第三十三章 遮断
「参りましたねぇ」
ダンタリオンは頭を悩ませていた。
ザンボル国に入り、いつも通り宿を探していたのだがどこも満室状態。知恵のある賢者様も、さすがにお手上げ。
「これだけ宿がありながらどこも満室とはな」
建ち並ぶ宿を眺め、シャクスは世界一の国を改めて感心した。
「お祭りならしかたないさ」
運がいいのか悪いのか、カイムの心境は………どちらかと言えば祭りに軍配が上がったようだ。
「でもザンボル(ここ)って魔族との戦争の拠点じゃなかったかい?戦争はまだ真っ最中どころか、これからもっと厳しくなるだろうに……なんでまた祭りなんか……」
オルマも祭りごとは嫌いではないが、戦争中に祭りとは………国の考えることはよくよく理解し難い。
「とにかく寝床は確保しないと………」
と、ダンタリオンは言いかけて顔色を変えた。
「どうしたの?」
クダイが異変とも取れる態度を聞くと、
「エルガム司法騎士隊隊長ダンタリオン、同じくエルガム聖騎士隊隊長シャクスだな?」
あっという間にトンガリフードを被った者達に囲まれた。
「誰だっけ?警備に隙があるだなんて言った奴」
「う〜ん……返す言葉もありません」
オルマの皮肉も、今回ばかりは正当なるポジションを得られたようだ。
着ているローブの紋章がエルガムのものではない。シャクスが以前纏っていた鎧のもの、エルガムで見た国旗のものとは違うことは、クダイの記憶にもしかとある。
彼らはザンボルの“公務員”。予想した通り、エルガムの使いが先回りでもしてるのだろう。
「お前達に手配書が出ている。とりあえず着いて来てもらおうか」
当然逃げる。そう思ってクダイがジャスティスソードに手をかけると、
「クダイ、シトリー、シメリー、目を閉じろ」
ケファノスが言った。
三人はその意味もわからないまま、言われるがままにする。
その瞬間、ざわめきが起き瞼を介して光が射し込む。
「今だ!逃げるぞ!」
ケファノスの号令にクダイと双子のエルフは反応して走り出す。
周りの者は目頭を抑え屈み込んでいる。ケファノスが何をしたかは明らかだった。だが、
「待ってよケファノス!ダンタリオン達が………」
ダンタリオン達までもが目をやられていた。
「奴らなら上手くやるだろう。今はお前達だけでも逃げるんだ」
「そんなこと言ったって……」
まさかダンタリオン達を捨て駒にするとは思わなかった。
「二人がエルフだと知られれば事態はもっと最悪になるぞ」
なんだかよくわからないが、言われた通りにするのが一番なのだろう。
シトリーとシメリーも同じ気持ちらしいが、何せ箱入り娘。エルフである不都合は知らないらしい。
「くそっ!」
クダイはシトリーとシメリーの腕を取ると、半ば強引にケファノスの後に続いた。
(必ず助けに戻るからな!)
どうか無事でいてくれと、今はそれだけが精一杯だった。
かつては罪人を牢にぶち込む役目を担っていた自分が、こんな形で牢にぶち込まれるとは思いもしなかった………のはシャクスだ。
通気性のいい牢だからまだマシだが、じめじめしていたら発狂していたかもしれない。
「ケファノスめ!やってくれたな!」
どうにも気が収まらず壁を叩いた。
魔法を警戒されてか、魔法が使えないように細工された牢の壁は氷のように冷たい。
「でも最善の策だったんじゃないか?シトリーやシメリーがエルフだとバレてしまうのは厄介だろ」
カイムがケファノスを庇うのは、どこか惹かれるものがあるからなのか。
「これからどうするんだい?アンタの力を警戒されて魔法が使えないようにされてるし、武器は取り上げられてるし」
オルマの頼る先もダンタリオンになってしまう。
この状況では何も出て来ないだろうが。
「待つしかないでしょうね。ケファノスもそのつもりでクダイ達だけを逃がしたんでしょうから」
「助けに来るってのか?」
逃れたメンバーを考えると、シャクスはあまり期待は望めないと思った。
「あの場はああするしかなかった。あなたならわかるはずです……シャクス。それに、クダイはあなたの愛弟子。信じて待ちましょう」
「フン、何が愛弟子か」
照れ臭いのか、それ以上シャクスは口を開かなかった。
「はぁ………あたし達どうなるんだろ」
信じてはいるが、不安の方が勝ってしまう。
せめて女の自分は別の牢に入れてほしい。オルマはそんな気持ちも溜め息に乗せて寝転んだ。
「まだ追って来やがる」
路地裏に隠れ、やり過ごすこと五回目。行く場所もないクダイ達は、ひたすら逃げるしかなかった。
「ケファノス、どうするんですか?」
シトリーが恐る恐る聞いてみた。
魔王の肩書きは健在らしい。少女にはの話だが。
「ケファノス〜?」
そしてシメリーも急かした。一晩中逃げるのは不可能だろう。かと言って一度町から離れれば、また戻って来るのは難しいだろう。
「ケファノス!」
クダイからも判断を迫られ、
「…………しかたない。あまり行きたくはないのだが、あそこしかあるまい」
そう言うと、一人移動を始める。
となれば、着いて行くしかない。
「シトリー、シメリー、行こう」
ダンタリオン達がいなくては、基本どうしたらいいのかわからない。
ただ、面倒なことになっていることだけは確かだった。