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第三十章 陰と陽 〜後編〜

「お母様!カイム様が旅に出るって本当なんですか!?」


どこから聞き付けたのやら。シメリーにはカイムが旅立ってから話すつもりでいたのだが。


「落ち着きなさいシメリー!」


「どうして!?どうしてカイム様が………」


母親として娘を思えばこそ。王族でさえなかったなら、カイムとの恋を取り上げることなどなかったのかもしれない。しかし、シメリーは王族。ハーフエルフのカイムとの恋は、民の反感を買い支持率の低下を招き兼ねない。

ただでさえ、シュードモナスに手を焼き、揚句の果ては人間に救ってもらってしまった。

威信を保つ為にも、“ケジメ”が必要なのだ。

母親である前に女王。アイニの気持ちはシメリーには理解出来なかった。


「これはカイムが決めたことなのです」


「嘘よ!どうせお母様がここぞとばかりに追い出そうとしてるのよ!」


「口を慎みなさい!」


「私、カイム様に着いて行きます」


「シメリー!」


「エルフであることの誇りはあります。わかります。でも、エルフでない種への偏見やハーフエルフというだけでの差別にはもう耐えられません!」


若さ故に障害が高ければ高いほど情熱が燃える。母親であるアイニにでさえかつては通りすがった道。

情熱の名の下に疑いも無く自分を信じられた。目に見えないものへの憧れがそうさせてしまうのだ。

ただ………どんな力を持ってしても砕くことは不可能。時間と共に灯が消えるのを待つか、信じたものに裏切られるか………だが同じ女としては、いつまでも燃えていてほしいとも思わないでもない。


