表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/110

第二十六章 エルフの女王

土の香りが心地よかった。

季節は初夏。クダイの世界とリンクしてる感覚。土を陽が刺激して一層の雰囲気を盛り立てる。戦いへ赴く旅とは思えず、この時ばかりは至福だろう。

焼けた大地から離れ、空模様は赤黒くなく欝陶しいほどの青空。長閑のどかな田舎へ来たような風景が一様に広がり、時折聞こえる小川のせせらぐ音が暑さを和らげていた。


「近いな」


ケファノスが言った。

そんな気配は感じないのだが、魔王が言うのだから間違いはない。最近そう思ってしまう。


「あそこだ。あそこがエルフ国だ」


茂みから覗くと、鉛筆が列んだような城が真っ先に視界に入る。

カイムが指し示す。

印象的なのは城だけで、町並みというものはなく、家屋がまばらに点在するだけ。


「戦争中には見えないけど?」


「幻影燈で隠してるだけさ。まだ余力があると見せ掛けたいんだよ。そうじゃなきゃ総攻撃を喰らっちまう」


カイムはクダイに教えた。クダイは便利なアイテムもあるものだと感心するに留まる。


「でもさ、あたし達が行って大丈夫なわけ?」


オルマが気になっているのは、助っ人とは言えエルフが人間を受け入れるのかどうか。まして魔王までいるのだ。説明の機会すら与えてもらえないのではと懸念している。


「エルフの人間嫌いは筋金入りだからな」


シャクスも手痛い過去があるらしい。


「ここまで連れて来ておいてなんなんだが………」


「言わんでいい。ハーフエルフのお前の地位などもとより承知の上だ。余が話をつける」


魔族が反乱を起こしたのは、少なからず王たる自分の責任。今回ばかりはダンタリオンにスポークスマンを演じさせるわけにはいかない。そう思っているのだ。

ケファノスは一人先を急ぐ。


「あの人形………ホントに魔王ケファノスなのか?」


カイムが口にすると、


「私達の御意見番ですよ」


仲間である。以上でも以下でもないことをダンタリオンが言った。










結界の厚さなど考えたこともないが、範囲は広く一歩中へ踏み込むとそこはまさに戦場だった。

道中が華麗なる夏景色だったのは、カイムが誘導したからで、まだ戦場になってない道だけを歩いていたのだ。

彼なりのささやかな礼なのかもしれない。


「カイム様!」


一行が城に向かい歩いていると、耳の尖んがった少女が駆けて来た。


「ご無事だったのですね」


「ああ。心配かけて済まなかったな、シメリー」


浅い青緑の巻き毛の少女はそう呼ばれた。


「おやおや、これはまたかわいらしい」


賢者様の悪い癖が出る。


「人間………」


プログラム通りの反応をしたシメリーに、


「彼らはこの国を救いに来てくれたんだ。そんな反応は失礼だぞ」


「だって………」


カイムなりにクダイ達に礼を尽くしたい。エルフの反応で気分を害することすら避けたいのだ。


「気にするなカイム。人間は昔、エルフから嫌われるだけのことをしたんだ。当たり前の反応さ」


珍しく話のわかることをシャクスが言った。


「人間の寿命は高々百年足らず。エルフはその十倍は生きる。あたし達には直接関係の無い歴史でも、エルフ達にはまだ引きずる歴史なんだ」


オルマはクダイに教えた。それを理解していないと、エルフと交渉は出来ない。


「なんだか気を使わせて申し訳ないな」


シャクス、オルマ、ケファノスとダンタリオンの気持ちが嬉しく思え、自分の目に狂いはなかったと自信が持てた。


「意外と律儀なんだね」


クダイのカイムに対する見る目も変わっていた。

貧相な傭兵なんかじゃなかった。祖国を想い礼儀を重んじる姿は、古き日本人の心を思い起こさせる。


「さ、シメリー、奴らがまた攻めて来る前に女王陛下に会わなければならない。君との会話は後だ」


その言い草に不満な顔を見せたが、


「行こう」


カイムは女王へ会う緊張からフォローはしなかった。










鉛筆が並んだような城へ案内され、クダイ達は謁見の間にいた。


「誰を連れて来たかと思えば………人間だと?我々エルフが人間嫌いだと知っているのではないか、カイムよ?それとも、ハーフエルフのお前には関係の無い話だと?」


女王は見下ろしながら、ひざまずくカイムに暴言を吐いた。


「いえ。そんなことはありません。確かに彼らは人間ではありますが、そこいらの人間とは違い………」


「黙れ!」


「はっ………」


「ハーフエルフのお前に任せたのが間違いだった。所詮は人間の血を引く者よな、人間なんかを安易に信じよる」


「……………。」


一方的な女王の言葉。一行が恐れた通りになってしまっている。


(なんかムカつくな、あの女)


