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第二十七章 風のシュードモナス

「なんで止めたんだ!」


小さな火山が火を噴いた。


「やれやれ」


シャクスは用意された部屋の椅子に勢いよく座り、疲れを露骨に表した。


「僕は何も間違ったことは言ってないぞっ!」


クダイの怒りは収まりそうもない。


「あなたの気持ちはわかります。しかし、カイムにはカイムの立場というものがあります。私達が口を挟むことではありません」


「そうやってもっともらしいこと言ってごまかすんだな!」


ダンタリオンにさえ噛み付く。


「そうではありません。お願いですクダイ、私達はなんとしてもバランスブレーカーを手に入れなければならないのです。ただでさえアイニは気難しい女王です。話がこじれてしまうような言動は慎んで下さい」


ここでバランスブレーカーを手に入れられるかどうかで、サン・ジェルマンとの今後が有利になるかが決まってしまう。つまらない正義感はいらないのだ。


「だけどあれじゃカイムが可哀相じゃないか!」


必死に訴えるも、同意は得られない。


「エルフ達の事情に首を突っ込むな」


「シャクス………」


「やらなければならないことがあるんだ。余計なことを考える暇があるなら剣の腕でも磨け」


シャクスとてクダイの言いたいことはわかる。だからといって、ダンタリオンのように窘める言い方は性格上出来ない。


「オルマ!」


二人がダメならとオルマに同意を求めたが、


「疲れて気が立ってるのよ、一眠りしたら?」


言ったのがまずかった。


「眠くないっ!!」


バタンッ!!


壊れるんじゃないかと思うほどの勢いでドアを閉め出て行った。


「熱い男だ」


「うらやましいですねぇ………若さでしょうか」


シャクスとダンタリオンが冷やかしたが、


「でも最高の仲間じゃない。他人の為にあんなにムキになってくれるんだから。あたしは嫌いじゃないよ、ああいう奴」


オルマは頼もしく感じていた。

若かりし頃の情熱などもう忘れてしまっている。ただ決別した過去の自分達。鏡面に映した出されるほどに鮮やかに見えていた。










「なんだなんだ!みんなして冷たい態度とりやがって!」


どうにも収まらない気持ちのまま、クダイは中庭へとやって来た。


「だいたい、僕のことを子供だと思ってるのが許せない!」


大きな噴水に向かって目一杯叫んだ。


「くすくす」


ふと、笑い声が聞こえて辺りを見回すと、


「君は確か………」


カイムに話かけてたエルフの少女がいた。

クダイが近寄ろうとすると、少女はささっと避ける。


「な、何もしないよ」


怯えさせてはと笑顔を作るが、よっぽど可笑しかったのかまた笑われた。


「くすくす」


非常に上品に笑う。


「あは……ははは……」


笑ってごまかすしかないようだ。なにせ同年代の女性と一対一で話すことに免疫が無いのだから方法がない。


「さっきはありがとう」


「え?」


「カイム様のこと庇ってくれて」


「あ、ああ……そんなお礼を言われるようなことは……ただ頭に来ちゃってさ」


「でもアイニ様のこと悪く思わないで」


「別に悪くは思ってないけど、言い方がキツすぎだろ」


「それはカイム様を思ってのことなの」


「あの暴言が?」


少女は小さく頷いて、


「カイム様の母君は、アイニ様の妹君。だからハーフエルフであってもエルフの国にいられるの。アイニ様は自分がカイム様に辛く当たることで、周囲の者達から少しでも同情を得られるようにしてるの」


「なんでまたそんな面倒なことしてるんだ?自分が優しくしてやればいいのに」


「嫉妬を防ぐ為よ。純粋なエルフでない者は、エルフの国に住まうことを許されない。汚れた者として忌み嫌われてしまうから。けれど、幼い頃に両親を亡くしたカイム様は、ここにいるしかなかったの。いる資格の無い者がいれば、虐められてしまうのは目に見えているでしょ?カイム様を守るには、有り余る同情を買うように仕向けるしかなかったんだって」


「詳しいね。ひょっとして君は………」


「アイニ様は私のお母様よ」


やっぱり。それにしても、自分の母親にすら“様”をつけなければならないなんて。


「そっか。だったら謝らなきゃね」


「どうして?」


「だって僕、女王様に生意気なこと言っちゃったから」


「くすくす。アイニ様にあそこまで言った人は、人間はもちろんエルフの中でも誰もいなかったから面白かった」


「そ、そう?あはは……」


皮肉ではないのだろうが、なんだか素直には喜べない。


「あれ?」


「どうしたの?」


突然、少女が空を仰ぎ怯え出す。


「…………来たんだね?」


エルフ族と戦っている魔族を感じているのだ。


「だ、大丈夫だよ!僕がいるから!」


クダイはぎこちなく鞘からジャスティスソードを抜く。

もっと簡単に抜けると思ったのだが、身長ほどもあるジャスティスソードを抜くのは剣の上級者であっても難しい。

それでも、


「どっち?」


やって来るだろう方角を聞き、少女が指差す方を確認すると、


「城の中に行って!」


クダイは走り出した。










「全くサン・ジェルマンの野郎はいけ好かないわねぇ」


白い不気味な仮面の下からは、1オクターブ高い男の声がした。


「こっちだって一生懸命やってんのよ!時間を操るくらいでエラソーに人に命令するなんて!」


かなりの数の手下を連れているのに、独り言で留まってしまう。


「おや?なあに?あの少年」


黄金の剣を携えて駆けて来る少年。


「はぁ……はぁ……ま、魔族だな?」


弱そうな“成り”をして立ちはだかる。


「誰よあんた?」


エルフでないことだけは確かだ。耳を見ればすぐにわかる。


「僕はクダイ!ジャスティスソードの使い手だ!」


「ジャスティスソード………お前が?ハン!笑わせないでちょうだい。子供にかまけてる暇はないのよ、どきなさい!」


「また子供扱いか。いい加減本気で怒るぞ!」


「知らないわよ!いいからどいて!」


仮面の男は衝撃波でクダイを弾く。


「くっ………やられてたま……るかっ!!」


倒れそうになる身体を支えながら、ジャスティスソードをでたらめに振るう。


「ちょ………危ないじゃないのよ!」


「うるさいっ!こっから先は僕を倒してから行くんだ!」


根拠のない自信で立ち向かう。


「生意気なボウヤね。いいわ。殺っちゃってあげる」


そして、クダイの周りに鎌鼬現象が起きた。


「うわあっ!!!」


「いい悲鳴だわぁ………ゾクゾクしちゃう」


「くそっ………魔族の分際で生意気だぞ!」


「お黙りっ!あたいは魔族は魔族でもそこいらの魔族とは格が違うのよ!」


ゆっく息を吸い、


「あたいは四天王の一人」


仮面の奥からしかとクダイを睨みつけ、


「風のシュードモナス」


そう名乗った。


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