「あなたは王族。もっと自覚を持ちな………」


「後を継ぐのはシトリーでいいじゃない!私は妹だもの!関係無いわ!」


無意識だった。シメリーが言った瞬間、その頬をぶってしまった。


「シメリー………わかってちょうだい」


当然の行動だとみんな擁護してくれただろう。それでもシメリーには納得のいく行為とは受け止められなかった。


「わからない………ハーフエルフの何がいけないの……?私………城を出るから!」


「シメリー!!」


去ろうとする娘を止める母親の力はもうどこにも見えない。

 そして、もう一人。


「アイニ様………」


「シトリー………今の話……」


シトリーはシメリーの顔を見て決心する。


「私も………私もクダイ達と行きたい!」


「な………何を………!!」


「クダイ達と一緒に世界を救いたいの!」


「お前まで馬鹿なことを言うのかい!?」


「この世界に住むのは人間だけじゃない!私達エルフも住んでるんだもの、力を貸すのは当然だと思うの!」


「ゆ、赦しません!そんなことをあなた達がしなくてもいいのよ!」


「よくないわ!私達は誇り高きエルフの女王アイニ様の娘。外の世界を知らずしてどうして王族と言えましょう?」


自由と恋を手に入れるにしては取って付けた理由ではあるものの、その説得力は太刀打ち出来ないくらいものであった。

 二人の娘が同時に反乱を起こしたオトシマエは、どんな形を取れば自分自身を納得させられるのか、模索するだけ無駄だろう。

 シトリーとシメリーの悪無き探求心………いや、恋心がクリクリとした瞳に表れているからだ。

 快晴。危険な旅に行かせるには、せめて天気が笑顔の時の方がいい。

 寿命縮まる深い溜め息は、誰に従うでもなく宙を舞った。










稽古をいきなりやめさせ、荷造り………と言ってもたいした荷物ではないが……を急かし、そして珍しく憤慨するオルマは、今のクダイ達には強敵外ならない。

とにかく言う通りにするしかない。


「何もさもさしてんのよ!」


「い、いや……ちょっとトイレ………」


生理現象にまでケチをつけられ、クダイは助けを賢者様と聖騎士様に求めてはみたが、あっさりと無視されてしまった。

天気は青々として文句はない。こんな日に何を怒っているかなど、聞く勇気のある奴はいない。


「トイレなんか我慢しなさい!」


「だ、だって………」


目的はトイレだけではない。公衆を気にかけるような世界でもないし、外に出れば自然が両手を広げて待ってるような世界。我慢して後でやることも可能だ。

ただシトリーに別れの挨拶くらいはしたかった。

初恋への挨拶まで止める権利はオルマにだってない……………はず。


「だって何よ?」


「…………シトリーに最後に会っておきたくて………次、いつ会えるかわかんないじゃないか」


どうかわかって下さい。そんな念を送ってはみるが、


「ダメよ」


「オ、オルマぁ〜」


「あたしの言うことが聞けないのかい!?」


「…………うぅ」


気の毒だとは思うが、こうなると誰も手をつけられない。


「わかったよぉ………」


「わかったならいいのよ」


一目でいい。会いたかった。


「ところで………」


話を変える魔法。男共三人はびくっとしたが、


「ケファノスは?」


ほっと胸を撫で下ろした。










「余にまだ何か用か?」


呼び出したのは再びアイニ。

カイムのことなら連れて行く行かないはクダイ達次第。特段、その件で話すことはない。


「もう行くそうだな」


「さっきの一件があるからな、オルマが聞かないのだ」


「……………。」


「さっきの話なら余は何も言えん。エルフの事情もわかる。だが、カイムの自虐的な言葉には応えられん。余の目的は肉体を取り戻すこと。それだけだ。頼み事をするならクダイ達にすることだ」


