれ」


深夜。作戦など無いが、行くしかなかった。

ダンタリオン達の処刑が迫っていると掲示板が町中に置かれ、猶予が無いことを知る。


「クダイ、気をつけてね」


心配するシトリーに応えてやれる心の余裕は満たされていない。

昼間のショックからか、シスターの口数も少なく重苦しい空気だった。


「カイム様を助けて」


シメリーはさっきまで着いて行くと騒いでいたのだが、ケファノスとシトリーに説得されなんとか応じてはくれた。

涼しい風が一時だけ緊張を解す。上手くいかなければジエンド。


「準備はいいな………クダイ」


気遣いは無用。いつもなにかと世話になってる。こういう時くらい仲間らしいことが出来なければ、ヨウヘイやサン・ジェルマン、そして………


「黒仮面……」


と戦うことも不可能。


「あんのぅ………」


「何?」


恐る恐るシスターがクダイに話し掛けるのは、クダイの雰囲気がどこか暗いから。

命懸けで仲間を救いに行くのだから当然なのだが、それとは違った暗さがあった。


「出来ることなら人を殺めるのだけは………」


「無理だね」


「クダイさ………」


「残念だけど相手の命まで気遣う腕は僕には無い。シスターの期待には応えられないよ」


「んでも!」


「しつこいって」


暗さに加えて冷ややかだった。


「シスター、これは賭けだ。しくじればクダイの命さえ危うい。ナーバスなのもしかたのないこと」


「…………なして……なして人は争わねばなんねだ……クダイ達さ無実なら、ちゃんとさ話し合って……人はここまで繁栄した生き物だべさ!そうだべ!まずは神様さ祈ればいいだよ!きっとなんとかしてくれんべ!」


「違うな」


「え?」


「人が繁栄したのは祈らなかったからだ。神を信じなかったからだ。自分達の力と知恵で明日を掴んで来たのだ。祈ることで物事が解決するのなら、きっと魔族もそうする」


「テンス様………」


「人に祈りは必要だ。だが、都合の悪いことだけを祈りに託すのは間違っている。神に仕えるということは、人として永遠に終着しない心を支えてやることだ。そしてそれは、人の闇を隠すことではなく、人がいかに弱い生き物であるかわからせるものでなくてはならん」


シスターが間違った思想を振りかざしていたなんてクダイ達は思ってなかった。それでも、ケファノスの言葉が間違いだとは思えなかった。


「シスターよ、人に神の教えを説きたいのなら、人の醜さ、人の理不尽さ、人の強欲さを知ることだ。人は欲深いが故に明日を望む。上辺だけの言葉ではなく、人の本質で物を語るのだ」


神だった。人のなんたるかなんて人にはわかる代物でないのだと、すんなりそう思えた言葉だった。


「行くぞ、クダイ」


「うん」


ケファノスの言葉に、少年達は何を思うのか………。










処刑まで残り数時間。ジタバタしないわけにはいかなかった。


「な、なんであたしが!」


「声を抑えて下さい、オルマ」


ダンタリオンの発言は即刻却下すべきだ。そんな眼差しでシャクスとカイムを見るが、


「みんなの為だ」


とシャクスは言った。

カイムはまだ馴染めてないのか、何も言わないことで肯定の態度を見せた。


「し、信じられんない!二人共あたしがどうなってもいいの!?」


そこまでは思ってないが、そうなるとも思っていない。


「あなたにしか頼めないんです。お願いします、オルマ」


白々しいとはこのことで、ダンタリオンの目ん玉でも引っこ抜いてやりたい気分だ。


「チッ……やるよ!やればいいんだろ!」


そう言うと、咳ばらいをして鉄格子に近寄り、


「あ………ち、ちょっと〜」


看守を読んでみる。

すると、二人の看守は、


「なんだ?」


椅子から腰すら上げずに答えた。

カチンと頭には来たが、ぐっと堪えて演技の続きをする。


「あ……あぁん………看守さぁ〜ん」


「だからなんだ?」


わざとらしい演技にダンタリオンは苦笑いを浮かべ、


(オルマ、もっと自然に!)


