第二十八章 聖騎士と賢者
「この気配………来たな」
結界の外から押し寄せる魔族の気配。待ってましたと言わんばかりにシャクスは剣を取った。
「休む間もないんだねぇ……あたし達」
「早い方がいい。バランスブレーカーをこちらが手にすれば、サン・ジェルマンの狙いは我々だけになる」
オルマにケファノスは言い、
「あなたが世界のことを考えてくれるとは。頼もしく思いますよ」
「余は早く自分の肉体を取り戻したいだけだ」
照れ隠しか本音かは別として、ダンタリオンの謝意を濁した。
でもそれがいい緊張をもたらす。
バタバタと城内の騒ぎが壁から浸透して来る。それを合図に一堂は頷き確かめ合ったその時、
「た、大変だ!!」
カイムが飛び込んで来た。
「案ずるな。わかっている」
今度はカイムを宥めようとしたが、
「そうじゃないんだ!クダイが………クダイが!」
「クダイがどうかしましたか?」
ただ事ではない。こういう時、ダンタリオンは至って冷静だ。事象がでかければでかいほど。そのはずだった………カイムからその言葉を聞くまでは。
「四天王と………風のシュードモナスと………!!」
現実は甘くなかった。シャクスが言った通り特訓の必要は重々だ。しかし今それに気付いても糧にはならない。
「あっははは!口ほどにもない!これがジャスティスソードの使い手だなんて!」
「なんでジャスティスソードが重いんだ……?いつもなら戦いが始まれば軽くなるのに」
力が自在にならないことに苛立つ。
「警戒するまでもなかったねぇ。お前ら!さっさとエルフ族からバランスブレーカーを奪っておいで!!」
シュードモナスに従い、魔族達はクダイを過ぎて城へ攻める。
「あっ………ま、待て!」
進行を止めようとするが、ジャスティスソードを握る右腕をシュードモナスによって風のロープで防がれる。
「ダ〜メ〜よ〜。あんたはあたいに喧嘩を売ったんだから、きっちり遊んでちょうだい」
「シュードモナス……!!」
「あらまぁ、そんな怖い顔しちゃや〜よ」
「この……オカマ野郎ッ!!!」
ロープを腕力で引きちぎる。
「感心ねぇ、華奢なわりに強腕だこと」
「こっちにはケファノスがいるんだぞ!お前達の王様だろ!いいのか逆らって!」
「あっははは。今更。聞けばケファノス様は肉体を失い、魔力も大分を失ったとか。ならば恐れるに足りないわ!」
アスペルギルス同様、ケファノスの威厳は通用しない。
(なんで………なんで応えてくれないんだ………ジャスティスソード!)
力の解放がなければただの豪華なオブジェ。
「!!」
ぼうっとしていると、風が纏わり付きクダイの身体を刻んでいく。
「あうっ……!」
「ほらほらほらほらっ!!!苦悶苦悶苦悶苦悶苦悶ッッ!!踊りなさいよ!!我が風の操糸で!!」
「うあっ……!!」
まるでシュードモナスの操り人形。鎌鼬がクダイを傷つけ、惰性で滑稽に踊る。
もうダメかと諦めかけていると、クダイの周りを白濁のシールドが覆い身を守る。
「何者!?」
立っていたのはオルマ。
「大丈夫?まだ一人での戦闘は無理よ。まして相手は魔族の四天王なんだから」
「放っておけオルマ。自らが招いた結果だ」
そしてシャクス。ケファノスとダンタリオンがいないのは、シュードモナスの手下を相手にしてるのだろう。
「ふふん、お仲間の登場ってわけね」
「風のシュードモナス………相手に不足はない」
アスペルギルスには逃げられたが、シュードモナスは逃がすわけにはいかないし、彼自身逃げるつもりもないだろう。互いが欲するものはバランスブレーカーただひとつ。
「オルマ、クダイと一緒に下がってろ」
「ま……待って……そいつは僕の………」
裂かれそうな痛みの身体が恨めしい。
クダイはオルマに連れられシャクスとシュードモナスから離れた。
「よく見ると色男じゃない」
「俺の名は聖騎士シャクス。直々に手にかけてやるんだ、光栄に思え」
「フン、生意気な。だいたいなんで人間がエルフ族の肩を持つのよ!!」
「カマ野郎を根絶するのが俺のライフワークでな。そのガラガラ声を聞いてるだけで鳥肌が立つぜ」
「キーーーッ!!!!なんて言い草!!許せないわっ!!」
「フフ、そいつはどう………もッ!!」
先手必勝。大剣を一振りしてシュードモナスを吹き飛ばす。
「お〜のれッ!聖騎士シャクス!!この風のシュードモナス様に風で攻撃してくるとは!!片腹痛いわよ!!」
「いいからかかって来い。お喋りは苦手なんでな」
人差し指をくいっくいっと曲げ挑発する。
「クダイ、よく見ておきな。世界屈指の騎士の剣の使い方を」
オルマが見せたいのはシャクスの聖騎士としての実力。
「さすがにこの数は苦戦しますね」
それでもダンタリオンは余裕だった。
エルフ族の主要武器は弓と槍。その腕は他の追随を許さない。同時にそれが欠点でもある。
近距離の戦闘が苦手なのだ。その為、強力な結界を張ったり特殊なアイテムを造ったりと欠点を補うのだが、一度かい潜られてしまえば脆いもの。内側の防御が甘いのだ。
唯一、ハーフエルフのカイムとダンタリオンが剣を使える為、城内への侵入が防がれているが、そうでなければとっくに陥落していただろう。
「ダンタリオン、もったいぶらずに魔法で片付けてしまえ。この程度の数、ものの数ではあるまい」
ケファノスは数百はいる魔族の群れを見、
「そうか!賢者であるあなたなら!」
カイムは賛同した。
「ですが、ここは結界も張られていませんので、城への影響を考えるとあまりお勧めは出来ません」
「…………。」
「…………フッ。なるほど、そうですか」
沈黙するケファノスの心は………
「まあなんとか被害を最小限に抑えてみましょう。そのくらい出来なくて賢者と名乗るのはおこがましいですからね」
助走をつけ高く宙返りして群れの中に飛び込む。
「なんて跳躍だ………エルフならまだしも、人間なのに……」
カイムはダンタリオンの身体能力に見惚れてしまった。
一介の人間が成せる技ではない。まして魔力に頼った技でも…だ。
「賢者の名を欲しいままにする男。その力、見ておくのだな。瞬きする間もなく終わるぞ」
魔王さえ認めるダンタリオンの賢者としての力………
「久しぶりの魔法。四元素魔法では面白みに欠けます。いっそ光の魔法でも披露しましょうか」
城壁の上にいるエルフにチラリと視線を送り、
「本来、光の魔法は三下相手に使うものではないんです。光栄に思うことです」
剣を地面に突き立てると、ダンタリオンを中心として光の波紋が流れ、魔法陣を描く。
ダンタリオンはニヤリと笑み、
「世界を司る尊厳の光よ!最果てへと誘え!ファージストピラーッ!!」
魔法陣がより輝きを増して魔族の群れを消し去った。
一瞬で。
溢れ出た光はダンタリオンの周りをゆらゆらと蝋燭の炎に揺らいでいる。
「くっ……眩しい………」
直視出来ない光。間近で見るカイムの視界を奪う。
「ファージストピラー………光の魔法としては最上級のもの。魔力を抑えてこの威力………恐ろしい男だ」
だが、それが賢者ダンタリオンの実力。