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第三十五章 Her name is Sister 2

「んだから何度も言ってんべ!無実な人間が囚われてんだって!そったらことしたらなんねだよ!」


シスター。“見た目”は。


「なんだお前は!離れろ!」


衛兵にあしらわれることは予定内。


「あんたらじゃ話になんね!責任者会わせてけろ!直接会って………どわっ!」


「いい加減にしないと牢屋にぶち込むぞ!」


突き飛ばされ転げる。それでも、


(泣いたらなんねだ。優秀なシスターさなるにはこの試練は乗り越えなんね!)


泣く気配すらない。


「何やってるんだ?ジャスティスソードの使い手を探すのが先だろ。ほっとけよそんな女」


「わかってるって」


去ろうとする衛兵達の足に隙を見て、シスターはがしっとしがみつき、


「行かせねだ!」


思い込みが激しい性格は、神の与えたもう試練への情熱に燃えている。


「この………田舎娘がっ!!」


衛兵が持っていた槍の柄で腹を突いた。

鈍痛に一瞬目が眩み、声も出せず倒れる身体。神の試練など思考から離れる。


(ああ………わだすこげなところで………)


だが、次第に近づく地面が止まった。


「女に随分酷いことするんだな」


腕を掴まれる感触と男の声。


「なんだ貴様は!」


気が立っている衛兵は、男に食ってかかった。

シスターが男を見ると、黒いローブにフードで顔を隠していた。

逆光で目元まではよく見えないが、なせだろう………助けてもらったのにあまりいい印象を受けなかった。


「我々に逆らうと貴様もただでは………ぐっ!」


男は衛兵の喉を掴み締め付け、


「逆らったらなんだって?」


口角を上げた。


「貴様っ!その手を離せ!」


もう一人の衛兵が槍を突き付けるも、


「どこの世界も役人ってのはエラソーなんだな。笑っちまうぜ」


フードの奥がギラリと光ったかと思えば、衛兵を派手に吹っ飛ばした。

祭りのさなかの賑わいが、ざわめきへと変貌、ただでは済まされなくなっていた。


「あ、あんのぅ……わだすは大丈夫ですから」


責任を感じてしまい、男を宥めようとしたのだが、


「それでは俺の気が済まないんだよ」


騒ぎを聞いた他の衛兵達が集まり男を取り囲む。


「雑魚が揃いも揃ってご苦労なこった」


危険。シスターの第六感が働いた。この男は悪意を持ってこの町にやって来たのだ。

神妙な気配を見せない男に衛兵の牙が剥く。


「そうこなくっちゃな」


男が手を突き出すと、衛兵達は黒い炎に包まれ、人々は悲鳴を上げ逃げ出す。


「あ………ああ………」


悪夢であってほしい。独学ながらも神に全てを捧げた身。衛兵達の燃え盛る様は、シスターを絶望に堕とした。










「久しぶりだな、聖騎士シャクス、賢者ダンタリオン」


ザンボル国王が厳しい面持ちで二人名を口にした。

その冷静さから、話はやはりエルガムから伝わっているようだ。


「お久しぶりでごさいます」


この場はダンタリオンに任せるしかない。

全員が腕を後ろで縛られ、足には鉄球の枷を付けられている。

身分からして特別罪人の扱いである以上、刑を科せられ執行までの時間はそう長くはない。即日の可能性も考えてはみたが、祭り中であることを考えるとその後になるだろう。

雰囲気から数日は祭りなのだろうが、いつから始まってるのかもわからない。クダイ達の助けを待つ為にも、ここは凌がなければならなかった。


「エルガムの使者から受け取った罪状によれば、お前達は魔王ケファノスらと結託し、世界を我が物にしようとしてるとか。それとシャクス、そちにエルガムからの罪状は無いが、無断で大陸を渡っただけでなくダンタリオン達と行動を共にしてるということは、十分な罪となる」


謁見の間で裁判を受ける羽目になるとは。

正式な裁判をしないのは、処分を急ぐつもりか。


「お言葉ですが国王陛下、私達の言い分も聞いてはいただけないでしょうか?」


クダイを信用してないわけではないが、自分達でもなんとかしなければ“穏便”に……というわけにはいかなくなる。

ダンタリオンに確固たる勝算は無いものの、何とかやり過ごしてくれると暗黙を残したケファノスの期待には応えねばならない。


「話?サン・ジェルマン伯爵が世界をどうたらとか言う話か?それならもう聞いている」


「伯爵は時間構築魔法具ツールを集めようとしています。現在も、魔族を従え人間に対して戦々恐々の………」


「悪いがダンタリオン、ケファノスと行動を共にしている以上、お前達を信用するわけにはいかん」


「重ね重ねお言葉を返しますが、魔族との戦争は伯爵が仕組んだこと。ケファノスは人間と争う気はありません。それに、魔族というだけで刃を向けた人間にも責任はあるかと」


意外だった。自分が。釈明の為とは言えケファノスを庇ったことに。

もっと言い方を丸くしてもよかったのだが、勝手な“人間側”の言い分を聞くのはもううんざりだった。適当にこの場を逃れたところで、また同じことになるのなら、無理無理な窮地もまた悪くないかもしれない。

要は倫理の問題なのである。


「世界に名高きダンタリオンともあろう者が魔王の味方をするとは………シャクス、そちもダンタリオンに同意見か?」


ダンタリオンの言ったことに否定する意志は無い。ただ、迷いはある。どうあがいても状況は芳しくなく、わざわざ馬鹿正直にケファノスの味方をすることもないと思っている。そう、わかっているのだ。

なのに………


「ダンタリオンは過ったことを言うような男ではありません。それに、私自身ケファノスと旅をして来て真実を知ったつもりです」


「シャクス………」


口合わせをしたわけでもなかっただけに、ダンタリオンにはなによりの言葉だった。


「…………わかった。聖騎士シャクスまでもが魔王を庇うと言うのなら、これ以上の議論は不要」


ザンボル国王は玉座から立ち上がり、


「明朝、魔族に荷担するお前達を処刑する」


命のタイムリミットを宣言した。


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