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第三十四章 Her name is Sister

どれだけ眠っただろう。重い瞼をこじ開け、少しの間ぼーっとしていると傍らですやすやと眠るシトリーとシメリーが目に入った。


「起きたか」


そこへケファノスがやって来て、クダイの起床を待ち侘びてたような声のトーンを見せた。


「そうだ………僕達教会に……」


教会に逃げて来たのは、教会という領域は特別らしくここまでは追って来ないらしい。

おまけに教会とは言ったが、廃れた感が拭えないほど建物が古い。

こんなところに誰かいるんだろうか。そんな疑問はすぐに消えた。


「あらぁ〜、まだ寝でればいいのにぃ〜」


若いシスターが、バイブルを小脇に抱えて立っていた。


「い、いえ………」


ベッドの上ならまだしも、教会の長椅子の上ではそうそう安眠は出来ない。


「今、食事の用意すっからちっとばかり待っててけろ」


「……………。」


見事ななまりっぷりに返す言葉もない。


「んん………」


「ふわあ〜ぃ」


なまりが目覚ましになり、シトリーとシメリーも目を覚ました。


「おはようさん。よく眠れたかし?」


全く愛想よいシスターは、教会の奥へと消えて行った。おそらく、奥が母家となってるのだろう。


「………………誰だっけ?」


教会に来たのは覚えている。しかし、シスターを見た記憶がクダイにはなかった。


「わかんない。シメリーは?」


シトリーがシメリーへバトンタッチする。


「二人が知らないのに私がわかるわけないよぉ」


三人の記憶媒介は決して不良品なんかではなく、一週間前の朝飯を言えるくらい高性能だ。だから疲れていたとしても、全員が忘れるなんてことは天文学的にありえない。

起きたばかりのシトリーとシメリーも、やはり廃れた教会を見回す。

これだけの城下町でありながら、この廃れた建物が教会としての機能を担ってるとは思えない。


「夕べ我々は、ここが廃墟であろうと判断して飛び込んだのだ。直後、貴様達は眠り込んで今に至る」


なんともわかりやすい説明をケファノスがしてくれると、頭の回転も冴えて来たのか、「ああ」と納得出来た。


「どうやらここは彼女一人で暮らしてるらしい」


「話したのぉ?」


シメリーがもう一回欠伸をして見せた。


「まさか無視するわけにもいくまい」


そうは言うが、シスターがケファノスを見た時の反応が気になった。


「みなさん、朝食がでぎますた。こつらへどうぞです。あっ、小さい“テンス”さんもどうぞ」


テンス………天使と言いたいのだろうか、聞き慣れない“なまり”に違和感があるが、空腹には勝てない。


「ご馳走になろうか」


クダイが言うと、双子のエルフは頷いた。










「ほうでなすったかあ。それは大変なこって」


無実の罪で追われ、仲間が囚われたことを説明してのシスターの反応だった。


「シスターはお一人でこの教会を?」


残ったメンツでこんな上品な言葉を発せるのはシトリーだけ。

ダンタリオンの代わりを務めてもらえるのはケファノスもありがたかった。


「はい〜。わだすは神に仕えてまだ日が浅いですが〜、日々精進しとります〜」


「神父や他のシスターはどうしたんですかぁ?」


「ここは元々廃屋だったんです〜。だがら、始めっからわだす一人なんですよ」


シメリーにスープをよそってやった。

具はあまり入ってないが、味はなかなかのもの。悪くはなかった。


「元々廃屋って………両親とかは?」


クダイが流れ的には当たり前のことを聞くと、シスターは顔色を変えた。


「両親は………一年前に死にますた」


そしてシスター以上にクダイ達が顔色を変える。


「ご、ごめん!変なこと聞いちゃったね………」


不用意な言葉にクダイは謝った。


「ううん。ええんです。わだすはこの町より離れた村さいだんです。んだども、一年前に村の近くで魔族との戦いがあっで、そんときさ魔族が攻めて来て………村さ壊滅しちまって………」


一人生き残ったシスターはザンボルの城下町へと着き、流れ流れて廃教会へ………そう語った。


「食べ物もなく、ただただ死ぬことだけを待っていだ………そだわだすの前にある日、“テンス”様が現れて………『生きることを諦める前に、明日を掴む努力をするんだ』………そうおっしゃった………わだすはその時決心すたんです!神の使いになろうと!」