(しょうがないさ。あれがエルフの本音なんだから)


(だからって………)


クダイとオルマがひそひそと話をしていると、ケファノスが前に出た。


「なんだお前は?」


「相も変わらずヒステリーなのだな………アイニよ」


「…………その声………まさかケファノス!!」


女王がその名を叫ぶと、周りがどよめいた。


「カイムの愛国心は本物だ。少しは言葉を選んだらどうだ」


「なぜ魔王がここにいるっ!カイム!!」


矛先は当然連れて来たカイムに行く。


「それは………」


説明に困るカイムを救う気があったかはわからないが、


「アイニよ、少しは落ち着いて話せんのか?」


「ええい黙れ黙れッ!!戦争相手の王を連れて来るとは………なんということだ」


聞く耳持たぬアイニに、


「いい加減にしろアイニ!」


ケファノスが怒鳴った。

どよめきが消え、クダイ達は初めて感情をあらわにしたケファノスに驚いていた。


「ケファノス……家臣の前でわらわに恥をかかせる気か!」


「たわけ。我々はお前達に加勢に来たのだ」


「信じられるか。お前の部下と戦っているのだぞ!信じられるわけがない!」


「今の余は魔族の王ではない」


「な………どういうことだ!?」


「今、魔族はサン・ジェルマンに支配されている」


「時空の騎士サン・ジェルマン………なんの因果があって奴が魔族を支配しているというのだ?」


予想外な人物の名前でアイニの耳が傾いたのを期に、ケファノスは事の成り行きを話し始めた。










「少しは信じたか?」


ケファノスはアイニに聞いた。


「………到底信じ難い話ではあるが………」


ちらっとケファノスを見て、


「まあどのみち今のままでは我々に勝ち目はない。いいだろう、お前達を信じよう」


腹を決めた。百パーセントとはいかないまでも、藁にも縋る思いであることに変わりはない。


「よかった………」


ホッとしたのか、カイムから緊張の表情が消えた。


「ただし、バランスブレーカーの件に関しては保留にしておく」


「女王陛下、それでは彼らとの約束が………」


「下がれカイム。バランスブレーカーはエルフ族の秘宝。そう簡単に渡すわけにはいかん」


それでは約束が違う。正確には約束はしてないのだが、利用するだけ利用するという行為は納得出来ない。

そんなカイムの服を摘んで、ダンタリオンは首を横に振った。

先にケファノスが言った通り、ハーフエルフであるカイムの地位は低い。過ぎた言動は決して彼の為にならない。


「よかろう。戦いが終わるまで考えておけ」


ケファノスが言うとアイニは鼻を鳴らし、


「戦いが終わるまでケファノス達は客人だ。部屋を用意しろ」


命令した。

メイドらしき女性が三人ほど来ると、一行は立ち上がる。


「こちらです」


メイドの一人が言って案内しようとした時、


「ちょっと待ってくれ」


クダイが足を止めた。


「どうしました?」


ダンタリオンが言うと、クダイはアイニの方を向いて、


「カイムに謝ってくれ」


場が一気に凍り付いた。


「ク、クダイ!!」


カイムが慌てたが、


「確かクダイとか言ったな?そちは冗談がつまらんの」


アイニの顔に怒りが見えてしまう。


「冗談なんか言ってない。さっきから聞いてたらハーフエルフだからなんだってんだよ!どうして差別するんだ!一生懸命に国の為に働いたんだ、労いの言葉があったっていいじゃないか!」


「貴様っ………ジャスティスソードが使える程度で何を生意気なっ!!」


「ジャスティスソードは関係無いだろ!僕は………むぐむぐ」


シャクスに口を塞がれた。


「お詫び申し上げます。幾分、まだ若いもので」


代わってダンタリオンが詫びた。


「フン。さっさと下がれ!」


アイニの怒りが飛び火しないうちに謁見の間を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