と小声で囁くも、ギロッと睨まれ口をつぐんだ。

色気は十分なのだが、なにぶん男らし過ぎる。誘惑しようなんて作戦が間違いだったのかもしれない。

そんな憂鬱も知らず、オルマは嫌々ながらまた演技に戻る。


「なぁんか〜〜トイレに行きたいなぁ〜」


「どうせ処刑されるんだ、そこでやれよ」


「で、でもぉ〜、恥ずかしいじゃな〜い。ねぇ〜看守さぁん〜」


気分が乗るということもある。鉄格子から足を出して、モゾモゾとさせる。なんとも綺麗な曲線が看守を射止めたのか、ようやく重い腰を上げた。


「そんなに我慢出来ねーのか?」


「あっは〜ん、オルマぁ……も・れ・そ・う」


どっから覚えて来たんだと、やらせておきながら感服させられる。演技の下手は抜きで。


「しょ、しょうがねぇなあ。今連れてってやるよ」


ところが、看守はまんざらでも無い様子でデレデレとスケベ面満開でオルマの曲線を眺め、牢屋からオルマだけ出すとすかさず鍵を閉めた。


「優しいのねぇ〜看守さんて」


「いいから手を後ろに回せ」


剣を扱うには細いくらい女の腕をしている。

手首には縄が巻かれ、看守に促されて歩く。


「早く戻って来いよ」


座ったままの看守が言うと、


「わかってるって」


いやらしい声色で言った。










「ほら、早くやれ」


やれと言われてもトイレが目的ではないのでやりようがない。

さてどうしたものかと考え、


「ね〜え、看守さん」


「あん?」


「あたしと『いいこと』しなぁい?」


「………騙そうったってそうはいかねぇぞ」


「いやん。騙そうなんて思ってない〜。なんかさぁ、暑苦しくてムラムラしてるの」


よほど足に自信があるのか、壁に足をかけフトモモをあらわにする。

微妙に滲む汗が色欲的で、要らぬ妄想を掻き立てる。


「死ぬ前に………忘れられないくらい激しいのが欲しいのよぉ」


甘い声は看守の鼓膜を通り、本能へ一直線に響いた。

据え膳食わぬはなんとやら。下手な演技も本能に直接訴えかければなんとかなるようだ。


「へへ………ま、まあお前がそう言うなら………」


「あぁン………縄を解いてぇ。壁に手がつけなぁ〜い」


「好きもんだな……待ってろよ………」


「……………。」


縄を解いたが最後。急所を蹴り上げ、気を失うまでひたすら殴る。


「ハァ………ハァ………このスケベがっ!」


とどめの一撃を見舞い、


「ダンタリオンの奴め〜ぇ!!」


鬼の形相で戻って行ったのは言うまでもない。










「結構な見張りだね。昼間あれだけ騒ぎになったから無理もないか」


「わかっていたことだ」


そうわかっていたことだ。


「こんなところで死ぬわけにはいかないよ」


黒仮面。彼の存在が気になる。

まるで闇そのもののような気配の持ち主。


−輪廻の塔へ来い−


何かが起きる。だから何がなんでも行かなくてはならないのだ。


「いつもの作戦で行く。準備をしろ」


ケファノスが出て行き、光で敵の目を眩ます。

定着した作戦だ。


「僕はいつでもオーケーだ」


ジャスティスソードを握ると、


−キィィィィィン−


鳴った。

ケファノスが飛び出し光を放つ。瞼から伝わる光が落ち着く頃、クダイは目を開き“正義”を振りかざし立ち向かって行く。


『欲深いが故に明日を望む』


ケファノスはそう言ってた。ならば、世界を救いたいという気持ちも欲深いが故なのか。

終着しない心………それだけに答えが欲しかった。


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