第三十七章 黒仮面
シャクスの教えを忠実に再現………いや、既に自分のものとしている。
ヨウヘイの放つダークエナジーをジャスティスソードで払いながら、着実に懐へと歩み寄って行く。
「そんな地味な戦い方じゃつまんねぇよ!なんか大技でも繰り出してみろよ!」
クダイが挑発に乗らないのは、町を破壊したくないから。ヨウヘイの攻撃は威力だけが先行して知的ではない。単純過ぎる。
だがそれが幸いして町への影響を軽減出来ている。
「前ん時もだったけど………ワンパターン過ぎるんだよ!」
頃合いを計っていたクダイがジャスティスソードを振り上げ突進する。
「な………!」
予見していたはずが、ヨウヘイの予想を超えた速さでクダイが近づいて来る。
「もらったぁっ!!」
軽く傷つけるだけ。そのつもりでジャスティスソードを振り下ろした。
しかし………
「友達を殺すというのはいかがなものかな?」
ジャスティスソードが塞がれていた。黒い………闇よりも黒い刃の剣で。
その主は黒い仮面を付けていた。
「黒仮面!!」
ヨウヘイが言うと、
「ぐほぉ………っ!?」
ヨウヘイの腹に蹴りを見舞った。
「がはっ………な、何しやがる……!」
「“しつけ”をしてくれと頼まれてな」
「………サン・ジェルマンか」
「勝手な真似は迷惑しか生まん」
いつの間にいたのか………気配すら感じなかった。
そして、クダイ自身知らぬ間に後ずさっていた。
「君が伝説の黄金剣ジャスティスソードの使い手か」
最初に黒仮面から感じたのは違和感だった。
彼の纏う空気というか、存在感みたいなもの………ダンタリオンやシャクスとは違う。つまり、この世界の人間の臭いがしなかった。
「誰だ……あんた……?」
「黒仮面。サン・ジェルマン達からはそう呼ばれている」
違和感に伴い恐怖感まで漂う。
クダイにもわかる。この男は強い。多分、シャクスやダンタリオンなんか相手にならないくらい。
「手を出すな。クダイは俺が倒すんだからな!」
「今はその時ではない。サン・ジェルマンが言ったことを俺にまで言わせるな」
ヨウヘイの声が怯えていた。
黒仮面は指先から淡い紫の光を放つと、それでヨウヘイの身動きを封じた。
邪魔されたくない意図があるのだろう。
「くそっ、ふざけんなよ!」
「黙ってろ」
ヨウヘイを一喝し、堂々と歩み寄って来た。
「クダイ………でよかったかな?」
「……………。」
「そう怖がらないでくれ。今ここでどうこうするつもりはない」
「だけど僕達の敵だ」
「フッ。どうやら俺は若い男には好かれんらしいな」
風がふわっと通り過ぎると、黒仮面から甘い香りがした。それは紛れも無い香水の香り。人工的に作られた。
「用が無いのなら早々に立ち去れ。我々としてもこの場での争いは望まぬ」
ケファノスが町を気にかけてるとは思えないが、少なくともダンタリオン達のことが頭から離れないことは見てとれた。
「心配しなくてもすぐ消える。この少年と話をしたらな」
「あんた………他の世界の人間だな?」
「ほう。なぜそう思う?」
「そんだけ香水の匂いがしたら嫌でもわかるさ。こういう世界でその匂いは不自然過ぎる」
「フフ……そうか」
求めていた解答を得たのか、口元だけは緩んでいた。
「貴様、一体何者だ?」
ただならぬ黒仮面の気配は、ケファノスの直感を刺激する。
「俺は無限の世界を旅する者。それ以上でも以下でもない」
「じゃあなんでサン・ジェルマンに味方してるんだ?あいつは時間軸を融合して全ての世界の時間に終わりをもたらそうとしてるんだぞ!」
「それの何が悪いんだ?」
必死なクダイを嘲笑う。それは正義を説いてみろと言わんばかりに。
「一人の勝手な理屈で世界の形を変えられてたまるか!時間軸が融合したら、全ての世界の全ての人達が存在しなくなる………そんなことは絶対にさせない!」
「サン・ジェルマンは無限に存在する世界を救おうとしてるんだ。哀れな生命体達の行く末を案じてな」
「時間に終わりをもたらすことが世界の為だってのか?」
「世界をそのままの形で残すことが、本当に世界を救うことになるのか………誰が判断するんだ?この世界も、君の世界も戦争が絶えない。自我を持つ生命体がいると、必ず同じような世界になる。だからサン・ジェルマンは存在する形を変えようとしているのだ。それに、君は勝手な理屈だとサン・ジェルマンを否定するが、君達に正義があるようにサン・ジェルマンにも正義がある。それは誰にも否定出来ない」
生命体にとって文明の差など問題にならない。原始の世界であろうと科学の象徴のような世界であろうと、生命体の心が進化しなければ結末は同じ。そう言いたいのだろうか。
「それでも……僕達は負けるわけにはいかない!」
黒仮面には、どこか懐かしい言葉に聞こえた。クダイの顔に別の少年を見る。
「いい面構えだ」
またも一人満足したように口元が笑い、
「俺達は輪廻の塔へ行く。そこでなら相手をしてやろう」
黒仮面はヨウヘイを縛っていた淡い紫の光を解くと、ぐいっと腕を掴んだ。
「い、イテーな!」
黒仮面とヨウヘイが去って行くまで、クダイはただ立っていた。
あの存在感と雰囲気。半端なく重いプレッシャーを残していった。ケファノスまでが口を開かないくらい。
のんびりと旅をする時間など無いことを悟る。
澄み切った空の向こう。輪廻の塔の聳える辺り。クダイは呼ばれている気がしていた。