悲しげな表情が一変、強い意志を見せる。

“テンス”はこれで二人いることになる。シスターに生きる力を与えた者と、目の前にいる小さい“テンス”。

ケファノスの名前は出さない方がいい。その名を聞けば魔王であるとわかってしまう。もしわかってしまったらシスターは………


「だども、魔王ケファノスだけは許すわげにはいがね!わだすの村を襲わせたアイツだげは!んだがら神の庇護を受け、いづが仇は討たねばならねだ!」


クダイ達は顔を見合わすと、その話には触れないでおこうと暗黙の約束をした。

それと、クダイには気になることがまだある。


「そういえばシスター、シスターはシトリーとシメリーを見て驚かないの?」


「なして?」


「だって、二人は………」


二人の耳を見ればエルフであることは明白。

エルフであることがバレれば………ケファノスの言葉を思い出す。エルフであることの不都合があるのだ。


「わだすはエルフだがらど言って差別はすない」


それはそうなのだろうが、クダイ達にはそれでは説明にはならないのだ。

だからケファノスが口を開いた。


「シトリー、シメリー、エルフの国を出たお前達はよく聞いておかねばならん話だ。相当昔……人間がまだ原始の頃の」


そんな昔に戻るのかと、クダイはツッコミたい気持ちを抑えた。


「世界には人間、エルフ、魔族の三種族がいて、本能がままの人間は秩序が無く、度々鬼畜紛いの行為に及んでいた。魔族としては特に気にはならなかったが、秩序を重んじるエルフはそうはいかなかった。そこでエルフは、人間に知恵を与えた。火の起こし方からリーダーを作り統率させる知恵。次に知識。持てる全ての知識までも与えた甲斐あってか、人間は種族として誇り高いものになったのだ。だが………」


四人がじっとケファノスを見つめる。


「人間は欲が深い生き物。幾千の時が過ぎ、知恵と知識から独自の文化を生んで地上を我が物にする為、エルフと魔族に戦いを挑んで来た。その際、人間はエルフを大量に虐殺したのだ。人間は忘れた歴史だろうが、エルフはまだそれを引きずっている。そして、今から三十年前、人間同士の戦争で地上が再び血と炎で染められたことにエルフは怒り、魔族と手を組んで一度だけ人間を滅ぼしかけたことがある。それ以来、エルフは厄災の種族として人間………特に王族と呼ばれる者達から嫌われてるのだ」


話を聞き終え、シトリーとシメリーはアイニがなぜあんなに国を出ることを反対したのか、ようやく理解した。


「見つかったら………どうなっちゃうの?」


シトリーは怖かった。あの時ケファノスが逃がしてくれなかったら………


「不法侵入とか理由づけられ、エルフに対して無理な取引を持ち掛けるだろう。幻影燈のような魔法具を造る技術などは魅力的だ、機会さえあれば強引にでも奪いに出るに違いない」


実際にはそれだけでは済まないだろう。市中引き回しの果て、公開処刑もありうる。そこまで言わないのは、一応ケファノスなりに気遣ったのだ。


「で、これからどうする?ダンタリオン達を助けに行くんだろ?」


クダイはケファノスに言うと、


「行くには行くが、侵入出来るような回りくどいやり方はお前には無理だろう」


「ならどうやって………」


「正面突破………それ以外に方法は無い。深夜に決行する。覚悟が必要だぞ」


「そりゃまた命懸けだなあ」


クダイはジャスティスソードを鞘から抜いた。

シュードモナスとの戦いでは反応してくれなかった。シャクスとの稽古もまだ数回。どんなことがあっても、今夜だけはジャスティスソードに頼らなければならない。


「まさが………実力行使け?」


シスターがクダイに言った。


「仲間の命が賭かってるんだ」


「そったらごどなんね!無実ならばちゃんっと話せばわがってくれるだ!」


「だけど………」


バンッ!とシスターはテーブルを両手で叩くと、


「わだすが談判してくるだ!」


「え?」


「罪を犯してね人間を裁くなんて、神がお許しになんねだよ!だがらわだすが話してくる!」


なんの正義かは知らないが、止められそうにもなかった。


「こうしてはいらんね!神が与えてくれた試練にちげね!」


シスターは思い立ったように外へ出て行った。


…………………………………………………………………………………………………。


一同は無言を共有するしかないようで、


「ほんと、どうすんの………?」


お手上げ宣言のクダイに、


「…………余に聞くな」


御遣いである“シスター”を言い聞かせる言葉など、魔王の引き出しには無かった。


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