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第二十一章 暗雲の大陸へ

自分のしてることが本当に正しいかなんて、所詮は事が済んでしまわないとわからない。

いつもそう思うから自分の判断を疑わないようにして来た。

しかし今、その自分の判断に疑いを抱いてしまっている。


「頭冷えた?」


水平線を一人眺めるシャクスにオルマは声をかけた。


「俺はいつも冷静だ」


無意識にオルマの肩に視線がいってしまう。

ダンタリオンを狙ったとは言え、シャクスのナイフはダンタリオンを庇ったオルマの肩に刺さったのだ。後ろめたくはある。


「ダンタリオンはどうした?」


「あら?あんなに目の敵にしてたくせに気になるのかい?」


視界の隅に映るオルマの笑顔が悪戯過ぎて、


「フン、誰が」


生意気に言ってやった。


「でもダンタリオンはアンタを気にかけてたよ。自分は病魔に蝕まれてるのに」


「病魔だと?一体何の病気………」


まんまとオルマに乗せられたと気付く。シャクスの頬が思わず引き攣ったのは、隣の勝ち気でガサツな女が笑ったからだ。


「アハハハ。なんだかんだ言ってやっぱり親友なんだねぇ。冗談だよ、今は疲れて寝てるけど」


「オルマ!」


「そう怒らない。あたしの肩、傷つけたんだからおあいこだろ?」


穏やかな海が陽射しを反射させ、キラキラと眩しくオルマを照らした。


「チッ」


舌打ちをして目を逸らした。

昔を思い出してしまう。ダンタリオンとケンカをすると、この勝ち気でガサツな女は、きめ細やかな神経の使い方を見せる。

こうやって間に入って仲を取り持とうとするのだ。


「こうして大陸を渡るなんて何年ぶりだろうね。アンタ達が宮廷に仕えてからは町から出ることすらなかったからね」


過去、思い出とは言えないような過去がある。それはシャクスにもダンタリオンにもわからない、オルマだけの心。


「あれからずっと一人なのか?」


もう七年近くになる。シャクスは聖騎士の道を歩み、オルマは宮廷に仕えることを拒んで普通の女へとなった。

その気なら、同じ聖騎士の道を歩めたかもしれない。

そんな彼女だからこそ気になる。


「まあね。ほら、あたしって男に尽くすタイプじゃないからさ、だ〜れも寄って来なくて」


きっと、オルマは男を作って身を守るほど器用ではない。


「そういうアンタはどうなの?シャクス」


「同じだ」


「ダンタリオンもでしょ?ダメねぇ。聖騎士と賢者なんて地位にいる男二人が情けないわよ?」


答えることもなく、聞き流した。

そういう話は得意じゃない。まあ、話をふったのはシャクスなのだが。

ついさっきまで追い、追われた者の雰囲気はなく、それを喜ぶかのように海鳥の群れが合唱している。

こんなことですら戦う者達には十分な休息になる。


「時間を終わらせる………そんなこと本当に出来るのかな」


不意にオルマから現実に呼び戻された。

幸せを感じることにたまに恐怖感を覚える。

理由はある。二十七年生きて来て、一番輝いていた季節は三人でいた時。思い出に縋るような生き方は好きではないが、女一人で生きてるのだから無理もない。

時間を終わらされ、思い出まで奪われるのは御免だ。


「伯爵は噂では別の世界から来た者だと言われている。俺達の常識なんかでは計り知れない何かを知ってたとしても不思議じゃない」


「……………。」


「なんだ?」


オルマにじっと見つめられ落ち着かない。


「そういう言葉が出て来るってことは、やっぱりサン・ジェルマンに不信を抱いてるってことね?」


「少なくともそう思ってるのは“俺達”だけだ。国はそう思っていない」


自分がいなくなれば、エルガムから追っ手が来るのは時間の問題だ。それまでに真偽を確かめなければ彼女達を守ってやることは出来ない。


「でも真実はひとつ。誰にもそれは変えられないわ」


船が大陸へ着けば、そこでも戦いは待ってるのかもしれない。


「そういえば、大陸を渡ってどこに行くつもりなんだ?」


「輪廻の塔よ。ケファノスの肉体を取り戻す為に」


「魔王の為とは………」


「そうでもなければサン・ジェルマンと戦えないの。魔法は効かないし奇妙な技は使うし。クダイの友人も侮れないしね。戦える者が欲しいのよ」


町の敵討ちを成すには、ケファノスの力は不可欠。それに、魔王と恐れられていたにしては、随分話のわかる男だと印象している。


「少し疲れたわ。大陸に着くまで時間もあるし、休ませてもらうわ。アンタもゆっくり身体を休めなさい。シャクス」


ふわぁと無防備に欠伸を見せて、客室へと足を進めた。


「相変わらずだな」


オルマの無邪気な一面。嫌いじゃなかった。

視線を海に向け思いに浸っていると、


「あの〜………」


若い船員が、明らかに何かを言いたげに立っていた。


「なんだ」


言い掛かりをつけられる筋合いはない。


「乗船券を拝見したいのですが………」


鎧を見ればシャクスの身分は一目瞭然。安易に話し掛けたくないのが本音だ。とは言え、無銭乗船を見逃していい理由にはならない。


「乗船券………」


さすがにシャクスもまずいと思ったのか、慌てて金を数えるがおそらくは足りない。

船員の顔を見た後、


「急な任務で持ち合わせが無いんだ。だから一筆書いてサインをする。それを持ってエルガムの王室に請求するといい」


これなら建前はつく。偉ぶるのには気が引けたが、そこは我慢してもらおう。

船員は面倒臭そうな顔をしたが、


「聖騎士様がそうおっしゃるのなら。では後ほど用紙をお持ちします」


一応は納得したようだ。


「頼む」


頭を下げるべきはシャクスなのだろうが、船員が深々とそうした。


「恥をかかずに済んだか」


威厳があるからこその聖騎士。

安心したシャクスはまた海を眺める。

遠くの空がやけに赤黒く染まっていることに気付く。

そこは自分達が向かう場所だった。


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