旅の中心は自身には無い。


「それでも聞いてほしい」


疲れた様子で、アイニは語り出した。


「シトリーとシメリーがお前達に着いて行くそうだ」


結構な話だが、それは前座に過ぎないのはわかっている。聞き手なんて柄ではないとは思うのだが、聞いてやらんでもない。


「言ったはずだ、余に頼み事をしても成立はせん。着いて来ないように仕向ける気も無い」


「承知している。わらわも本人達の意志を尊重しようと思う………そうするしかないのだ」


親の立場とは複雑なもののようで、何があったかは知らないがその苦労と疲労だけは伝わって来た。


「シトリーとシメリーは、わらわの実の子ではない」


「……………。」


「二人はわらわの姉の子。わらわの本当の子は………」


「………………カイムか」


「人間との過ちを犯したのはわらわ。一夜の過ちが、長い年月を過ぎてもわらわを苦しめる」


「なぜ二人を自分の子だと偽るのだ」


「女王の子がハーフエルフであるなど、決して赦されることではない。それゆえに隠して来たのだ」


そんなことだろうとは思った。カイムへの理不尽な厳しさはやはり理不尽であったのだ。


「カイムは知らぬのか」


「言わぬがカイムの為。過酷な運命を背負わせてはしまったが、全て親心。無論、シトリーとシメリーも我が子同然。愛しておる」


「それで、余に真実を打ち明かした真意はなんだ?」


「どうか………」


言葉を詰まらせ声が小刻みに震えてる。

外を向いて窓に手を当て、


「どうかシトリーとシメリーを…………そしてカイムのことを………」


振り向いたアイニは泣いていた。ヒステリックだとばかり思っていたアイニが。


「よろしく頼みます」


言葉を女王から母親に変え頭を下げた。


「余が責任を持つと思うのか?」


「他に頼める者がいないのです。カイムに死に場所ではなく、生きる場所を与えてあげてほしいのです」


断ることも出来た。そうすべきなのかもしれない。


「それと、シトリーとシメリーは治癒魔法と多少の四元素魔法は使えるでしょう………」


「……………この身体だ、サポート出来る範囲でなら」


自分がわからなかった。面倒を押し付けられ、それが嫌ではないことに。










城門のところでケファノスを待っていると、マントを羽織り杖を持ったシトリーとシメリーが駆けて来た。


「待ってぇ〜!」


元気な声を上げるのはシメリー。

少しテンポを遅らせ、


「クダ〜イ!!」


「シトリー!!」


恋に時間はいらない象徴のような二人。深夜の浅いやり取りを知ってるだけに、オルマ達は苦笑いするしかなかった。

なんだか長い別れを強いられてたように懐かしむ二人。青臭いとはこのこと。


「その格好は?」


どう見ても出掛ける服装。旅支度。


「私達もクダイ達と行く」


「いっ!?」


「お願い、連れて行って!」


「で、でも………」


クダイは三人の反応を見る。

ダンタリオンもシャクスも困った顔をしていると、


「あたし達は遊びに行くんじゃないんだよ。子供は帰りな」


オルマが冷たく言った。


「わかってます。だからなんです。魔法も使えますし、きっとお役に立てるかと………」


「甘ったれないで。なんかあっても守ってやれるとは限んないのよ。迷惑だわ」


「そんな………」


シトリーもこんな言われ方をするとは思わなかっただろう、今にも泣き出しそうな顔をしている。

クダイも何も言えなかった。一緒には行きたい。でも守ってやれる自信もない。かと言って、オルマのように来るなと冷たくする優しさもない。


「彼女達なら俺が守る」


「カイム………」


オルマの顔が曇った。不機嫌の原因がカイムなのだとわかったはいいが、あの不機嫌さは勘弁してもらいたい。


「さっきの言葉は君達に対する侮辱も同然。詫びて済まそうとは思わないが、どうか仲間に入れてほしい」


「しつこいわね」


「ああ。どうしても手に入れたいものがあってね」


シメリーも初耳のようだ。いつもカイムの傍にいながら、欲しいものがあったなど知らなかった。


「明日を掴む力。自分の明日を掴みたいんだ。君達と行けば見つけられる気がする」


「ア……アンタねぇ、あたし達はサン・ジェルマンを倒す為に………」


「だからだよ、オルマ。生きる意味なんて考えもしなかった俺だ、世界の為なんて偉そうなことは言わない。でも、明日を生きてみたいんだ。当たり前に来る明日に意味が欲しいんだよ」


「甘いわ。甘すぎよ、アンタらエルフは」


なんと言われようと食い下がる。きっと。

オルマとて世界の為なんて思ってない。町を焼いたサン・ジェルマン達に復讐したいだけ。

その結果が世界を救うだけの話。

だから大義名分なんて要らない。感情が思うがまま。その行き先がどこであれだ。


「自分の身は自分で守ること。それが最低条件よ」


ツンとした態度だったが、カイムの言葉にむしろオルマが何か感じたのかもしれない。


「カイム、シトリー、シメリー、貴様らは感謝するのだな」


「ケファノス!」


いつも通りスーッと“歩み”来て、高性能なブレーキみたいにピタリとカイムの前で止まる。


「余は愛などというものは知らないが、少なくとも貴様らが深い懐の中で護られていたのだということくらいはわかる。エルフの国を離れる以上深き懐の守護はない。責任の全ては己にあることを肝に命じておけ」


ケファノスまで賛成するのでは、クダイ達に拒否する権利は無くなってしまった。

仲間が増えることは心強い。問題はそれに伴う様々な………考えても始まりそうにもない。


「話がまとまったのなら………」


ダンタリオンが三人を見つめ、


「ようこそ、エルガム司法騎士隊へ」


「ちょ、ちょっと待て!いつから司法騎士隊になったんだ!」


噛み付くのはクダイだけだとおもったが、譲れない“モノ”があったのだろう、噛み付いたのはシャクスだった。


「おや?何かご不満ですか?」


「当たり前だ!!お前の部下になんてなれるか!!」


「口の悪い家来ですねぇ」


「だ〜か〜ら〜……」


「クダイ、あなたの剣の師匠でしょう?なんとか黙らせて下さい」


爽やかに爽やかを重ねたくらい爽やかな笑顔だ。


「な、なんで僕が!!だいたい、僕だってダンタリオンの部下は御免だね!」


「困りましたねぇ、恋をしたせいか生意気になってしまって」


ニコリとしてシトリーを見る。

鈍感なのか圧倒されてるのか、キョトンとしてるだけだが。


「あわわわわわ!へ、変なこと、い、いい言うなよ!!」


「では行きましょうか、目的地までは長いですよ」


ビシッと指を差し、目指すは遥か輪廻の名のつく塔。


「待て!ダンタリオン!俺はお前の部下になんてなった覚えはないからな!」


「ぼぼぼ僕は、こここ恋なんかしてないぞ!かかかか勘違いしてもらっちゃこままま困る!!」


子供。以上でも以下でもない。


「なんなのよ…………一体」


オルマは頭を痛めたが、カイム達は笑っていた。

いつ命が危険に晒されるかわからない旅。

新しい仲間が増えた時くらい、こんな日があってもいい。


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