表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/110

第二十二章 予感

大陸を渡るまで二日かかった。

ようやく港に降り目にしたものは、


「なんかあったのかな?いっぱい騎士がいるけど」


赤黒い空と大勢の鎧を纏った騎士やら魔導師やら。

少なくとも祭りでないことくらいは、クダイにもわかる。


「クダイ、彼らは騎士ではありません」


「え?違うの?」


「彼らは傭兵です。つまりお金をもらって戦う者達です」


ダンタリオンの言う通り、確かに騎士にしてはガラが悪すぎる。


「何かあったのは決定的だね」


「サン・ジェルマンか」


オルマもケファノスも予想はついた。


「とりあえず宿を取りましょう。でないと………」


言いかけ、ダンタリオンがオルマに倒れ込む。


「ちょ………ダンタリオン!」


「すいません……まだ体調が……」


咄嗟にオルマがダンタリオンの額に手を当てる。


「すごい熱………」


顔色が悪い。船にいた時より悪化している。


「疲労だな。ここまで来るのにいろいろと気を使ったんだろうからな」


「あなたに言われると光栄ですよ」


ケファノスの言葉は、幾分か救いにはなった。役に立っていたのだと。


「掴まれ」


それを見て、シャクスがダンタリオンに肩を貸した。


「シャクス……ありがとうございます」


「……………。」


何も答えなかったが、それが余計に彼らしく嬉しかった。


「じゃあ僕が先に行って宿を探すよ!」


率先してクダイが宿を探しに行く。


「少しは成長したみたいだな」


頼りなかった背中が、ちょっとだけだが男の背中に見えた。

ケファノスは心から感心していた。


「ああ見えて男の子なんだねぇ。シャクスとダンタリオンだって、昔は頼りなかったもんさ。スライムの群れに出会ったくらいであたふたしてたっけ」


「古い話ですよ」


「フン」


ダンタリオンは苦笑いを、シャクスは鼻を鳴らすに留まった。


「お〜い!宿屋“らしき”ものがあったぞ〜!!」


大声で手招きをするクダイに、


「……ま、まだまだだけどね」


オルマが毒づき一同は宿を目指した。










その夜、クダイとケファノス、そしてシャクスはダンタリオンと看病するオルマを宿に残し町へ出ていた。


「どこに行くんだよ。眠いんだけど」


クダイはシャクスが嫌いだ。と言うか、まだ仲間と脳が認識してない。一緒に行動することに違和感があるのだ。

オルマいわく、


「ああ見えて面倒見はいいんだ。慕ってやればそのうち心を開くよ」


らしいがそういう問題ではない気がする。


「聞いてんのかよ。行き先くらい言えよ」


シャクスが歩みを止め、クダイを見た。


「な、なんだよ!」


まさか喧嘩を売られるのではと後ずさってしまったが、よくよく考えればそこはシャクスも大人、そんなわけはない。


「見ろ」


一言そう言い、顎でくいっと方向を指し示した。


「ケファノス、あれって………」


昼間の傭兵達が一様に集まりグループに別れている。


「傭兵がパーティーを組む理由は一つ。モンスターの討伐だろう」


だがそれにしては空気が重苦しい。

傭兵というのは金で動く人種だ。割に合わない仕事は請け負わないだろうし、請け負えば金の為に全力を尽くすのが流儀だ。重苦しい雰囲気など醸し出すわけがないのだ。


「よう、アンタらも行くのかい?」


すると、一人貧相な感じの傭兵が話し掛けて来た。

不精髭を伸ばし、レザー製の色褪せた鎧に刃こぼれのした剣。とても腕が立つようには見えない。


「そうだ」


「シャ、シャクス!」


何をするのか知りたいくらいなのだが、クダイに発言権はないらしく抑えられてしまう。


「ふぅん……子供連れで大丈夫なのかい?敵は相当強いらしいけど」


完全にナメられている。子供と言われガツンと言い返してやりたいが、シャクスが情報を聞き出そうとしていると察して、喉に引っ掛かった“暴言”を飲み込んだ。


「コイツはコイツで役に立つんだ。それより、お前は敵を見たことがあるのか?」


「いんや。魔族らしいけど、なんだか真っ赤な化け物だって噂だ。この大陸の半分を焼き尽くしたってんだから、人間じゃないだろうな。だから賞金も破格なんだ。アンタだって賞金目当てなんだろ?」


「まあそんなとこだ。だがあまり詳細を知らんのだ」


「なんだ、素人か?しょうがねぇな、なら教えてやるよ。そいつは三日前から姿を消してるみたいだけど、逃げ帰ったとは誰も思ってない。だからこっちから狩りをしようって話になったわけだ。賞金は隣のザングル国から出る。四、五人くらいで協力しても、分け前はたっぷりと貰えるからみんなパーティーを組んでるんだ。おっと、俺はパーティーは組まない主義だから勧誘はするなよ」


「………ああ」


シャクスの素っ気ない態度を気にするわけでもなく去って行った。


「なんだあのムカつく野郎!人を子供扱いしやがって!」


「気にするな。無知な奴の戯言だ」


怒るクダイをケファノスが宥める。


「無知ってなんだよ」


「あの男、シャクスを見ても何も気がつかなかった。ただの口だけ男ということだ」


「シャクス?」


クダイはシャクスを眺め、


「あっ、なるほど!」


「シャクスの鎧は聖騎士と一目でわかるものだ。それに気付かないようではたかが知れている。そんな輩の言葉にいちいち反応する必要はない」


ケファノスが言った。


「真っ赤な魔族………ケファノス、心辺りはあるのか?」


魔族の王たるケファノスならと、シャクスが聞いた。


「大陸の半分を焼き尽くす力のある者………おそらくアスペルギルスだろう」


「主を失い暴走でもしてるようだな」


「……………。」


アスペルギルスがどんな奴かはイメージ不可だが、ケファノスの様子を見る限りは暴走するような奴でもないらしい。


「ここまで来たなら確かめてみるか」


「行くってのか?」


「俺はまだお前達を信用したわけではない。これから起こる全てのことは、この目で確認する」


嫌みな奴だとクダイは思った。


「別に着いて来なくてもいい」


シャクスは一人で行く気だったようだが、


「余も行こう」


ケファノスは着いて行く気だ。となれば、


「僕も行く」


こうなるわけだ。


「足手まといにはなるなよ」


捨て台詞を吐いてシャクスはさっさと歩いて行ってしまう。


「いちいちカンに障る奴だ」


文句を言いながらもクダイも着いて行く。


「嫌な予感がする」


部下であるアスペルギルスの反乱。確定ではないが、間違いないと確信している。

この時ばかりは予感が外れてくれることを祈った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